023
城から帰ってきて8日後。
俺はヴィンデルの泊まっている宿で目を覚ます。昨日帰りついたのだ。
リーゼの案内で深夜に城から帰って来た俺たちは、次の日に馬車で帰ろうと一旦寝て、起きた夕方に馬車の予約にいったが、「もう少し人が集まってから出発します。そうですね……21日の朝にまた来ていただけませんか」と言われてしまったのだ。
歩いて帰るのも億劫なので、ルナとリーゼに了承をもらい待つことにした。
その時は馬車の予約をしにきただけなので、まだ宿の解約していない。
宿の目の前に城があるため、リーゼは城での事を思い出させてしまうかもしれないが、そこは俺の話術で……和ませられれば良かったのだが、そううまくはいかなかった。
リーゼは気にしないで大丈夫ですと気丈に振る舞っていけど内心はどうだったのか……。
馬車出発までの間は、ウェルシリアを散策したり、宿で1日のんびりしたりとしていた。
散策ではリーゼも、あまりウェルシリアの事をわかってなかったので、はしゃいでいたが、それは無理はしていなそうだが何かを紛らわしているようにも見えた。
散策していても都市全部は回れてきれない。一部しか回れていないとも感じる。それほど大きいというわけだね。
そうして21日になり、2日かけて昨日の昼頃帰ってきたのだ。
護衛のため、みんなあまり寝れていなかったので宿の女将、ミレーナさんに一言挨拶をして泥のように眠っていた。
俺は隣のベッドを見る。
2人はまだぐっすりだ。
今日も1日のんびりしようかな。前に、ルナに次の日は休もうと言っていたがリーゼと出会いあやふやになってしまったし、これが休日ということで良いだろう。個々で好きなことをする日にしよう。
そう思い立ったので俺は置き手紙を書き、二度寝をした。
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目を開ける。
爽やかな目覚めだ。二度寝最高!
「あっ、コウ様おはようございます」
リーゼは起きていたようだ。体を起こしたら挨拶をしてくれた。
「おはよう、良く眠れた?」
「は、はい」
タオルを動かす手を止めて、リーゼは俺の方に来た。
「……掃除してくれてたの?」
「えっ、はい……ダメでしたか?」
リーゼはしゅんとしてしまった。
「そ、そんなことはないぞ。ただ、せっかくの休みを掃除に使うなんて勿体ないなぁと思っただけだ。時々みんなで掃除すればいいしね」
「コウ様とルナ様にそんなことはさせません。掃除は私がやります! それに、私やりたいこと無いですし……コウ様と一緒にいたいと思ったんで」
「……さいですか」
城から戻ってからリーゼは何かと俺と一緒にいたがっている気がする。それに、雑用もリーゼからやりたいと言ってくる。
家族と縁が切れてしまったせいで、俺との縁を切られないようにとしているのだろうか。そんなことするはずないのに。ユリーナさんもリーゼの事を大事に思っているわけで、家族の縁が完全に切れてもいないがリーゼは知らないし、口止めされてるからなぁ。
「リーゼ、ショッピングでもしてきたらどうだ?」
俺は息抜きを提案する。
「でも、まだ掃除が終わってませんし、コウ様を1人にしてしまいます」
俺の事は気にしなくて良いのだが、そう言うとまた何か言うだろうな……。
「俺も一緒に行こうと思うんだ。この街の事、俺も詳しく知らないからな」
実際、ヴィンデルの街でギルドと宿しか行き来していないのだ。
「そ、そうでしたか! すぐ掃除を終わらせます。少し待っていてください」
体を反転させリーゼは素早く動き出した。
そういえばルナがいないぞ。……出掛けたのかな?
