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020

 

 ゆら、ゆら。

 世界が揺れている。

 俺は椅子に座っていた。

 周りを見る。木製の部屋のようだ。こういうのをログハウスというのだろうか。俺の座っている椅子以外何もない部屋……だと思う。


 ガタン!

 いきなり揺れが大きくなり、椅子から体が浮いた。

 …………あれ?

 椅子から落ちると思った。しかし、地面に落ちるはずの体が浮いていた。


「うおっ!」


 突然、体が勝手に動き出す。ドアに向かって飛んで行くのだ。


「ちょ! ぶつかる!!」


 目をつぶり両腕で顔をガード。

 …………ん?

 目を開くと地平線が。世界は丸いんだな……。

 ドアにぶつかる衝撃も何もなく、体は外を飛んでいた。

 手足は動くが、飛んでいる方向は変えられない。


 後ろを向くと、さっきいたと思われる家が一軒だけポツンとある。家の後ろ方面には一面の花畑が。俺が飛んでいった前側は崖になっていた。

 家の入口で陸は消えさり、絶壁が下に続いている。底が見えない真っ暗な……んん!?

 恐る恐る下を見る。


「……ですよねー……」


 俺が浮いている下は暗黒の世界だった。


「ででですすすよよよよょよょょょょねねねねねぇぇーーーーー!!!!」


 気づいた瞬間、体は自由落下する。

 俺は暗黒に飲まれていった。



 ----



「――いたっ!?」


 体を打つ痛みを受ける。

 暗黒の一番下に着いたのか!? それにしては痛みが少ない。あの高さは普通死ぬだろ。


「コウ様! 大丈夫ですか?」


「コウちゃん、暗黒ってー?」


「ん?」


 ガタンガタン

 馬車は揺れながら進んでいた。


「あれ? 俺は……ここはどこ?」


 リーゼとルナに質問する。ついでにルナには、暗黒は夢で出て来た変なのだよと言っておいた。


「コウ様は、お休みになってから今まで寝ていらしたんですよ」


 ……なんと! 時刻は12時近く。俺は今の今まで寝てしまっていたのか。起こしてくれても良かったのに。しかも、もうすぐウェルシリアに着くという。


「悪いな2人とも。夜は大丈夫だった……か……?」


 ……リーゼって髪短かったっけ?


