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「し、シュリカ様!?」


 私は手を引っ張られながら、シュリカ様と一緒にお墓を出る。


「コウ様はあんな事を言っていますが、でも、でも……本当は――」


 歩きながら、なんとか誤解を解こうと私はコウ様の事を話そうとした。しかし、すぐに遮られる。


「わかっているわ。コウさんはちゃんと宿の人にリーゼさんの事を言っているのでしょ?」


「……えっ、あっはい。そうです」


 わかっていたようだ。じゃあ何でコウ様は私を……?


「きっとコウさんは、私を1人にしては駄目だとでも思ったのでしょうね」


 ……優しい人ね。とシュリカ様は私が見たことのない表情をする。

 今日……もう昨日だわ。昨日初めて会ったのだからかもしれないが、哀しそうに笑う何とも大人びた表情にみえた。

 それからは、会話もなく手を繋ぎながらシュリカ様に誘導される。



「ここが私の家よ」


 1軒の家の前で立ち止まった。

 暗くて外観はよく見えないが、大きい家とは言えない雰囲気だ。


「私、1人暮らしなの」


 カギを開けながらシュリカ様はぼそっと呟いた。


「そ、そうなんですか!」


 もしかしてコウ様はその事を知っていて私に頼んだのですか!? わかりました。私、シュリカ様を少しでも元気づけられるよう頑張ります!!

 よしっ!

 気持ちを切り替えて、招かれたシュリカ様のおうちにお邪魔した。


「靴はそこで脱いで」


「は、はい」


 ドアを入ってすぐ靴を脱ぐ。

 私が住んでいたお城は部屋でも靴だったが、コウ様の泊まっている部屋は、部屋に入ってすぐ靴を脱いだ。シュリカ様のおうちも土足厳禁のようだ。


「こっちよ」


 持ち手がついたロウソク立てに乗っているロウソクに火を点け、歩き出すシュリカ様に私はついて行った。


「ここが普段使っている部屋よ。寝室は二階にあるわ」


 そう言いながらテーブルにロウソクを置いた。


「好きなとこに座って」


 おしりに敷くもの渡された私は、テーブルの前に行きそれを敷いて座る。

 シュリカ様は慣れた様子で暗い中、どこかに歩いて行ってしまった。灯りはあるがぼんやりとしか見えず、何をしているかまではわからない。


「はい、水だけど」


 私の前にコップが置かれた。


「あ、ありがとうございます」


 ソワソワとしながら私は一口飲みテーブルに戻す。


「……聞きたい事があるんです」


「ん? 両親の事?」


 私が質問しようとした事が返って来た。


「な、なぜそれを!?」


「さっき気になってそうな顔してたからさ」


 さっきというのは玄関でのことかしら。


「そうなんです。……で、でも、私だけ聞くのっていうのも悪いですよね! だから私がどうして今コウ様と一緒にいるのかを話すので教えてください!!」


 頭を下げた。


「……ぷっ、ふふふ、やっぱりリーゼさん面白いね」


「えっ、変なこと言いました?」


「いや、うん。私も教えてほしいな」


 どうして笑われたのだろう? どこが変だったのかな……と考えたが、わからなかったので私は話し始める。


「はい……私の本名はリーゼロッテ・パウエル・グランマレードと言います」


「……パウエル・グランマ……え!? もしかして!」


「私は、ウェース大陸の統率者ダミアの娘なんです」


 シュリカ様は驚いてか目を見開いた。


「え……、リーゼさんはお嬢様なの……?」


「違いますよ。今はコウ様の奴隷の身。身分なんて気にしないでください」


「リーゼさんがそう言うなら……」


 それから私はどうして今に至るかの経緯を話した。

 財政難のせいで売られたのを聞いて、お城から逃げ出して来たこと。数日逃げ回ったが、コウ様とぶつかり奴隷商人についに捕まってしまったこと。コウ様はそのまま私を買い取ったということ。私に逃げろと言った人が助けに来ると言っていたのに、音沙汰がなかったこと。その事が気になり怒られるのを覚悟でコウ様にお願いしたら許可してくれて、更にコウ様たちもついて来てくれたということ。そこで色々あったけど無事に会え、お別れを言えたこと。そして、ヴィンデルに帰って来てシュリカ様たちに会いました。と。


