表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/79

028

「――はぁ、はぁ……。や、やっと、やっと外に着いたー!!」


 ダンジョン出入り口。

 そこで俺はハセルをおぶったまま地面に突っ伏す。

 外はすでに暗闇に覆われていた。


『163年 8月26日 2時12分01秒』


 ……2時!? 半日以上ダンジョンにいたっていうのか!

 ダンジョンの中では時間を調べようとはしなかったから、時間感覚が狂っていた。


「こ、コウ様、真ん中だと人が来たときお邪魔になってしまいますよ」


「い、いやぁ、ついね」


「みんなボロボロだね」


 ルナは俺、リーゼ、シュリカを見ながら言う。


「そうだな。シュリカの矢が切れた時は焦ったぞ」


「私も助けに行こうと思ったんですが、ルナ様に止められてしまいまして……すみませんっ」


「謝ることじゃないぞ。俺が休んでろと言ったんだし、あの部屋を乗り越えたら次は2人の出番だったんだから。途中まで結構きつかっただろ?」


「は、はい。そうでしたけど……」




 大部屋での魔物との戦い。

 隠密で最初はいくはずだったが、途中で気づかれてしまったため俺が囮となる作戦に勝手に変更したのだ。

 部屋の真ん中で魔物の注目を浴びた俺は、近づいて来る魔物を斬っていく。

 一度、一撃でゴブリンを倒せたからといって次も出来るというわけではなかった。それでも2、3撃与えれば倒せた。俺は動きを最小限にとどめようと努力しながら魔物を倒す。

 遠距離から魔物を狙撃するシュリカ。

 最初にちょこまかと動くバッドを全滅させてくれたおかげで戦いやすくなる。

 囮作戦が始まり5分くらいが経ったときだろうか。俺の近くを火が飛んできた。

 火はコボルトを撃ち抜き、そのままコボルトの直線状にいたゴブリンに直撃する。

 しかし、ゴブリンを倒しきれずに火は消えてしまった。

 火の正体は矢だった。俺が前にシュリカにプレゼントした物だと思われる。

 火の矢はもう1回飛んで来た。

 先程のゴブリンに直撃、貫通。

 そして次は、矢ではなくシュリカ自身が走って来たのだ、俺の貸した短剣を片手に持ちながら。


「やああぁぁぁぁ!!」


 と言う声と共に、ゴブリンに後ろから短剣を背中に刺している。返り血を浴びることもお構いなしで。


「シュリカ!!?」


 俺は予想外の行動に驚き、回避を忘れコボルトの攻撃を数回受けたが、たいしたダメージではない。

 コボルトが攻撃し終えた瞬間に仕返しとばかりに斬り込み、シュリカに近づいた。


「どうしてここに来たんだ!!」


「矢が、なくなっ、たんです!」


 短剣を数回突き刺したゴブリンが動かなくなり、シュリカは短剣を抜き取りながら答えている。


「ボックスに入れてある分もか!?」


「――そんなお金ありません!!」


 シュリカと背を合わせるようにして、近くに来る魔物を倒しながらの会話になる。


「それなら、――くっ、りゃぁ! ルナたちの方に行ってても」


「駄目です! コウさんを1人にして何かあったら私は……私は立ち直れません!」


 声のトーンを落としながら、それでも戦闘音に負けない声量でシュリカは喋る。

 これでシュリカの身に何かがあったら俺が立ち直れなくなるのだが、そんなことはシュリカの考えにはないようだ。


「……わかった。あと数体だ、背中は任せた!」


「はッ!」


 返事の代わりか気合の入った声と斬り裂く音が聞こえた。



 それから数分。

 無事に部屋の魔物を殲滅した俺とシュリカは、ルナとリーゼが待っている所まで戻った。

 リーゼが心配そうに大丈夫かと聞いてくる。対してルナはこのくらい当然でしょ、とでも言うかのようにお疲れと言ってきたのだった。

 心配されるのも信頼されるのも嬉しい事だと今この場で確信した。


 後ろから来る魔物はいなかったらしく、暇だったよと言うルナに、自分の手では届かない傷に塗り薬を塗ってもらう。魔法を使わないのは魔力温存のためだ。シュリカはリーゼにお願いしてやってもらっている。

