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016

 

 8月11日 15時06分


「さいあくだわ……」


 ザァーザァー、と辺りは雨の音が響いている。

 昨日逃げている最中に、この路地裏の隙間に入り込んだ。そして、すぐ眠ってしまったみたいだ。

 遅くまで逃げ回っていたせいで、疲れが出たらしい。今の今まで寝てしまっていた。

 寝ている間に雨が降り出していた。幸いなことに上には屋根があり、私は濡れていない。

 傘は持ってはいるが、雨が止むまでは動きたくなかった。

 持っていた食料もこれで最後だ。


「はぁ」


 ため息をついてからもぐもぐと食べ始める。

 ユリーナも来ない。道を歩けば人に追われる。私はどうすれば良いのだろうか。


「どうして追われていたんだっけ……」


 ……そうだ、売られたんだった。


「……はぁ」


 雨はまだ止みそうになかった。



 ----



 ダンジョン出入口。

 俺とルナは雨具を持っていた。雨具と言ってもビニール製の傘や合羽ではない。木と葉でできている自然物から作られた傘だ。

 見た形は日本で使っている傘とほとんど同じ。持ち手と骨が木になっており、上に葉っぱをつけて雨を防ぐようになっている。この葉っぱは川や池、湖などに浮いているでっかい葉っぱを数枚使っているそうだ。もちろん、たたむことは出来ませんよ。

 お金を出せば防水性の生地でできた布製の傘などもあるのだが、俺にはファッションなんて興味がないし、安く済ませられればいいと思っているので関係ないかな。ボックスに入れておけば虫食いも起こらないしね。

 そして、俺たち以外の3人の中で唯一傘を持っていたのが茶髪の子だった。


「どうしよう……」


 茶髪の子が呟いていた。


「えーっと……、俺とルナで1つ傘使うからこれも使っていいよ」


 ルナにも了承をもらい俺の傘を差し出す。


「えっ、いいんですか?」


「いいよ、出会ったのも何かの縁ってことで」

 

 茶髪の子は申し訳なさそうに俺の手から傘を取った。


「コウさん、ありがとうございます」


「どういたしまし……ん? あれ、自己紹介したっけ?」


「あ、ルナちゃんに教えてもらいました。コウさんはあんなのだけど優しいんだって言ってましたよ」


 ルナさんや、あんなとはどういう意味なのか。後で教えてもらう必要がありそうだ。


「なるほど。改めて俺はコウ、こっちはルナね。よろしく」


「は、はい。こちらこそ。わたしはスティナと言います。これはハセルで、女の子の方はシュリカです」


「これってなんだよ」


「別にいいでしょ」


「まぁいいけどさ」


「……2人は仲いいんだな」


「2人じゃないですよ、3人です。わたしたち幼馴染みなんですよ」


 そのわりにはシュリカって子、2人の会話を聞いて良い顔してなかったぞ。……何かありそうだな。主に嫉妬とか? めんどくさいのは嫌だぞ。


「そうなんだ。……そろそろ帰るか」


 いつまでもここにいたって意味がないしな。別に話を逸らそうとか思ってはいないぞ、ほんとだぞ。


「はい」


 傘は俺とルナ、スティナとシュリカ、ハセル1人という形に落ち着き、街まで向かった。

 俺たちがこの街に来たばかりだと言うと、スティナは街について話し始めた。この子はお喋りみたいだ。


「大雑把に説明しますと、ヴィンデルの街は、周りは丸くなっていて東西南北に入口があるんですよ。入口から大通りとして直線で反対の入口まで繋がっているんです。北から南、西から東という風にです。街の真ん中で大通りが交差していて、そこの近くにギルドはありますよ」


「そういえば、そんな感じだな」


「そうだね」


 ぼんやりと地形を思い出し、俺たちは納得した。

 それから、スティナはシュリカやハセルのことも話しだした。俺は半分聞き流していたがルナは真面目に聞いていたようだ。説明は嫌いだがこういう話は好きなのかな。ルナも女の子だな。


 道中魔物も現れず、無事、西の門から街に帰り着いた。


「3人はギルド行くの?」


「行きます。取ったアイテムを換金しておきたいですから」


 ハセルは言ってから2人に確認を取っている。


「じゃあギルドで解散だな」


「はい」


 ルナはスティナにべったりだな……。

 帰り道、あまりにも話していたので傘を移りスティナとルナ、俺とシュリカとなっていた。

 こっちは気まずいんだが……。というか、シュリカはハセルの傘に入ればいいのではないか。そうしたら丸く収まる気が。


「シュリカ」


「……なんですか?」


 最初会ったときは、もう少し優しい喋り方をしていた気がするのですが……あれですか、ツンデレならぬデレツンですか? 初対面には優しく、知り合うとツンツンするやつですか?

