026
「たてッ!!」
緑のハーピーが赤いハーピーの上で何をしようとしているのかを見ていたら、ルナ様が私の前に来て両手を前に突き出した。
片手に杖を持ったまま、ルナ様が出した手の、数メートル先の地面から上に複数の火柱が上がり、盾として展開される。
――瞬刻、強烈な熱を持った風が私とルナ様を襲う。
前からの風は火柱のおかげで防げていたが、前方からの攻撃を防げても横から来る突風に煽られる。
「にゃ!?」
「ルナ様っ!」
私はルナ様の体を掴んだ。
ルナ様は風圧で体が飛ばされそうになっていたのだ。
私では微々たるものだがルナ様を支える。
これでも体は右へ左へと風で動かされる。
時折風に紛れて飛んでくる鋭い羽をかすりながら、私はルナ様に羽があたらないよう、自分の体で防御した。
10秒程度の時間が過ぎ、風が止む。
「……終わった」
両手を下ろしたルナ様は、疲労の色を見せていた。
「る、ルナ様ありがとうございます」
私もルナ様の体を支えていた手を離し隣に立つ。
火柱が消えた先には先程と変わらない2体の姿が。
私は剣と盾を構え直す。
「あっ!?」
すると、隣でルナ様は何かに気づいたように驚いた声を上げた。
「どうしたんですか!」
目を2体のハーピーから離すことなく、私は口を動かす。
「……スティナちゃんとハセルちゃんが……」
ルナ様の小さな声が私の耳に届く。
「えっ?」
いつもの聞きなれた声ではないことに私は驚き、ルナ様の方を振り向いた。
向いた先には、ルナ様の愁いを帯びた顔。その先には、至る所に羽が刺さったハセル様とスティナ様が2人重なって倒れている姿が見えた。
「……………………え……?」
2人は体に赤いものを付け、地面にも赤い色が付いている。
………………。
思考が停止する。何も考えられなかった。
「――リーゼちゃんっ!」
ルナ様の叫びと共に、お腹を思いっきり押された。
「がッ!?」
押された体は背中から地面に落ちる。
私を押して一緒に倒れたルナ様は、私の体の上に乗っていた。
「ルナ様……!?」
顔を起こすと、私たちがいた場所には白い羽が。ハセル様とスティナ様に刺さっている羽と同じような物が地面に突き刺さっていた。
「だいじょぶ?」
「はい……ありがとうございます」
何度目だろうかルナ様に助けてもらうのは。このダンジョンに入ってからも、それまでも、幾度となく助けてもらっている。
私……ううん。足手まといにはならないって決めたんだ。
「リーゼちゃん、2人はまだ死んでないよ」
「はいっ、早く助けに行かないと」
見たことはないが、人は死んだらボックスの中身がその場に散らばってしまうという。それがあの2人には起きていない。という事は生きているという証拠だ。
「早く倒さないとね……」
ハセル様とスティナ様の所に行かせないようにするかのごとく、私たちの前に緑のハーピーは立っていた。
赤のハーピーは!?
先程までいた場所にはいない。
視界に緑のハーピーを捉えながら探す。
……見つけた!
赤いハーピーはコウ様とシュリカ様の方にいた。
「あっちはコウちゃんたちに任せよう」
私が視線をさまよわせたのにルナ様は気づいたようだ。
「……わかりました」
何とかしたくても私の力では無理という事はわかっている。今出来る事だけをする。そう私は考えた。
「ルナ様、私がハーピーを引き付けますので魔法をお願いしても良いですか?」
「で、でもリーゼちゃん1人で……」
「出来ます、やらせてください」
ルナ様の言葉の途中で口を挟む。
「……わかった」
ルナ様は私の気持ちを察してくれたのか、少し悩んだ様子はあったが許可してくれた。
「詠唱に時間かかっちゃうけど大丈夫?」
「もちろんです!」
私はそう言い緑のハーピー目掛けて走った。
左手で盾を自分の前に構え、右手で剣を強く握る。
「はああぁぁぁぁっ――!?」
走り進み、残り5歩程で攻撃が当てられる、という場所に来て緑のハーピーが片羽を横に振った。
緑の魔力を纏ったいくつもの鋭い羽が私に襲いかかって来たのだ。
「くっッ」
身を丸くして盾で顔と上半身を守る。
足や盾に入りきらなかった腹部に痛みが走るが、気にせず私は前に出た。
「はあッ!」
右から左に剣を振るう。
よしっ。
ダメージを与えた感触があった。
続けて左から戻すように右に斬る。
斬った後に緑のハーピーが動いた。
左羽を私に向けて振ってくる。
また羽っ!