 塗り終えてから、来るときと同様にハセルとスティナをおぶり、リーゼを先頭に先に進んだ。

 魔物はちょくちょく出たものの、俺とシュリカの手は使うことなく、敵が複数の時はリーゼが前で押さえルナが仕留めるという形で次々に突破して行く。

 8層辺りまで来ると俺たち以外にパーティを組んでいる冒険者と遭遇。アイテム探しに来たのだろう。それか、ダンジョンに潜っている最中にボスが倒され、そのままアイテム探しに残っているかだ。どちらにせよアイテム探しにはかわりないか。

 何も言わず、お互い邪魔にならないようにすれ違う。

 あっちの人たちがどう思ったのかは知らないが、背負っている人を見たため声をかけなかったという気がした。


 8層から上はさっきのパーティの人たちが倒していてくれたのか、1体で行動している魔物としか出会わずに地上まで帰って来れたのだ。




「リーゼが大部屋で戦っていたら、疲労で途中もっと苦労したかもしれないんだぞ? だからこれで良かったんだよ」


「はい……」


「……よしっ、あと1つやる事があるから、疲れてはいるけどそれまで我慢してくれ」


「やる事?」


「……うん」


 ルナは何かわかっていなかったが、リーゼとシュリカはわかったようで、リーゼは無言で頷き、シュリカは小さな声で返事をする 。


 ヴィンデル街に戻る道中。

 俺はシュリカに墓地の場所と使い方を聞いた。場所は北西。街の周りを囲っている外壁をたどって歩いて行けば着くそうだ。


「こんな遅くに行っても大丈夫なのか?」


「……大丈夫です。あそこは出入り自由ですから」


「そうか。……案内お願い」


「うん……」



 街に到着する。

 街の中も、外と同じくらい暗かった。ほんの少しだけ明かりがついている所もあるが、それ以外は月の光のみである。

 暗い中シュリカを先頭に、街に入ってすぐ右方向に歩き出す。

 外壁をたどってどんどん進む。この間は誰も口を開くことなく、終始無言のままだった。


「ここです」


 そう言いシュリカは立ち止まる。周囲に人の気配はない。

 俺は前方を見るが辺りが暗くてぼんやりとしか見えなかった。


「……灯り点けても大丈夫か?」


「問題ないと思います」


「ルナ、小さい火を常時出しておけるか?」


「うん? ――こう?」


 両手を水をすくうような形にすると、その上に火の玉が出現する。

 ルナのおかげで俺たちの周囲は少しばかり明るくなった。

 ルナに先頭を代わってもらい、少し進むと木の柵が立っていた。その柵の奥には何かが地面に突き刺さっているのが見える。

 目を凝らすとそれは十字架の形をした物だ。よく見れば近くに他の十字架がいくつも立っている。

 ここは墓場なのだ。この十字架は墓標でこの下に人が眠っているんだろう。


「確かこっちからは入れます」


 シュリカは俺たちを案内する。

 柵が切れた場所があった。その近くには看板があり、『墓場』とシンプルにそう書いてある。

 そこから中に入ると予想よりはるかに多い数の十字架が立っていた。中には十字架にブレスレッドや、花飾りがついている物もある。

 墓場の中を徘徊して開いている場所を探すが、ふと疑問が俺の頭の中をよぎった。


「……これって勝手に埋めても良いのか?」


「あとでギルドに届けを出せば大丈夫って聞いたことがあります……」


 シュリカは小さい声で答える。


「そうなのか」


「ここあいてるよー」


 ルナが良い場所を見つけてくれたみたいだ。火の玉でその場所を照らしている。

 この辺りはまだ墓として使われてないみたいで、地面には何も立っていない。


「掘るか、あっ……」


 自分で言って思い出した。穴を掘る道具がないのだ。剣では掘れないし……俺スコップなんて持ってないじゃん! 買いたくても今の時間お店やってないからなぁ。


「……わ、私に家からスコップ持ってきます。少し待っててください」


 シュリカも気づいたらしく、スティナを背中から降ろしている。


「待って! どれくらい掘ればいいの?」