「……そっか」


 シュリカ様は最後まで何も言わずに話を聞いてくれた。


「次は私の番ね。私の両親はね、私が10歳の頃に死んでしまったの」


「…………」


 何も言わず、私は真剣にシュリカ様の話を聞く。


「昔から家を空ける親でね、そのおかげ……と言っていいのかな? この頃から家事全般は出来るようになっていたの。親の仕事は何をやっているか知らなかった。でも毎日ちゃんと帰って来てくれていて、私は何の疑問のなかったのよ。だけどある日、突然冒険者ギルドの人が来てね、両親が死んだって教えてくれたんだ。いきなりの事で驚いたわ、まさか冒険者だったなんてね」


 昔を思い出しながら喋るシュリカ様は徐々に早口になっていた。


「街に帰る途中で特異個体と遭遇したらしいのよ。死体もその魔物に食べられたらしく、残っていたのはお母さんが使っていたこの弓とお父さんの折れた槍、あとは散らばったボックス内のアイテムだけ。私はアイテムを売り、お金を貰ったわ。2人とも強い冒険者じゃなかったから大金が入り込むわけでもない。でもね、お金がないと私は生きていけなかった。私は親が残してくれたお金を切り崩しながら生活をしたわ。唯一売らなかった、お母さんが残してくれた弓の練習をしながらね。今思えば両親を殺した魔物に復讐をしようと考えていたのね。とっくに討伐されているというのに笑える話よね」


 自虐を言いながらも淡々と話すシュリカ様。時に鼻をすすりながら、目を擦りながらも話は続いた。


「切り詰めた生活をしても5年は長かったわ。アルバイトもして何とか生き抜き、15歳になった時に私も冒険者になったの。それから街の外に出たわ。依頼より魔物を倒したかったのよ、仕返しをしたかった。ヴィンデル周辺の魔物は遠くからの射撃で倒せたからといって、初級ダンジョンにも乗り込んだわ。敵討ちだと、かたきでもない魔物に向かってね。でも、ダンジョンは甘くなかった。途中までは進んでいたけど、通路が狭くて長距離から狙えない。私は接近戦ができる武器を持っていなかったの。何も考えずに進んでいたせいで道もわからなくなる。最後には3体の魔物に見つかってしまった。死が頭に浮かんだわ。1体は倒せた。2体目も何とか間に合う。しかし3体目が確実に間に合わなかったの。今でも鮮明に覚えているわ。後ろに下がりながら5メートルも離れていない2体目の魔物を射ったあと、踵がわずかな段差に引っ掛かかって尻餅をついてしまったのよ。目の前には魔物。座ったまま矢を撃とうとしても矢筒の中身は手の届かない場所に落ちていた。その時にね。ハセルとスティナが助けてくれたのよ。2人と初めて会ったのは両親が死ぬ前だったけど……その時は一緒に遊んだりもしていたけど、その後の交流はなくなっていたけれど、2人は私の事を覚えていて、そ、それから、……私は、私たちは、また一緒に、行動、するよう、に、なったの……」


 すびっ、と聞こえる音。シュリカ様はもう涙を抑えきれなくなっていた。


「シュリカ様」


 私はシュリカ様の隣に行き、体をぎゅっと抱きしめる。

 こういう時は誰かに近くにいてほしいくなる。状況は違うが私はそうだった。


「……り、リーゼさん……。もう、ハセルとスティナには……」


 私は何も言えず、シュリカ様の背中を優しくさする。


「うぅぅ――――」


 泣き声だけが静かに響いた。



「……寝てしまいましたか」


 泣く声が聞こえなくなると、「スースー」と一定のリズムで寝息が聞こえてきたのだ。

 シュリカ様を起こさないようにゆっくりと横に寝かしてから私は立ち上がった。

 寝室は二階って言ってましたよね。

 テーブルに置いてあったロウソクを持ち、その灯りを頼りに階段を見つけて二階に上がる。

 二階に上がり、階段から一番近い部屋のドアを開けた。

 あった!