「コウ様? どうしたのですか」


「いやー……リーゼの髪型変わったなーって思ってさ」


「へへん。あたしが整えたんだよ! 長い時も可愛かったけど、今の髪型も可愛いでしょ!」


 確かに。長い髪だと髪型を変えるという遊びができるが、今の髪型も恐ろしく似合っているので伸ばせとは言えない。


「……あの、コウ様」


「何だ?」


「その、ずっと見られるのは恥ずかしいです……」


 もじもじとリーゼは言う。

 はうっ。

 俺の心に締め付けられるダメージが。


「……フン」


「まぁまぁ」


 鼻息を上げるおじさんと、それをなだめるお婆さんの姿が視界に入る。


「夜は大丈夫でしたよ。ね、ルナ様」


「うん。魔物は出たけど雑魚だったよ」


「そうか、2人が無事なら良かった」


 リーゼは手入れしていたらしく、防具が長椅子の上に置いてあった。

 リーゼは几帳面なのかな? それとも強い魔物と戦って消耗したところを手入れしているのか……。


「もうすぐ着きますよー」


 運転手の声が届いた。



「こ、ここが西の都市、ウェルシリアなのか……」


 ついに到着した。

 何メートルくらいだろうか。高い外壁がそびえ立つ。ヴィンデルの外壁より高い。

 外壁は横にまっすぐ伸びていた。

 そして、北西方向にある建物の、上の部分が唯一都市の外からでも見える。


「あれが城……なのか?」


 西の都市の中で一番高い建物だ。


「そうです。あれが……あそこが私の行きたかった所です」


 リーゼは帰りたい場所とは言わなかった。

 馬車は進み、外壁にある門から中に入ると、人が大勢見える。人族も獣人族もいる。みんなが一緒に暮らしているみたいだ。


「到着です。長い間ありがとうございました。またのご利用お待ちしてます」


 馬車が止まり、俺たちは降りた。

 お婆さんにはしっかりお別れの挨拶を、おじさんには簡単に挨拶をする。

 ウェルシリアは石造りの都市みたいだ。石で出来ている家や、レンガみたいな長方形の石を組み立てて出来ている家がある。

 それにしても、


「人多いなー」


「ねー」


「入り口付近ですから、外から来た人に売る商人が多いんじゃないでしょうか?」


「なるほどな。……ところでリーゼ、城近くの宿の場所とかわかるか?」


「1つ知っていますが……お値段が高いです」


「他は?」


「すみません。わかりません」


 頭を下げてくる。


「あっ! 怒ってるわけじゃないから謝らなくても」


「すみません……」


「だから怒ってないってば」


「リーゼちゃんの言った所行ってみる?」


「あ、案内します!」


 ルナが話に入ってくれたおかげで、低姿勢のリーゼは気をそらしてくれた。


「では行くぞー」



 リーゼの案内で辿り着いた場所は確かに宿だが。


「1日金貨1枚……」


「すみません。この場所しか知らなくてすみません」


「良いよ、リーゼを責めているわけではないからね。取り敢えず城見に行ってみないか? ここまで来たんだし」


「おっけー」


「……はい」


 見た目から高級感あふれる宿を後にする。宿というかホテルって感じだな。それにしても金貨1枚って……。


 城はさっきの宿の前からでもよく見える。

 城の門から続く道に宿はあったのだ。


「でかいな……」


 少し離れたところから見上げる。

 リーゼにはローブを着てもらい顔を隠す。まだ突撃する時ではない。それに、リーゼの事が嫌いだった人と出会うと厄介だと思ったからだ。

 城の周りには城壁があった。都市周りの外壁より低いが、それでも10メートルくらいあるのではないだろうか。正門にはプレートアーマーだろう、鎧を着た兵士らしき人が2人立っている。