そう思い右に動かしていた剣を引き、盾を構えて致命傷を防ごうとする。が、予想とは異なり鋭い衝撃が私の体を後ろに飛ばした。
「キャッ!」
飛ばされた体を無理に止めようと考えず、地面に転がり自分の意思で動けると思った瞬間、流れるように立ち上がる。
立ち上がると、広げていた両方の羽を私に向けて動かしているハーピー。
この位置は!? 後ろにルナ様がいる位置だ!
「……守りの神よ聖霊よ、私に守る力を貸したまえッ! ――ブライトウィング!!」
盾を持っている手を胸にあて、ありったけの魔力を込めて言葉を発した。
言葉と共に、私の体の近くに小さい光の球が現れる。
光たちは前から飛んでくる羽に吸い込まれるように飛んでいき、飛んでいた羽は目標を変えた。――そう、私に。
方膝をつき、先程よりも体を丸め飛ばされてきた全ての羽を我が身で受けた。
ブライトウィング。
私が扱える数少ない魔法の1つ。しかし、使い勝手が悪い。
効果は、『自身の近くを飛んでいる無機物の目標を強制的に私に変える』なのだ。
つまり、自己犠牲で他の人を守る魔法だ。
これは相手の魔力で作られた攻撃も効果範囲内という事は実証済み。
ユリーナにこんな魔法は要らなかったと初めて使った時に言った事があるが、彼女は、「いつかわかります。この魔法があってよかったと思える日が。守りたい人を守れることの喜びが……」と答えていた。その意味がわかった気がした。私は今、ルナ様に託して自分を犠牲とする。無駄な事ではない。この先に進むための犠牲となるのだ。私は役立たずではない!!
羽は掲げた盾だけでは防ぐことは出来なかった。魔法の力で鋭利なカーブを描き私に向かってくるのもある。その内のいくつかが盾の横を通り、無防備な私の体に直接あたる。それでも堪える。
数秒だが、体感時間は長く感じた前方からの羽の雨は止んだ。
「あっ……」
体が揺れ、踏ん張ることもままならず前に倒れた。
どうしよう……指1本も動かす事が出来ない。でもルナ様を守らないと……!
奥歯を噛みしめ腕に力を加える。
「……!!」
この感じは……ルナ様の魔力!
体で感じられるほどの魔力が後ろから伝わってきた。
ありがとう。あとは任せて。
そう言うかのように。
体が風になびいた。何かが私の上を通ったのだろう。
――そこで私の意識は途切れた。
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特に作戦もなく俺は赤いハーピーに突っ込んでいた。
「うおぉぉぉぉ!」
何も攻撃してこないのを不思議に思う事もなく、ハーピーの懐に飛び込む。
右の翼がない手負いのハーピーに斬り込もうとした瞬間、体が真横に飛ばされた。
「ぐはッ!?」
左の翼で思いっきり殴られたのだ。
そのおかげか少し冷静になる事が出来た。
……爪でなくて良かった。
あれを食らったら致命傷だったかもしれない。
「ヤバッ!」
そんな事を思っていたら火の玉が俺に向かって飛んできていた。
横に転がることで何とか回避した俺は、片手で下段に剣を構え再び赤いハーピーに向かって走る。
俺の方を注目していたハーピーの顔に火の矢が突き刺さった。
シュリカが攻撃したのだろう。
ハーピーはよろけたものの倒れはしなかった。しかしそれで十分だ。
「はあぁぁぁッ!」
俺はその隙に残っていた左の翼に思いっきり剣を振りかざした。
翼は思った以上に固く、刀身が翼に埋まってからは中々刃を進ませることができない。
「ギイィイィィィ!」
悲鳴とも思える声が赤いハーピーから聞こえた。
だが、シュリカの矢により叫び声が止まる。
ふと、俺はハーピーが体の赤いオーラをさっきよりも濃くしていたことに気づく。
こ、これはやばいんじゃないか……?