『163年8月24日 11時28分05秒』
時間を調べると昼近い。朝ご飯は食べれなそうだ。言えば作ってくれるかもしれないが、それもミレーナさんには申し訳ないからやめておこう。出掛けたときリーゼと昼ご飯を食べればいいか。
「終わりました!」
リーゼは上機嫌で俺に報告してくる。
「お、おう。着替えて出掛けよう」
パッと着替えて2人で宿を出た。
「行きたい所とかあるか?」
俺は特に無かったのだ。ぶらーっとするのも良いけど、行きたい店や買いたいものがあるならそこに行くのが筋だろう。
「えと、………………」
リーゼは片手を頭に当てて考えているが、思いつかないようだ。まぁこの街の事をよく知らないんだからしょうがないかな。
「じゃあ、昼飯を食べながら考えよう」
「はい! あっ、あそこなんかどうですか?」
リーゼは早速お店を見つけ、指をさす。
教えてくれたお店は宿から出てギルド方面に歩いてすぐの大通りに面した所にある店だ。看板にはお食事処という文字が書いてあった。
お腹も空いていることだしここで食べよう。
「す、すみませんっ! 出過ぎた真似を……」
そう考えていたらリーゼが何故か謝ってくる。
「ん? 何で謝る?」
「コウ様の事も考えずに自分勝手な行動をしてしまいましたので。すみません」
「そのくらい気にしなさんな。俺だってわからないことや知らないことも多い。それに、リーゼの気持ちも言葉にしてくれないとわからないし。ルナを見習って言いたいこと言うのも良いんじゃないか?」
あれでルナは結構好き勝ってやっているが、俺がわからない事を色々教えてくれていたりする。ルナがわからず、2人ともわからない事もあるがその時は諦めが肝心だ。
「……わかりました。ご迷惑にならない範囲で言わせてもらうかもしれません」
「おう」
そんなやり取りをしながら俺とリーゼはお店に入った。
「いらっしゃいませ~」
シックな制服を着た店員さんが、俺たちの入ってきたのを見て挨拶をしてくる。
店の中はカウンター席とテーブル席があり、メニューが壁に貼ってある。
俺たちは椅子が四脚ある丸テーブル席に着く。昼時だが、混んでいるというわけではなかったので、空いている席に適当に座ったのだ。
「ご注文は何になさいますか?」
すると、さっきの店員さんが注文を取りに来た。
「あっ、えーと……」
まだ何も決めていなかったので言葉に詰まるが、壁に貼ってある手頃な値段の料理を注文した。
リーゼも俺と同じのを頼んでいる。
好きなの頼んで良かったのに。
「良い雰囲気のお店ですね」
リーゼは店内を見回しながらそう言ってくる。
「だよなー」
店内は壁以外ほとんどが木造りで、自然の温かみというのだろうか? そういうのを感じる。もちろんテーブルと椅子も木製だ。
「ここは夜になると居酒屋になるんですよ」
「ですよー」
突然、横から声が入ってきた。
2つの声はどちらも聞き覚えがある。
「ふぇ?」
驚きの声を発し、話しかけられた声の方をリーゼは振り向こうとしたようだが。
「で、す、よー!」
「きゃっ!?」
その前に声の主の1人がリーゼに後ろから抱きついたのだ。
「コウさん、今ルナちゃんが抱きついている人がリーゼさんですね」
最初に話しかけてきた茶色い髪色をしているショートヘアの人、スティナが聞いてくる。
きっとルナから聞いたのだろう。
「そう。リーゼロッテって名前だから略してリーゼって俺たちは呼んでる。良かったら仲良くしてあげてくれ」
ルナとじゃれているリーゼを横目に、スティナに頼んでみる。
友達が増えれば俺への依存も減ると思ったのだ。
それと同時に、この街から出るとき寂しくなってしまうとも思う。
……まぁそれはその時考えればいいかな。
「はいっ、もちろんです」
よろしくお願いします、とスティナはリーゼに向かって軽く頭を下げる。リーゼは面を食らったようで、噛み噛みな挨拶を返していた。
「わ、私なんか奴隷の分際なのに頭など下げなくても!?」
「わたしは気にしませんよ」
「で、でも……」
くぐもった声でよく聞こえなかったが、ネガティブな事を言ったのだろう。
「取り敢えず座りなよ。2人でご飯食べに来たの?」
俺はリーゼの事をスルーして、スティナに話しかけた。
スティナは、「はい」と空いている椅子に座る。
この時を見計らったっように店員さんが注文を取りに来た。流石としか言いようがないな。
「街をぶらぶらしていたらルナちゃんと会って、一緒に遊んでいたんです」
注文を終えるとスティナは俺の質問に答えてくれた。
「他の2人は?」
「今日はダンジョンには行かないですからギルドで簡単な依頼を受けているか、だらだらしていると思います」
「な、なるほど」
「毎日ダンジョンに行ってるわけではないですからね」
それはそうだ。たまには休息がないと参ってしまう。
「コウちゃん凄いんだよ! スティナちゃんたちボス前まで行ったんだって」
ルナが未だにリーゼにくっつきながら言う。
「あっ、そうなんですよ! 昨日ついにボスの前までたどり着いたんです。行くまでで結構消耗したのでボスとは戦わなかったんですけどね」