 勝手に入るってのはできないよな。リーゼの知り合いが運よく門番していれば話は早いんだけど。


「ここがリーゼちゃんのお家だったの?」


「……そう……です」


「こらルナ。人の触れられたくないことをズバズバと言うものじゃないぞ」


 ルナが言う言葉にリーゼは嫌そうな反応をしていたので、軽く怒ってみる。


「えっ、わかった。ごめんねリーゼちゃん」


「あ、違うんです! そんなことありません。私なんかに遠慮しないでください!」


「だってよ?」


「うー……。本人が良いならいいんだけどな。よし、じゃあこの近場で安めの宿を探すぞー」


「おー」


「……はいっ」


 気持ちを切り替えたのか、リーゼの声に力が入った気がした。



 ----



「あった……。こんな所に」


 探し始めて3時間。何個か候補の宿を見つけてはいたが、こんなのがあるなんて。


『アパート貸します。1部屋、何人でも1日銀貨1枚』


 都市は物価が高いらしく、見てきた宿はどれも1日銀貨1枚以上だったのだ。

 目立たない場所にあったこの看板を見つけ、看板が示す通りに行く。城の門の方向を向いているとして右側に、城壁沿いを歩くこと5分から10分くらいで見つけた。

 看板は雑貨屋みたいな1軒の家に続く道しるべだった。


「……入ってみるか」


「うん」


 3人でドアをくぐる。


「いらっしゃい」


 店の中は薄暗く、怪しいにおいがする。


「あのー、アパート借りれるって見たので来たんですが」


「はい、アパートね。1部屋でいいのかい?」


「はい」


「何日間だい?」


「あー……」


 それは決めていなかった。


「……取り敢えず10日間で」


 明日、何事もなく終わったとしても、残りの日数のんびり観光していれば良いだろうしな。


「10日ね。銀貨10枚だよ」


「お願いします」


「確かに受け取った。これが鍵ね。家はここを出てすぐ右の建物だよ。ご飯とかは全部自分たちでやること。食材も置いてないからね」


「わかりました」


 雑貨屋を出てすぐ右を見る。

 二階建て、下4部屋、上も4部屋あるみたいだ。


「部屋は104だ」


 鍵についているプレートに書いてあった文字を読む。


「ここです」


 するとリーゼが部屋を先に見つけてくれた。

 端っこの部屋だ。


「じゃ、入るぞー」


 鍵を開け、部屋に入る。


「おー」


 ルナは一直線にベッドにダイブ。お約束ってやつか。

 ベッドは2人が寝れるような大きさのダブルベッドのようだ。

 部屋はそれほど広くない。このベッドがあるせいで更に部屋が狭く感じる。てか、ヴィンデルの宿より狭くないか? これは1人暮らしの部屋みたいな感じだ。

 キッチンには料理道具が完備されている。材料もまだボックス内に残っているのがあるので、今日は買い物しなくても大丈夫だろう。

 この部屋、トイレはもちろんお風呂まで付いているとは!


「あの、3人でここに泊まるんですよね」


「ん? そうだけど……あっもう1つ部屋取る? 狭いし俺と一緒は嫌だよね」


「い、いえ、そういう訳ではないです。ただ気になっただけで……」


「別に遠慮しなくていいよ。宿より狭い感じするもんな。それに、俺みたいな男と一緒だなんて……」


 自分で言ってて悲しくなってきた……。


「大丈夫です! コウ様ですから。よ、夜ご飯はどうします?」


 俺だから大丈夫。それは俺がヘタレの甲斐性無しだから安全ということだろうか。まぁ一理あるな。でもしょうがないじゃない、慣れてないんだもの。

 ……さて、また悲しくなるからこの事は考えるのをやめよう。


「ご飯は誰かが作ればいいよ。俺が作ってもいいし。材料は少しあるから今日は大丈夫だろ」


「じゃあ、私が作ってもいいですか?」


 そういえばリーゼはご飯を作れると前に言っていたな。


「それじゃあお願いするよ。でもまだ早いかな?」


 今は17時台だ。あと2時間後くらいでいいだろう。


「そうですね」


「だから明日の作戦でも考えようと思ったんだが……」


 ベッドにダイブしてから動かなかったルナは、気持ちよさそうに寝ていた。これもお約束ですかね。


「し、しょうがないですよ。夜の護衛からずっと起きていたんですよ」


 焦りながらルナを庇うリーゼ。いつの間にかに相当仲良くなっているみたいだ。髪も切ってもらったみたいだしな。良いことだな。

 俺はルナに布団を掛けてあげた。


「では、ルナがいないけど作戦会議をしましょうか?」


「はいっ」


「何か作戦はありますか?」


「えっ!? えっと……うーん」


 いきなり聞かれたから戸惑っているようだ。当然の反応かな。


「俺としては、リーゼが普通に門番の人に通してもらうというのが安全で早いからいいんだけどな」


「それは……」


「通してもらえるかわかんないよな」


「はい。すみません」


「じゃあリーゼが綺麗な格好をして行くというのは? ドレスとかさ」


「正装ですか?」


「そうそう」


「うーん。どうでしょう……ダメな気がします」


「そうか」

 

 まぁ、今のは言ってみただけなんだけどな。


 その後もいろいろ案を出すが、良いと思えるのが出てこなかった。


「そろそろご飯の支度でもしようか」


「わかりました」


 気づけば時間も経っていたのでキッチンへと向かう。


「食材はこれね。好きなように作っていいから。手伝いほしかったら呼んでくれ」


「そんな! コウ様の手を煩わせるわけありません。美味しいのを作りますから待っていてください」



 数十分後


「ふにゃー、いいにおい……」


 においでルナが目を覚ます。

 確かに美味しそうな香りが部屋に充満している。


「おはよう。もうすぐ晩ご飯だぞ」


「やったー」


「できました」


 良いタイミングでリーゼは料理をテーブルに運んでくる。


「おー、おいしそー」


「ほんとだな」


「そうですか?」


 照れくさそうにしながらもリーゼは食事の準備をしている。食器等も全て最初から備え付いているので助かる。


「では、温かいうちに食べよう」


「うん!」


「「いただきまーす」」


 もぐもぐ。


「ど、どうですか?」


「……美味しい」


「おいしーよ!」


「そうですか! 良かったです」


 俺たちを見ていたリーゼは嬉しそうに食べ始めた。



「作戦会議を始めましょう」


 食後、2回目の会議の時間だ。ルナも起きているし、今度は良い案が出るかもしれない。


「おーう」


「…………」


「ではまず、どうやって侵入するかです」


「あたしだけなら侵入するのは簡単だよ」


「そう、侵入が……ん?」


 ルナはなんと言った? 簡単だって?