このオーラはハーピーの魔力だと思われる。それが濃くなったという事は魔力を溜めているという事だ。
「クッ!」
気力を振り絞る。
「はあああぁぁぁぁァァ!!」
ガキっと固いものにあたる感触がしたが、力を緩めることなく、腕の痛みも忘れ両手を使い押し斬る。ギチギチという音を出しながらハーピーの翼を切り落とすことに成功した。
そのまま右手で剣を持ち、左から右方向へ薙ぐ。
ハーピーの胴に一筋の斬り込みが入った。
今まで斬っても深く斬れなかったのだが、今回は違った。
翼を斬ったとき同様ハーピーの体から血しぶきが上がる。
そして爆発も――。
「――ガッ…………ゴホッ!」
爆風で体が宙に舞い、背中から地面に叩きつけられる。
爆発する直前にバックステップで距離をとったおかげで直撃は免れた。爆発の範囲は狭かったのだ。
「コウさん!!」
シュリカが俺を呼ぶ声が聞こえたが、咳が出るのみで言葉は返せない。
顔を動かし赤いハーピーの方を見ると、体に刺さった複数の矢、止めとばかりに火の矢がもう1本はハーピーの顔面に直撃した。
矢があたった反動でか、ゆらっと体が動いたハーピーはそのまま後ろに倒れていく。
ドシンッという音が近くで響く。
…………た、倒したのか?
「コウさん! 大丈夫ですか!?」
いつの間にかに俺の近くにいたシュリカは手を差し伸べてくれた。
その手を取り上半身だけ起こす。
「ありがとう。俺の事はもう大丈夫だから……早くハセルとスティナの所に。……魔力の無い俺じゃ何もしてあげられないから……」
俺の言葉を聞いたシュリカは頷くと、倒れた赤いハーピーの横を走り抜け羽が無残に刺さった2人のもとに行った。
ルナとリーゼは……。
もう1体のハーピーの方を見た。
ルナの姿と、ルナに向かって飛んでいる緑のハーピーの姿が見える。
リーゼは少し離れた所で倒れていた。
……リーゼ!?
今すぐ援護に行きたいが体が思うように動かない。
あぁ! もうッ!!
自分にいら立ちを覚えながらルナの方を向く。
ハーピーが飛んだまま空中で蹴りをしようとしていた。鋭い足の爪がルナに迫っている。
ルナはその攻撃を、小さい体を活かして避けると、攻撃を外して止まったハーピーに杖を触れているように見えた。
次の瞬間、杖の触れている部分からハーピーは凍り始めた。
慌てて逃げようとしたのか翼をはばたかせているが、氷は体を侵食している。
氷の重さに耐えられなくなったのかハーピーの動きは遅くなっていた。
それでも、触れられている杖から体を離そうと動いているハーピー。
しかし、ルナから逃げることはできず、ついには全身が氷漬けとなった。
……倒せたのか……。良かった。
「……ふんッ」
体に力を入れて危なっかしくも何とか立ち上がる。
俺が立ち上がったときには、ハーピーの入った氷が砕けバラバラになっていた。
ボス部屋が少し明るくなる。
ふら、ふら、と歩きながら俺はシュリカのもとに歩いて行った。
「……ハセル……スティナ……」
2人の手を握っているシュリカ。
その手からは淡い光が浮き出ていた。
シュリカの回復魔法だろう。でも弱い。
「……コウちゃん……」
ルナも俺の横にやって来た。
「……リーゼは大丈夫なのか?」
「……うん。魔力切れと疲れだと思う。怪我はしているけど命に問題はなかったよ」
「……そうか」
「……うん」
3人の下には血だまりができていた。
その姿を見ているとルナが俺の左手を握ってくる。
激痛はあったが痩せ我慢でそれを耐える。すると、痛みはどんどん引いてくるのだった。
「……ルナ」
「……なに?」
「2人を助けてあげられないか……?」
ルナは静かに首を横に振った。
「少しなら命をつなげるけど……この出血量だと、あたしには完治は出来ない……」
「そうか……ごめん」
もう一度ルナは首を横に振る。
「しゅ、……シュリカか? あいつらを倒したのか?」
ハセルは目をうっすら開けていた。
「ハセル! 喋らないで、今助けるから!」
突然話しかけられたからか驚いていたが、シュリカの表情が明るくなる。
「はは、そんなことしなくてもわかる。ぼ、僕はもう駄目だ……」
「そ、そんなことっ……」