 ルナは、歩いて行こうとしたシュリカを止めて聞いてきた。

 俺に聞かれてもわからない。なんせお葬式の経験がないもの。

 もし、悲しいけどそういう経験があったとしたら、お墓に埋葬される瞬間を見ていたかもしれない。そうだったらどれくらい掘られているとかわかったのに。

 ……そういえばこっちは土葬なんだな。火葬と土葬はどう違いがあるのかはわからないし、この世界とあっちの世界での違いもあるだろうからな。

 何もわからないんだな俺は……。

 自分の情けなさを改めて実感しながら無言でいると、リーゼが口を開いた。


「2、3メートルくらい掘れば良いのではないでしょうか? 横に寝かせてあげられれば一番良いのですが、最低でも座らせてあげられるように出来ればいいと思います」


 知っているような口調で教えてくれた。城の兵士の埋葬を見て覚えていたのだろうか。


「2、3メートルね。ちょっと待ってて……」


 ルナは出していた火を消すと、地面に手をあて目をつぶった。


「ん?」


 何をやっているんだろう?

 そう思うと同時にルナの横に土が盛り上がるのが月の明りで見えた。


「うおっ!」


「わっ!」


 俺とシュリカは同時に驚いた。リーゼは驚くことなくルナを見ている。


「このくらいでいいかな?」


 ルナが再び火の玉を自分の前に出す。前には人が2人ほどは入れる穴が開いていた。


「えーっと……、十分です! ありがとうございます」


 リーゼはその穴を覗き込むなり言う。


「コウ様、シュリカ様、ここにお二人を寝かせてあげましょう」


「あ、う、うん」


 呆気に取られていた俺は、固まっていた体を動かし穴の前まで行く。

 穴の中は横にして寝かせられるくらいの大きさだった。


「俺が下行くから上から2人をお願い」


 そう言い残し、穴の中へ滑るようにして降りた。

 ……暗いな。

 上で、ルナが出した火の灯りに目が慣れてしまっていたからか、穴の中はそこまで深くないのにもかかわらず暗く感じた。

 ……ここは墓地なんだよな。ということは俺の近くには埋まっている人がいるかもしれないのか……。

 ――ゾクッ

 いかんいかん、変な事を考えるな。

 首を横に振り頭から追い出す。


「コウちゃーん、行くよー」


「おーう」


 ルナの声を聞き上へと視線を向ける。

 足から人が俺の方に向かってゆっくりと動いてくる。しかし、手を伸ばしてもまだ届かない距離だ。


「もう少し」


「は、はいっ」


 リーゼが返事をすると、更に降りてくる。

 俺の手が足首を掴める所まできた。


「届いた! ゆっくり離してくれ」


 ずずず、と土に擦れながらも降りてくる。


「よいしょっ!」


 上でリーゼたちが手を離したのだろう、体が俺の方に向かって倒れ込んできた。

 足首からちょっとずつ上へと手の位置を変えていた俺は難なく上半身を受け止めた。

 ……ハセルか。

 ここで降りてきたのはハセルだということがわかった。暗くてどちらなのか見えなかったのだ。


「だいじょぶですか?」


 シュリカの声が聞こえる。


「おう」


 返事をして上を向くと3人が俺の事を見ていた。

 ルナはいつの間にかに火の玉を出して、穴の真上に置いていた。そのおかげで穴の中は完全に見えるようになる。

 これってもしかして大役なのか……。

 緊張も混ざりながら俺はハセルを横に寝かせ、手を胸の位置で組ませる。


「オッケーだ」


 再び上を向くと3人はジッと見つめていた。俺ではなくハセルを。

 ……そうだよ、もう会えないんだよ。

 この街にいればどこからともなく現れて、また話をしたり、依頼を受けたり、ダンジョンに行ったりとできると、墓にいるにもかかわらず、今埋めようとしているにもかかわらず、心のどこかで思っていたのだ。

 ……そうだよな……。

 ハセルとスティナが死んですぐは、もう話せないんだと心の底から悲しくなった。しかし、ここに来るまで、ハセルをおぶっている最中はそんな事を忘れていた。いや、忘れようとしていた。背中に当たるハセルが冷たくなっていくのも考えず。