 ベッドを見つけた。シュリカ様の部屋なのだろう。

 ベッドから1枚布団をボックスに入れ再び下に戻る。

 寝ているシュリカ様の上に持ってきた布団を掛けて、話を聞いていて時にいた場所に私は腰を下ろす。


「…………リーゼ、さん……ありが、とぅ……」


 んんっ!? ね、寝言……?

 シュリカ様の顔を見ると、布団を掛けたときと同じように目をつぶっていた。


「……私も寝ようかな」


 私はその場で横になり目を閉じた。



 ----



 俺は目を覚ました。


『163年8月26日 11時05分47秒』


 もうこんな時間か……昨日は遅かったからな。

 まだ眠たいが、ギルドに行く用事があるのでベッドから体を起こす。

 昨日はルナの案内で、迷うことなく宿までたどり着いた。初めて行った場所なのにどうして道がわかるのか、疑問だったから聞くと、「感覚だよ。宿の方向はあっちだからその方向に向かって進めば知ってる場所に出るでしょ?」と言われてしまう。

 そんなこと言われても私にはわかりませんでしたよ。

 口には出さず、心の中で俺はそうぼやいたのを覚えている。

 となりを見ると予想通りルナはまだ寝ていた。

 1人でギルドまで行くか。

 ベッドがら降りて身支度をしてから宿を出た。



 ……これからどうするかな。

 大通りを歩きながら俺は考えた。

 9月になったらこの街にいなくてもよくなるわけだ。でも行く当てもないしな。……2人にも聞いてみるか。あとはシュリカだが、俺たちとついてくるのかは自分で決めてもらいたいと思うな。

 俺的にはあの2人に任されたのだから一緒に行きたいと思っているが、シュリカが断るのなもうら数ヶ月は残ってからヴィンデルを出るか。

 うん、そうするか。


 考えがまとまってからは何も考えないように歩いていたが、それでも昨日の事を思い出してしまう。

 俺があの時しっかり引きとめていれば……。

 もう過ぎたことだ。過ぎたことは変えられない。そんなのはわかっている。でもやっぱり考えてしまうのだ。


「……着いたか」


 暗い気分のままギルドに到着してしまう。

 マクシさんは宿を出るときに会ったからここにはいないんだよな……。

 ギルドに入り、手が空いている受付の人の所に向かった。


「こんにちは、今日はどういった御用ですか?」


 受付の典型文みたいな言葉で話しかけられる。


「あの……友人が昨日ダンジョンでし……亡くなってしまったんです」


「お悔やみ申し上げます」


 受付の人はそう言い頭を下げる。

 俺は別にそんな言葉をもらいに来たわけではないんだよッ。


「昨日の夜、北西の墓に埋めさせてもらった。わかりやすいように剣と杖を上に立てておいたからわかるはずだ。ギルドで手続きするって聞いて来たんだけど」


「はい、わかりました。失礼ですが亡くなったお方のギルドカードはお持ちですか?」


 カード? 持っていないな……ルナかシュリカが持っているかもしれない。


「俺は持っていないんだが、必要なのか?」


「はい、なければ墓標が有料になってしまうんですが……」


「後で持ってくるのは駄目か?」


「大丈夫ですよ。明日には出来ますからお願いします。あと、……失礼かもしれませんがお墓に立てた剣は抜いて来てもらえませんか。誰かが勝手に使うという可能性もありますから」


「――ッ、……わかりました!」


 苛立ちを抑えながら俺は受付から離れた。


 理屈では理解できてもイラッとくる事もある。

 受付の言っていたことは正論だ。俺が怒る方がお門違いなんだ。でも、なぜだが気分が悪くなった。


「……はぁ」


 ハセルたちの事を悪く言っているような気がしたんだろうな。あの人は仕事なんだからそう言うしかなかったのに。


「…………はぁ~」


 墓場に行くか。

 俺はギルドを出てから、一旦西に向かって歩いて行った。



 ----



 トントントン、トントントントン


「…………ん?」


 何の音……?