「ど、どうする気だね」


「変身して城壁を越えて行くよ?」


「……なるほどな」


 それも良い手かもしれない。ルナが場内から抜け穴みたいのを見つけられれば簡単に入れる。


「あのー、1ついいですか?」


「なに?」


「変身ってルナ様がネコになるのですか?」


「そうだよ。見たことあったっけ?」


「はい一度だけ。……そんな魔法もあるんですね」


「獣人族だけの魔法だよ!」


 ドヤ顔でルナはそう言った。

 ボンッ

 ルナは良い音を出して猫となる。


「ニャァ」


「きゃっ」


 リーゼに飛びついて、膝の上で丸くなった。

 ……羨ましい……。


「こ、コウ様!」


 リーゼはルナに膝に乗られて落ち着かない様子だ。


「どうした?」


「る、ルナ様を……」


「ルナを?」


「な、な、な、なででも良いでしょうか!?」


「……いいんじゃない?」


「ありがとうございます!! ルナ様ぁー」


 リーゼは膝にいるルナの頭をなで、耳を触り尻尾も触り、背中をなでる。この一連の動作をものの数秒で繰り返し行っていた。


「ニャ、ニャァー!」


 予想以上のなで回しだったらしく、ルナは驚いて姿を人型に戻していた。


「り、リーゼちゃん!? もう少し優しくなでてよね!」


「す、すみません、あまりにも可愛くて。気持ちよかったです……前にネコのお姿になられたときに我慢してたのが爆発してしまいました。……もうしません。奴隷にあるまじき行動を……すみません!」


 リーゼ、なんか錯乱してないか?


「いや、ルナはなでられるの好きみたいだからさ、またやってもいいんじゃないか? 節度をもってさえいれば」


「うん!」


 ルナは人型でもリーゼの膝の上に座っていた。


「ほ、本当ですか? さっきの行為で罰を受ける覚悟もしていたのですが……ありがとうございます。慈悲をくださりありがとうございます」


「そんな大げさな事じゃないぞ……」


 と、話がいつの間にか変な方向へ。


「こんな話をしている場合じゃない。城にどうやって行くかだ」


「そうだねー」


「……はい」


 この後も話し合ったが、結局良い案は出てこないまま夜は更けていった。



 ----



 深夜

 コウとリーゼロッテが熟睡している頃。ルナは眠れていなかった。


 ベッドは1つしかないので同じベッドで3人寝ている。

 最初はリーゼロッテが下で寝ると言っていたのだが、コウも「女の子に下では寝させられない」と言い、最終的に3人でベッドに寝ることとなったのだ。

 つまり今ベッドの上はコウ、ルナ、リーゼロッテという川の字だ。


 ルナは2人の間で寝返りを何回も打つ。昼寝をしたせいなのだろう、眠れていなかった。


「……外行ってこよ」


 眠れそうもないから城の調査でもしようと考えたようだ。

 部屋を出てルナは門の所へ歩いて行く。門には昼間と変わらず2人の兵士が立っていた。


「……ここからは無理だね」


 泊まっているアパートと反対方面に、城壁沿いを歩いて行く。


「ここら辺でいいかな」


 周りを見て、誰もいないことを確認している。


「よし」


 ルナはネコへと変身をして、近くの民家の屋根に上る。

 ここらで城壁から一番近い屋根の上から見ても、ジャンプして届きそうな距離ではない。いくらネコに変身したからといって、空気抵抗を受けにくくなったり、体のバネが強くなっていたとしても人型より遠くに飛べるくらいで、城壁まで届かないだろう。

 ルナはそれでも構わず思いっきり城壁に向かってジャンプした。

 そして、ジャンプして落ちかけた時に人型となり、風魔法を後ろ斜め下から自身に当てる。

 それにより距離はグンと伸び、城壁に届いたのだ。


「ふふ、こういう使い方もあるのさ」


 城壁に上がったルナは、また猫化をして城に潜り込んでしまった。


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