 ……と言ってもデレられてないから違うか……。


「俺の傘よりハセルの傘に入った方が気が楽なんじゃないか?」


「えっ……そ、そんなことないです! コウさんの傘で十分です」


 ……顔が赤くなってますよ。やっぱりシュリカはハセルに惚れてるんですかね。


 ニヤニヤ

 バシッ


「あっ、ちょっと!」


 シュリカは走って先に行ってしまった……俺の傘を取って……。露骨にニヤニヤしたのが悪かったな。


「コウちゃん、何やってるの?」


「いやー、ちょっとからかったら怒られてしまった」


「ダメだよ、意地悪しちゃ」


「面目ない」


「めんぼく?」


「コウさん、僕の傘入ってください」


「ああ、ありがと」


 ハセルの声が入ってきたのでルナに応えるのをやめた。代わりにスティナが教えてあげているようだった。



 ギルド前に行くと、先に行っていたシュリカが外で待っていた。


「シュリカ、ダメだろコウさんの傘取っちゃ」


 俺たちを見て……きっとハセルを見たからだろうが、顔を少しほころばせていたのだが、いきなり怒られてシュンとしてしまっている。


「まぁまぁ、今回は俺が悪かった。ごめんなシュリカ」


「……私こそ……傘ありがと」


「いえいえ」


 素っ気ない様子で傘を返してくれた。


「ここだと濡れちゃいますから、ギルドに入りましょう」


 ごもっとも。


「じゃあ、俺たちはあの人に用があるから」


 ギルドに入るとすぐにいつもの受付の人が見つけられたので、俺はその人を指しながら言う。


「あ、はい。ここまでありがとうございました」


「ありがとうございました! コウさん、ルナちゃん良ければまた行きませんか?」


「うん!」


 即答だな。短時間でこんなにも仲良くなるなんて……。さっきからかいはしたものの、俺にはできないぞ。子供ならまだしも同年代近くの女の子は免疫がそこまで無いのだから!


「俺たちもギルド来るからな、会ったら一緒になんかやるか」


「はい!」


 3人を順に見ながら言うとシュリカにだけ顔を逸らされた。

 ……相当嫌われてるのな。


「じゃあそういうことで、お疲れー」


「ありがとうございました!」


「ばいばーい」


 3人と別れて、一直線に受付に行く。


「おかえり……かな? 直接ダンジョンに行ったみたいだね」


「まぁ、そうです」


「あの子たちと一緒だったのか。この街の中でも若い冒険者だからね。これからどうなるか期待されてるんだよ」


「そうなんだ。ダンジョンで助けて、一緒に帰って来たんだけど……」


「へぇ。ま、無事で何より。アイテム換金でしょ?」


「そうそう、お願いします。武器もいいんだよね?」


「大丈夫。珍しいの以外ならここで売った方がお得だよ。あとカードも貸してみて」


「じゃ、これお願い」


 俺とルナのギルドカードとダンジョンで拾った素材アイテム複数個と武器の杖を出した。


「コウちゃん、これもあげる」


 ルナも拾っていたんだったな。

 素材と弓の矢を10本出していた。


「あれ、矢なんかあったっけ?」


「ダンジョンで拾ったよ」


「いつ?」


「魔物たちから逃げたあと」


 あの時か。アイテム見つけたって言ってたな、弓の矢だったのか。

 一本手に取ってみる。


『魔法武器 スキル 火』


 うん?

 矢を置き、違う矢を取る。


『魔法武器 スキル 火』


 おお! 魔法がついている!