「だから今日は休息の日ということなのか」
「そうなんですよ」
ふふ、と軽く笑いながらスティナは答える。
「明日ボスに挑もうという話になっているんですけど、良かったらコウさんたちも来ますか? 私たちだけだと途中で撤退する羽目になると思うんですけど、コウさんがたちがいれば倒せると思いますし」
確かボスはハーピーだったよな。しかも2体……。
まぁ危なくなったら逃げればいいか。
ボス戦は逃げる事ができる。
ボスの魔物は基本的にボス部屋と言われる空間にいるのだが、そこから出ようとせず、部屋に来た冒険者たちと戦うというスタンスなのだ。したがって、その部屋から出ることが出来れば逃げられるということになる。
俺はルナとリーゼの方を見る。
ルナは目を輝かせて、行きたいと表情が物語っている。リーゼの方は首を傾げていた。ダンジョンというものがどんなのなのかわっていないのかも知れない。
俺としても明日からどうしようかと考えていたわけなので、一緒に行くことに決めた。
「俺たちが行っても良いなら行きたいな」
「もちろんですよ!」
スティナは、「心強いです」とまで言ってくる。それは買い被り過ぎだと思うんだけど……。
「お待たせしました~」
注文していた料理の品々が運ばれてきた。
いただきますとみんなで食べ始め、10分も掛からず運ばれてきたご飯を食べ終える。
「明日、10時にギルドで良いですか?」
4人でお店を出たあとスティナは聞いてきた。
「了解」
「ではまた明日です」
スティナはルナと歩き出す。
また2人で遊んでくるとのことだ。
「さて、俺は雑貨屋に行きたい用事を思いついたのだが、リーゼはどうする?」
「お供します!」
雑貨屋に何故行きたいと思ったのかというと、手紙をジャンさんたちに送ろうと思っていたのを思い出したからだ。
お食事処の近くにあった雑貨屋でそれを調達。リーゼも何か色々見ていたので欲しいのあるかと聞いてみたが首を横に振り、「見ているだけなので大丈夫です」とのことだ。
そして俺はふと思った。
明日ダンジョン行くんだったら、リーゼの冒険者登録を今済ませちゃおうと。
「リーゼは冒険者になっても良いの?」
本人に確認を取る。
「は、はい! ……でも私なんかが良いんですか?」
「奴隷の人だって冒険者はいるんだろ?」
「そう聞いたことはあります」
「なら良いじゃないか」
雑貨屋から出たその足でギルドに向かう。
「こ、ここが冒険者ギルドですか」
リーゼはギルドの建物を見上げていた。
「ウェルシリアにもギルドはあったよね。見たことないの?」
「恥ずかしいんですが、見たことはないと思います。……見ていたとしてもそれがギルドだって理解していないです」
あまり家から出れなかったリーゼはそこら辺の事情には疎いようだ。
ユリーナさん、剣術や家事も良いですが街の情報も教えてあげましょうよ。今更いっても遅いけど……。
「じゃあ、入るぞー」
「は、はいっ」
緊張と興奮が入り混じったような声でリーゼは返事をした。
「おー、お帰り。帰って来ていたのは聞いてたよ。どう? あっちは楽しかったかい?」
馴染みの顔がいる受付に出向くと最初の言葉がそれだった。
リーゼの事情を完全に把握していないマクシさんは、遊びにウェルシリア行っていたと思っているみたいだ。ミレーナさんも俺たちが行くとき楽しんでらっしゃいとか言っていたしな。
「あー、まぁまぁでした。あっちは広かったですよ」
周りきれなかったと俺は言う。
「あははっ、それはそうだ。仮にもこのウェース大陸の都市なんだからね。都市が他の町より小さければおかしいってもんじゃないか」
俺が前いた国では小さい都が中心都市だったりしたのだが、この国は、大きい街=その大陸の都市、という考えが普通みたいだ。
郷に入っては郷に従え。俺もその場でそれもそうだと笑い、話を流す。
リーゼは1人ポカンとした顔をしていたが、気にせず本題に入った。
「今日来たのはこの子を登録したくてなんだ」
俺の少し後ろにいたリーゼの背中を押して、受付の前に動かす。
「なるほど」
マクシさんは受付の裏から紙を1枚を前に出してきた。
「えっと……リーゼさんだっけ? ここに名前と種族を書いてくれ。カード取ってくるからちょいと待ってて」
そう言い残し裏へ消える。
「えと……?」
リーゼは良くわかってないようで、俺に助けを求めてくる。
「ここに名前と種族を書けばいいんだよ」
「……! はいっ」
リーゼはペンを走らせ記入し始めた。
「お待たせ」
書き終わる前にマクシさんは戻って来た。
「お、お願いします」
数秒してリーゼは書き終わったのか、紙をマクシさんの方に差し出している。
「……うん、オッケー。じゃあここに血を付けた指紋をポチっとつけてくれ」
「は、はい!」
リーゼはまだ緊張しているみたいだ。微妙に震えている手で自分の指に針を軽く刺しカードに押しつける。
すると、リーゼが指紋をつけたところの横、何も書いていないスペースにもう一つ指紋欄が浮かび上がってきた。
……どういう仕組みをしているんだ?