 …………。


「コウちゃん、スティナちゃん行くよ」


「お、おう」


 感傷に浸っていたらルナから言われる。

 先程と同様にスティナを受け止め、ハセルの横に寝かせた。

 ………………。

 2人を寝かせたら俺の立つスペースがほとんどなくなっていた。

 行儀が悪いかも知れないけど許してくれ。

 2人の足を跨ぎながら俺は胸に組んだハセルの手を解き、スティナの手と組ませる。

 うん、こっちの方が良いな。

 目をつぶった2人。顔色は悪いが、安らかに眠っている2人を見つめる。

 さようなら……、シュリカの事は頼まれたからな。

 手を合わせそう心で語った。



「コウ様、捕まってください」


 リーゼに差し伸ばされた手に俺は掴まった。


「行きますよ、せーのっ!」


 掛け声と同時に俺の体は持ち上がる。

 引っ張るリーゼの負担を少しでもなくすように、足を土に刺しながら上がった。


「ありがとう」


「はぁ、はぁ、い、いえ……」


 ……俺ってそんなに重いのかな。

 疲れきったリーゼを見て思う。が、そんなこと今はどうでもいい。


「土かけちゃうよ」


「あっ、ちょ、ちょっと待って!」


 シュリカは穴の中に顔を向けたまま言う。

 ルナは気遣ってか、穴を埋めるため消していた灯りを穴の上に出現させた。



「……ありがとう、もう大丈夫」


 シュリカは穴から離れた。

 お別れの言葉は伝え終わったのだろう。

 灯りがシュリカの顔を照らしているが、俺からは影がかかっていてよく見なかった。



 ルナの魔法で土を動かし2人を眠らせた俺たちは、埋めた場所がわかるように少し山を作り、上にハセル愛用のサーベル、鞘付きのままのとスティナ愛用の小さな杖を立ててから3人で合掌。


「……シュリカ、これからどうする?」


 目をつぶり一番最後まで手を合わせていたシュリカが目を開けたのを確認して、俺は問いかけた。


「どうする……ですか?」


「ああ、俺らは宿に泊まっていることは知っているよな」


「うん」


「俺たちは宿に戻るけど一緒に行くか? それとも自分の家に帰るか?」


 今は両親といるより近い歳の人といた方が良いかもしれない。そう思ったのだ。

 歳の近いと言っても、もちろん俺ではなくリーゼだ。同性の方が良いに決まっている。


「……いえ、うちに帰ります。……明日ハセルの家に行って報告しなきゃいけないですし」


「そ、そうか。……あっ、そうだ! 良かったらリーゼを泊めてもらってもいいかな?」


 どうして? という疑問がシュリカから返って来た。まぁ当たり前の反応だな。


「実はさ、リーゼの事はまだ宿の人に言ってないんだ」


「コウさ――んんッ!?」


 隣にいたリーゼが何か口走ろうとしたのを、俺はリーゼの肩に手を置き強く握ることで防ぐ。


「だからさ、1泊……いや、2日くらいお願いしたいなぁー、なんて思っていたり?」


「……そうなんですか。もしかして昨日はリーゼさんの事を隠していたんですか?」


「うっ!」


「犯罪ですよ!! わかりました、コウさんがそんなことするとは思いませんでした。リーゼさん私のうちに行こ」


 シュリカはそう言うとリーゼの手を掴んだ。


「あっ、えっ!? コウ様!!?」


「ギルドには俺の方から言っとくからな!」


 返事は返ってこない。シュリカはリーゼを連れて闇の中に消えてしまった。


「…………はぁ~」


 強引過ぎたかな……。


「コウちゃん、また嫌われたね」


「笑い事じゃないぞ。嫌われているのに話しに行くのって結構つらいんだぞ、精神が……」


 次会ったときどう言えばいいのだろう。このまま突き通して、ちゃんと許可を取ったと言えばいいのか?


「きっとシュリカちゃんもわかってるよ。あたしもわかったんだもん」


「……そうか? そうだといいなぁ」


「リーゼちゃんはわかってなさそうだったけどね」


 確かにリーゼは困ったような顔をしてたな。


「ははは、まぁ何とかなるだろう。……帰ろうか、ルナ」


「うんっ」


 ……所でここはどこなのだろう?


「……案内は任せたぞ」


「…………」


 ルナから鋭い目線で精神をやられるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