 調べたところ、全部の矢に火がついているみたいだ。

 2回目の魔法武器との出会いだけど、矢を使う人いないしな……そうだ! シュリカにあげるか。これで少しはご機嫌取りができるかもしれない。嫌われっぱなしってなんか嫌だからな。もう会わないならともかく、また一緒にダンジョンに行くかもしれないし。


「ルナ、この矢貰ってもいい?」


「いいよ。どうするの?」


「シュリカにあげようかと」


 そう言って辺りを見るが、あの3人はもういなかった。

 帰っちゃったのかな?


「なるほどー」


「と言うことで、これ以外換金でお願いします」


「了解。多いから少し時間かかるかも、上で待っててくれてもいいよ」


「上?」


 魔法付きの弓矢をボックスにしまいながら俺は質問を返した。


「行ったことない? 二階はラウンジになっているんだよ。軽食や飲み物が売ってたり休憩できたりするスペースだよ」


「へぇー、行ってみる」


「できたら呼び行くから。はい、カード返すね。ごゆっくり~」


 そう言って、アイテムをボックスに素材と杖を入れて、受付の男は裏に入って行ってしまった。


「では、二階に行ってみようか」


「うん!」


 二階に向かいながら、返って来たギルドカードを見る。

 ……俺は変わってないな。


「ルナはランク上がった?」


「Fってなってる」


「おお、やっぱり早いな。おめでとう」


 あれだけ倒してたもんな。すぐEランクになれるかもな……そのうち抜かされるかもしれないのでは……。

 二階に行くといくつものテーブルと椅子があり、座って笑いながら雑談している人や真剣に話している人などがいた。

 その中に見知った3人の顔ぶれもあった。


「あっ!」


 ルナも見つけたようで、その人たちに向かって走って行ってしまった。

 そしてスティナの後ろから首元に抱きついていた。


「……よほど好きなんだな」


 コウちゃんにもその愛情表現をおくれ。それだけで俺も1日頑張れる気がする。あの笑顔にはそのくらい力があるかもしれない。

 そんな事を考えていると、ハセルが俺に気づき手を振ってきた。


「よう、さっき振り。何してるの?」


「はい、さっき振りです。雨宿りですよ」


 傘1つしかないんだったな。さっき返してもらっちゃったからか、そこまで気づかなかった。


「あー、ごめんな。傘貸すよ」


「いえ、大丈夫ですよ。そこまでしてもらわなくても」


「そうか? 困ったときはお互い様だぞ」


「……それならダンジョン内で、来るなとか言わないでくださいよ」


「そ、ソンナコトモアッタナァ」


 確かにそうだ。でも命の危機の場合は別だと思うぞ?