 私は重い瞼を開けた。


「…………」


 目の前にはテーブルの脚が。

 あれ? 私どうしたんだっけ。帰って来てリーゼさんの話を聞いて……私も話して悲しくなって泣いちゃったんだ……。恥ずかしいな、リーゼさん覚えてるよね。

 トントントン

 私、泣き疲れて寝ちゃったのか。

 自分の体に掛かっていた布団に気づいた。

 ……布団? 持って来た覚えはもちろんない。

 トントン

 ……さっきからこの音は何?

 私は体を起こした。

 鼻孔をくすぐる匂いがすることに気づく。

 クンクン……いいにおい……。

 寝ぼけまなこを擦ってキッチンの方を見た。

 キッチンには1人の女性が動いている姿が見える。


「…………リーゼさん!?」


 ビクッ、と体を震わせた女性は私の方を見るなり、「お、おはようございます。勝手にキッチン使わせてもらっています」と言ってきたのだった。



「いただきます」


 湯気が立ち昇る出来立ての朝ご飯に手をつけた。


「……美味しいです!」


「お口に合って良かったです」


 リーゼさんは微笑みを浮かべてからご飯を食べ始めた。


「……昨日はごめんなさい」


「何がですか?」


「えっ?」


 確かに何がだろう。謝りたい事はいくつかあった。

 泣きついてしまった事、勝手に寝てしまった事、今ご飯を作ってもらった事、……あと、両親の話をすると言っておきながら私の思い出話を長々としてしまった事。


「えと……色々と……泣きついたり、両親の話だけじゃなかったり、変なこと言ったりしてごめんなさい」


「変なことですか……? 特になかったと思いますけど?」


 本当に心の底からそう思っているらしく、リーゼさんは真顔で聞き返してくる。


「え……あっと、そう……でしたか?」


「はい」


 話はここで終わった。黙々と朝食を口に運ぶだけの時間になったのだ。だけど、私はいつもと違う気分だった。いつもは1人で何も考えずに朝ご飯を食べていたのに、時には食べない事もあったけど、でも今は私の前には人がいる。会話をしていなくても私の事情を知っている人が目の前に。それだけの事だが安心感が私の中にあった。


「ご馳走様でした」


「はい、お粗末様でした」


 リーゼさんはそう言うと、食器を片付け始めた。


「あっ、片付けくらい私がやります」


 そう言うが断られてしまう。


「……じゃあ、一緒にやります」


 そう言うと、「では、お願いします」と笑顔で言われたのだった。



「……リーゼさんていくつなんですか?」


 横に立つとわかりやすいが、リーゼさんの身長は私より高い。私の頭のてっぺんがちょうどリーゼさんの耳の辺りになるだろう、数センチの差だ。あとリーゼさんの綺麗な容姿、包容力、その他諸々。これを持っているリーゼさんは、お姉さんと思える存在に私の中ではなりかけている。私もこんな女性になりたいと思った。だからというわけではないが年齢が気になったのだ。


「歳……ですか?」


「はい」


「私は15歳ですよ」


「そ、そうなんですか……!」


 15……15歳……。私より1つ下。年下なのに私よりしっかりしてるし、ご飯も美味しい。わ、私だってご飯は作れるけどあんなに美味しかったかな? 何も考えずにただ作ってただ食べる。食べられればいいと、そのことしか頭になかったのだもの、美味しいわけがないわ。