「コウもここに血の指紋をつけてくれ」
「え?」
その欄は奴隷所有者と書かれている。
「コウのがないとカードがちゃんと発行できないんだよ。奴隷の人には主人の許可がいるんだ」
そう言われたら何も言えない。しかも、文字が浮き出てくるのは当たり前のことだというような口ぶり。……郷に従うか。
俺は内心、針指すのは嫌だなぁと思いながらも、リーゼの前でかっこ悪い姿を見せたくないという感情におされ、さも当然といったように血の指紋をつけた。
「はい、これで君も冒険者の仲間入りだ」
マクシさんは、出来立ての冒険者カードをリーゼに手渡した。
「ありがとうございますっ!」
リーゼはそれを受け取ると、目を輝かせて喜んでいる。
来て良かったと思える光景を見ることができて俺も嬉しくなる。表情には出さないが。
「では、説明に入ろうと思うけど良いかな?」
マクシさんは俺とリーゼを交互に見て言う。
俺はあの長い話はもう聞かなくてもいいと思い、リーゼにしっかり聞いておくんだぞと言い、二階に行ってると一言。
「はいっ」
と、リーゼから明るい声が返ってきた。
二階にいくつもあるテーブルと椅子。その中から2人掛けの小さなテーブルに目をつけた。
俺は1人、そこに座る。
特にやろうと思う事もなく、ギルドの掲示板も見なくていいやと思い二階に来たのだ。
……もしかしてマクシさんは俺に、説明の時間は暇だろうから好きな事をしてきなよ。とでも言う感じで説明を始める前に目配せしてきたのだろうか。
……明日はダンジョンか。いきなりボスはつらいから途中の魔物で腕が鈍っていないかチェックしないとな。
などとテーブルに突っ伏しながら考えていた。
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「………………はっ!?」
体がビクッとなり俺の意識は覚醒した。
「おはようございます、コウ様」
俺の座っている前にリーゼが座っている。
「お、おはよう……」
もしかして俺は寝ていた?
いつの間にかまどろみの中に落ちてしまっていたのか!
「あっ、ごめんな寝ちゃって」
そう言いながら時間を確認すると18時前という時間だった。
お昼食べて買い物してからここに来たのだから、遅くても15時までにはギルド内にいたと思う。ということはだ、俺は結構な時間寝てしまったのか。二度寝もしているのにまた寝るとは……どれだけ眠いんだ俺は!?
「大丈夫ですよ」
テーブルの上、リーゼの前に置かれていたカード。それを大事そうに触りながらリーゼは微笑んでいた。
「終わったなら起こしてくれても良かったのに」
「コウ様を起こすなんてとんでもありません。それに……」
「ん?」
「な、なんでもないです!」
聞き取れなかった部分を聞き直したがはぐらかされてしまう。
一体何なのだろうか。
「ギルドカードはボックスにしまっておけよ。なくすとお金かかるからな」
「はい」
「んじゃぁそろそろ帰ろうか」
宿に到着し部屋に戻る。
ルナはまだ帰って来ていないようで誰もいなかった。
「今日は最後寝ちゃってごめんな」
俺は再度謝る。
折角自由な時間なのに俺に付き合って潰してしまったのだ、申し訳ない気持ちにもなるってもんだ。
「気にしないでください。私はコウ様の所有物なのですから。それに私は楽しかったです」
笑顔で言われた最後の言葉。リーゼは自分の意見を言ってくれたように思えた。
それを聞いて俺は嬉しくなる。
リーゼに会ってから、ユリーナさんのために動いていたと思うリーゼ。ユリーナさんの件が終わってからは俺やルナに気を使い、自分を押し殺しているような気がしていたのだ。
そのリーゼが楽しかったといってくれた。
今の俺にはお世辞かもしれないという発想はなかった。
「楽しんでくれたのならなによりだよ」
「はいっ!」
無邪気な笑顔を浮かべ、返事をしたリーゼ。
「ただいまー」
そのすぐ後の部屋の入口からルナの楽しげな声が入ってきた。
一ヶ月ぶりの更新です。遅くなりましたm(__)m
新しく書き始めた方を一ヶ月以内で終わらせようとしていたのですが終わりませんでした……で、でも、大体は書けているのであとは細かい部分の編集のみ。
なので、こちらの次の更新も遅くなりそうです。なんせストックもないのです……。
活動報告に、他の作品の事を後書きに書くのもなんかあれなので。とか書いているのにここに書くという(笑)