「でも、あんな状況でも最後まで見捨てないでくれてありがとうございました。本当に感謝してるんですよ」


 最初から最後まで見捨てようとしてたんだけどな、行き止まりにならなければ……。


「いいって、君らが勝手についてきて勝手に助かったってことにしちゃいな」


「そんなことできないですよ。コウさんとルナちゃんは命の恩人です」


「大袈裟だなぁ」


「それほどのことをしてもらったんですから、当たり前です」


 感謝されるのは嬉しいが、こんなにもとは。何か罪悪感が……。


「ま、俺らがこの街にいる間はよろしくな」


「もちろんです!」


「でだ」


 俺は話しの流れを断ち切った。


「はい?」


 小声でハセルに話しだす。


「シュリカさんにプレゼントを贈ろうと思う」


「えっ! ま、まさか一目惚れってや……」


「それは違う!」


 声が大きくなってしまった。


 ルナ、スティナ、シュリカがこっちを向いたが、俺がごめんと言うと三人はまた話し出した。ガールズトークに花を咲かせてるのかな。


「それじゃあ何でです?」


「さっき怒らせちゃったみたいだし、一緒に依頼とかやるとなると仲良くしたいだろ。だからさ」


 その前の傘に一緒に入ってた時点でシュリカの機嫌が悪そうな気がしているんだが、それは言わない。


「なるほど。でも、大丈夫だと思いますよ」


「……何でそう思う?」


「長年の付き合いの勘です」


 女の勘は良く当たると言うが……。


「そうなのか。まぁ俺らじゃ使わないものをあげるから、そこら辺はいいよ」


「はぁ」


「というわけで、ハセル君から渡してもらってもいい?」


「何でです!?」


 また3人に睨まれる。今回は俺じゃないけどね。


「ご、ごめん」


「……それでね、あの――」


 彼女たち(ガールズ)(トーク)に戻っていく。


「そ、それで何で僕が?」


「だって何か恥ずかしいじゃん」


「恥ずかしい!」


 器用にも、ハセルは小さい声で驚いていた。


「そう……悪いか」


「い、いえ。コウさんにもそんな弱点が……」


 ハセル君、顔が緩んでるぞ。


「俺をなんだと思っている。俺は弱いぞ、ルナが異常なだけだ」


「そんなことないですよ。僕が腰を抜かしちゃった時、すぐ動けたじゃないですか」


「それは……前にいろいろ経験してたからだよ。あれは俺も驚いた」


「……そうだったんですか」


「そうだ。経験を抜けば俺は3人と同じくらいの実力だと思うぞ」


「でも、経験分コウさんの方が強いじゃないですか」


「そう……なるのか?」


「そうです」


「まぁそれは気にしないでいこう。でだ、渡してもらいたいものはこれなのだが」


「コウさん!? なんという無理やり……」


 ハセルの言葉を無視して矢をテーブルの下、俺の膝の上に置く。


「矢ですか。確かにコウさんたちは使いませんね」


「ああ、そして普通の矢なら売っていたところだが、これは火の魔法がついているようなんだ」


「火の魔法?」


「どんな風になるかはわからないけどな」


「いえ、そこじゃなくて、火の魔法付きの矢ですか?」


「そうだけど?」


「こ、高価なものですよ! 駆け出しの冒険者だと、買ったらすぐお金が無くなってしまいますよ!」


 そうなのか! でも結構お金持ってるんだよな俺……俺たちは。全財産、金貨30枚、銀貨18枚、銅貨49枚なのだよ。


「いくらぐらい?」


「矢系の魔法付きの中では一番安いんですが、それでも1本銀貨1枚です」


「1本では高いな……」


「さらに、在庫が少なくなると値上がりするんですよ」


「なんと! そのとき売れば儲けものではないか」


「買取は一律なんですよ」


「あらら」


「……本当にこんな高価なものいいんですか?」


「もちろん。俺らは使わないって言ったろ」


「でもお金にしちゃえば……」


「今日の素材で稼げるし大丈夫」


「じゃあコウさんからあげれば……」


「俺からよりハセルからの方が喜ばれると思ってな」


「でも、」


「あっ、いたいた。鑑定終わったよ」


 ハセルの言葉の途中で、受付の人が呼びに来た。


「お話し中でしたか。今日ならいつでもいいので取りに来てくださいね」


 言葉使いが丁寧になってるな。営業スマイルも出てるぞ。


「今行きます。じゃ頼んだぞー、使わなかったら売ってもいいからな」


 俺が座っていた椅子の上に矢を全部置いて行く。


「ちょ、ちょっと!」


「ルナー、行くぞ」


「はーい。またねー」


「ルナちゃんまたねー」


「ばいばい」


 シュリカもあんな笑顔ができるんじゃないか。俺といたときも、あそこまでじゃなくていいから、ずっと真顔でなく表情を変えてほしかったな……。


「お待たせしました。名前伺ってなかったから呼び出せなかったよ。さっきカード借りたときに名前見ておけば良かった」


「そういえばそうだったね。俺はコウ」


「あたしはルナだよ!」


「コウにルナね。覚えた。僕はマクシって言う。ついでに嫁はミレーナだ」


 そこで嫁自慢ですか……ノロケは聞きたくありませんよ。フェルとコルの2人だったら別ですけどね。


「それでマクシさん、いくらでした?」


「全部で22点、合計銀貨2枚、銅貨32枚だよ」


「や、安い」


「全部安いアイテムだったからね。杖が銀貨1枚分だよ」


 前は数個で銅貨84枚だったのにな。ほんとに全部安いアイテムだったんだな……。


「ありがと。じゃあミレーナさんのとこに行ってきます」


「よろしく言っといてくれー」


「どうせ夜会うでしょ」


「そうなんだけどね」


 お金を受け取りギルドを出る。時刻は19時30分を回っている。

 この時間には雨はもう止んでいた。


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