「あと、シュリカ様、私に敬語は不要ですよ。コウ様やルナ様と同じように軽く話してくださいね」


 負けたわ、と心で打ちひしがれているとリーゼさんはそんなことまで言ってきた。


「い、いいけど……何でそんなこと言うの?」


「ほら、私奴隷じゃないですか。だからですよ」


 これでもコウ様にはよくしてもらっているんです。とリーゼさんは主人の話に入っていく。

 奴隷を持っている人はお金持ちだ。儲かっている商人、活躍している冒険者、大陸やその地域の偉い人たちだろう。そんななかコウさんが奴隷を持っているというのはいざ考えると不思議だったけど、これだけ美人なら買ってしまうのも無理はない。リーゼさんの話を聞き流しながら、女の私でもそう思ってしまった。



「そろそろ、ハセルの家に行こう。おばさんたちも心配してると思うし……」


 片付けを終わらせてから私はそう言った。


「はい……」


 リーゼさんの返事が暗い。私の気持ちも重かった。

 何て話せばいいのだろう。何であんただけ生きていたの! と罵倒が飛んできそうだ……いやハセルの両親は優しいから大丈夫かな。……でも、優しい言葉をかけられる方が辛いかも……。


 うちを出て10分ほど歩くとハセルのうちはある。スティナはハセルと暮らしていた。詳しい事情は知らないけど、スティナの両親はスティナが幼い頃他界してしまい、親同士の仲が良かったのもあったらしくハセルの家で面倒を見てもらっていたそうだ。

 子供2人を同時に亡くすというのはおばさんたち大丈夫かな……。


 そんな事を考えていたらハセルの家の前まで着いてしまった。


「…………」


 家の前に立つが勇気がなくノックが出来ない。


「……大丈夫ですよ、私もついています」


 隣から声をかけられた。


「……うん」


 意を決して私は扉を叩いた。


「はーい」


 そんな声と共に玄関は開かれる。


「あらシュリカちゃんと……」


 おばさんはリーゼさんを見て言葉に詰まっていた。


「あっ、私、リーゼロッテと言います」


「り、リーゼロッテさんね、いらっしゃい」


 リーゼさんが自分の名前を言うと、すぐ受け入れてくれたみたいだ。


「取り敢えずうちに入る?」


 おばさんはハセルの事を聞かず最初にそう言った。気になっていると思うのに。


「いえ……今日は大事な話があるんです。ここでもいいですか?」


「そう? なにかしら」


「あの……ですね、その……ハセルとスティナの事なんですが……」


 ……逃げるな私。ちゃんとおばさんの目を見て言わないと!


「ハセルとスティナは、な、亡くなりました。私が弱いばっかりに……すみませんっ!」


 目を見て言い切った後、頭を下げた。

 ……………………。

 無言の時間が続いた。

 言葉は何もなく、そっと私の頭に手が置かれる感触があった。


「……教えてくれてありがとう。シュリカちゃん、生きていてくれてありがとう」


 私は頭を動かせなかった。おばさんに手で押さえつけられているというわけではない。むしろ優しくなでてくれている。私は、私だけ生き延びてしまった申し訳なさに動けなくなってしまったのだ。


「お墓はもう立てたの? お墓参りに行きたいわ」


「…………」


「はい、昨日立てました。墓標はまだですけどそれでもよろしければご案内します」


 私が喋らないでいたせいでリーゼさんが答えてくれる。ありがとう。


「ちょっと待っててくれる? すぐ準備するから」


「はい」


 おばさんは家に戻り、扉は閉まる。


「……ぐずっ」


「……シュリカ様」


 肩に手を置かれたと思うと、力強く動かされる。


「――きゃっ!?」


 リーゼさんを正面にするように向けられた私の体は、リーゼさんの体温に包まれた。


「こんなことしか出来なくてすみません」


 そう言葉を添えられて。


「ううん、ありがとう。………………もう大丈夫」


 数秒ぎゅっとしてもらうだけで勇気が湧いた。

 おばさんも良いタイミングで戻って来る。


「お待たせ、案内お願いね」


「「はい」」


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