明るくなった表情が消えた。
「良いんだ。スティナに助けられておいてこのざまか……。弱い僕でごめんな」
ブンブン、とシュリカは顔を横に振る。顔から流れる涙を飛ばしながら。
ゴホッ、とハセルは口から血を吐きだした。
「……汚いなぁハセルはもう……」
「わ、悪いな」
シュリカからはすすり声しか聞こえてこなかった。
ハセルを注意した声は、かすれていた声はスティナのものだ。
「シュリカ、泣くな僕たちの分まで生きてくれ。……な」
「……いや、私まだ2人といたいよ!」
鼻をすすりながら答えるシュリカ。
「……コウさん近くにいますか?」
シュリカに答えることなく、スティナは俺に話しかけてきた。
「いるぞ」
俺は血だまりに足を踏み入れ腰を落とし、スティナに言葉を返す。
「コウさん、わた、わたしたちの代わりに……シュリカをお願いしても、良いですか?」
「な、なに言ってるの!?」
シュリカは叫ぶ。しかし、相手にされることなく今度はハセルから話しかけられた。
「……僕からもお願いします。こいつは昔から僕の後ろにいて……ごほっ、」
ハセルの言葉が途切れる。
言おうと思った言葉はわからなかったが、シュリカに生きていてほしいという気持ちは伝わった。
「……わかった。シュリカの事は任せろ」
「あ、ありが、とうございます。最期に、ルナちゃんお話楽しかったよ。リーゼさん、仲良くなろうと言ったのに、もうお別れでごめんね」
スティナは顔を俺とルナの方に向けて言う。この場にリーゼがいないことにも気づかずに。
「うん。スティナちゃん、あたしも楽しかったよ」
シュリカが握っていない、もう片方の手を握り締めルナは答える。
「ふふ……」
バタッと力なくこちらに向けていた顔を地面に落とした。
「……スティナ? スティナァ!!」
何回も、何回もシュリカは叫んでいた。
「コウさん、こんな結末ですみません」
シュリカ声でハセルの声は聞きにくい。でも、俺はなんにも言わずハセルに近寄った。
「俺の方こそ……ごめん」
「僕は楽しかったので大丈夫ですよ」
ニコッと笑顔を見せて言うハセル。
「……ありがとう」
俺も笑顔を見せる努力をした。
笑ったせいで溜めていた涙があふれ出し、頬を伝う。
「はは、変な顔ですよコウさん」
「ハセルこそな」
ははは、と俺は空笑いをする。
「……スティナ」
天井に顔を向けたハセルはスティナに話しかける。
「なに……」
力なく倒れ込んでいたスティナは、先程より力のない声で返事をしていた。
スティナはまだ生きていたのだ。さっきのは首が疲れただけなのかも知られない。そう思いたい。間に合わないという事はわかってはいるが、そう思わせてほしかった。
「す、スティナ!」
叫ぶのを止めていたシュリカがまたスティナの名を呼ぶ。さっきよりも涙声で。
シュリカの声を聞いたからか、ハセルとスティナは気持ち笑顔になった気がした。
「ありがとう」
「…………こちらこそ」
ハセルが放った言葉。その言葉の返事をスティナから聞いてすぐ、ハセルの体が一瞬光る。
そしてアイテムが俺たちの周りに散らばった。
「……ハセル逝っちゃった……? わ、わたしもそろそろかな……」
シュリカの目には、顔には大粒の滴が流れている。
「シュリカ、まだ手握ってくれてる?」
「う、うんっ」
「……そう、ありがとう。もう感覚がないんだよね……」
ルナもまだ手を握っていたのだが、本当に感覚がないらしく、スティナはルナに声もかけていない。
それでもルナは何も言わずスティナの手を握りしめていた。
スティナは一呼吸おいて言葉を続けた。
「シュリカは、まだ、こっち、に、来ちゃだめだ、よ?」
「……うん」
「今、まで、ありが、とう、げ、んきで、ね……」
斜め上を向けていた顔が、スティナの首が重力に負けた。
スティナの体が光り始める。
「ううぅぅぅっ……うああああぁぁぁぁぁぁあああぁぁ――――」
今まで我慢していたのか、シュリカは大きな声で泣いた。
俺はシュリカが2人を握っている手の上に自分の片手を置く。
もう片方の手でシュリカの体をぎゅっと寄せた。
ルナも俺の真似をし、スティナを握っている手をゆっくり離し俺の手の上に重ねる。
3人で肩を寄せ合い固まった。動かない2人の手を握りしめながら。
まだ俺の目から涙は流れていた。
初めての人の死を目の当たりにしたのだ、しかも友人の。
言い方は悪いが、シュリカが取り乱していなかったら俺の心が壊れていただろう。
それ程衝撃的な事が目の前で起こったのだから……。
「……コウさん、ルナちゃん……。ありがとうございます」
数分後、シュリカがからした声でお礼を言ってきた。
涙は止まっていた俺は、何も言えずにポンとシュリカを抱いていた手を頭に置くことしかできなかった。
「……2人をちゃんとした所で眠らせてあげよう?」
ルナは優しくシュリカに話しかける。
「うん……」
ゆっくり頷いたシュリカは何かを呟き2人から手を離した。それと同時に俺とルナも手を離す。
「……散らばった物の整理をしないと」
人は死ぬとボックスの中身が外に出てしまうようだ。
俺たちの周りにはハセルとスティナが出したアイテムが散乱していた。
「あたしとシュリカちゃんでここはやるから、コウちゃんはリーゼちゃんの様子を見てて」
ルナにそう言われ、この場から離れる。
やっぱり女子同士の方が心の回復を早める事が出来るのだろうか? それとも、俺が不甲斐なさすぎるのか……。
何か出来る事はないかと考えながらリーゼのもとに行く。
横になっているリーゼの防具は切り裂かれた跡が大量についていた。
リーゼも頑張ったんだな。
俺は胡坐をかき、リーゼの頭を足に乗っける。
体の傷はあまりないみたいだ。……ルナが少し回復魔法をしてくれたのかな。
俺はボックスから塗り薬を取り出し、念のため俺の手の届く範囲で痕が残っている所に塗っていく。
リーゼの髪の毛をかき上げおでこを出す。
……お疲れ様。
疲れきった顔をしているリーゼを眺めながら心で呟く。
大体の場所を塗り終えた後、俺は飲み薬を取り出した。魔力回復の薬だ。
蓋を開け、こぼさないようにリーゼの顔の角度をずらし口の中に流す。
むせないようにゆっくりと。
喉を鳴らす音と共に液体はリーゼの体に入っていった。
これで魔力も大丈夫だろう。
リーゼの頭をさすりながら辺りを見回す。
ハーピーが死んだ2ヶ所の場所にもアイテムが散らばっているのが見えた。
あれも回収しなきゃな。
そう思いながら、さっきまでいた場所に目線を移す。
ルナとシュリカはアイテムの整理を終えたのか散らばっているアイテムは見えない。
今は横たわっている2人を血だまりから離れた場所に、隣同士に並べている所だった。
「……んっ」
俺の膝元から反応が。
「……あれ……」
細目を開けたリーゼに俺は声をかける。
「おはよう」
ビクッと体を固めるリーゼ。
「お、おはようございます。……何でコウ様が私の目の前に!?」
バッと勢いよく体を起こしたが、上半身が90度上がった所で声にならない悲鳴を上げて俺の方に倒れてくる。
「だ、大丈夫か?」
両手でリーゼの両肩を支え倒れる寸前で受け止めた。
「――ッ。だ、大丈夫です……」
強がって言っているのはすぐわかったがその事については、俺はなにも言わない。
その代わりと言うのも変だが、後ろからリーゼに抱きついた。
リーゼが死ななくて良かった。生きていてくれてありがとう。ハセルとスティナに対して、守ってあげられなくてごめん。間に合わなくてごめん。と。
そう、俺の落ち度だ。
考えればわかることだった。
俺たちがいなければ撤退も視野に入れてあの3人はボス戦に挑んでいたのだ。だが、俺たちが一緒に行ってしまったがため、倒す、倒せると思いこませてしまったのかも知れない。俺も逃げるという考えは消え失せていた。昨日シュリカに会った時に撤退すると言っていたのを聞いていたのにだ。
「こ、コウ様?」
後ろを向こうとしたのかリーゼの首が動いた。
「……ごめん」
もう少しこのままで……。
続けてこう言おうとしたら、その前にリーゼの首元に回している俺の腕が掴まれる。
「……大丈夫です。私がついていますから。いつまでも……どこまでも……」
涙腺が崩壊した。
力強くリーゼの事を抱いて声を殺しながら涙を流す。俺は再び泣いた。




