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011

 

 日は流れて8月1日。


 一昨日はファーム家にお泊りをした。

 カレン、ハンナと思いっきり遊び、ミリアさんの料理に舌鼓を打ち、ジャンさんに借金をしっかり返す。

 そして、泣かないと決めていたのにも関わらず、涙の別れをする。


 昨日はイーガルにいる知り合いに別れを言いに行っていた。

 その時、ギルドのおじさんから約束通り道を教えてもらい、簡単に書かれた地図も貰う。

 ここから2日間歩くと小さな村があるらしい。その村から5日間ほど歩くと街があり、そこから3日間くらいで都市ウェルシリアに着くそうだ。

 あいさつ回りを終えて家に帰り、ノナンさんにも足りなかった家賃を払いましたよ。


 夜は美味しいご飯を食べた。ノナンさんが前に、月1回くらいしか作れないと言っていた時の味だった。

 今月始まったばかりですよ、ありがとうございます。


 そして今、俺はノナンさんの家、シェアハウスの玄関にいる。


「コウ君、元気でやるんだよ」


 ノナンさんがそう言ってくれた。


「コウ、僕も強くなる。また会いましょう」


「コウさん、またね」


 ロダ、コル兄妹も別れを言う。


「そうだな。また会おう」


 会えるかわからないがそんな約束をする。


「では、お世話になりました。みんなもお元気で」


 お辞儀をして玄関を出た。



「よう」


 少し歩くとフェルがいた。


「おう。どうしたんだ?」


「どうした。ってお前なぁ。見送りだよ、見送り」


「そうか」


 俺たちは一緒に歩き出した。


「俺は今日からあの家で暮らすことにしたんだ」


「あの家?」


「コウがいた家だよ。シェアハウスって言うんだっけ?」


「……コル目的か?」


「ぶっ!」


 フェルが噴出した。


「な、お、お前なぁ」


「まぁまぁ」


 フェルをからかうのは意外と楽しいな。


「ま、それもあるけどな。家賃が安いんだよ。何で教えてくれなかったんだ」


「え、フェルの住んでた場所わからないし……」


「……そういえばそうだな」


 と、他愛のない会話をしていたら、町の出入り口が見えてきた。


「……そろそろ町から出発だ」


「おう、寂しくなるぜ。……コウ、俺らと一緒にパーティ組まないか」


「お誘いは嬉しいけど、今更無理だよ。みんなにお別れ言っちゃったしな。やっぱり行きません、とはもう言えない」


 だって恥ずかしいじゃないか。


「そうだよな」


「フェルがついてくればいいのでは?」


「俺はコルと居たい」


 正直に答えてきたなぁ。


「わかってるよ」


「じゃあ聞くなよな」


 お互い笑い合う。


「そろそろ行くよ」


「ああ。達者でな」


「お前もな。次会ったときは良い話聞かせてくれよ」


 肘でフェルを突っついてみる。


「そうだと……いいよな」


 フェルは俺を鬱陶しそうに払い、そう言った。


「まぁ、なんとかなるよ」


「お前が言うなよ!」


「……じゃあな」


「ああ。またな」


 俺たちはがっちりと握手を交わして、互いに反対方向に歩いて行った。



 ----



 俺は道なりに歩いて行く。


「久しぶりに1人になったな……」


 そういえば、こっちの世界に来てから1人になるのは初めてじゃないか? カレンやハンナがいたし、町に行ってからはノナンさんもいたからな。

 うーむ。こう考えると寂しいな。


 適当なことを考えたり、風景を見ながら数時間歩いて行く。


「……ワープの魔法とかないのかな」


 欲しい。そうすれば好きな場所に行けるのに。一度行かないと行けなかったり、町や街。村などしか行けなくてもいいから。

 と考えているとお腹がすいてきた。朝あんまり食べなかったからかな。緊張のせいか喉をあまり通らなかったのだ。

 ボックスから容器を取り出す。お弁当箱みたいな感じのだ。これにご飯を詰めてもらったのだ。ノナンさんお手製の料理を。

 座りやすそうな岩があったのでそこに腰かけ、食べることにした。


「もぐもぐ。やっぱり美味しいなぁ」


 もう食べれないと思うとやっぱり悲しい。一生食べれないわけではないんだけどな。ノナンさんに会いに行けばいいのだから。

 でも、それだけのために行くって言うのも、なんかやな奴みたいな感じがするな。


 そんなことを考えていたらこの容器の中身を全部食べ終えていた。


「よし、行くか」


 また歩き出した。



 歩いていると魔物にも襲われることなく、日が落ちていく。


「もう夜か……」


 辺りは暗くなっていた。道の端に行き薪を出す。

 ここで寝るか。

 そう考え、俺のひ弱な魔法で薪に火をつけた。


「半分は来れてるかな?」


 地図を見ながら考えた。そして、考えてもわからないことに気づいた。

 だって、俺この道通ったことないもん。今、どこら辺を歩いているかもわからないもん。

 地図が簡単に書かれすぎていて周りに何があるとかは書いてない。分かれ道近くにある目立つもの以外は。


 俺は町で買っておいたローブを出して着た。

 寝る時の布団の代わりとして羽織ればいいやと思い買っていたのだ。8月はまだ寒くないし。むしろ暑いくらいだ。

 ローブを着てフードも被り、横になった。



 ----



 焚き火の火は弱くなっていた。


「……寝れん」


 眠れんぞ。歩き疲れているのに。なぜだ?



 そのまま時間が経つ。

 焚き火の火も自然と消え辺りは沈黙と暗闇が支配していた。

 横向きで寝っ転がっていたが、寝返り打ち仰向けになる。

 空が見えた。

 そこは、キラキラと月と星が輝いている世界だった。


「……綺麗だなぁ」


 純粋にそう思った。

 今までこんな星空を見たことはなかった。どこまでも広がっている空。そこに輝く星々。

 ……この星の中に地球があったりして。


「そんなことないか」


 あったとしても行けないし、もう行く気もないな。あとの人生こっちで生きるつもりだし。

 なんとなく右手を空に向けてみる。


「掴めそうだな」


 そう錯覚させるほど光り輝いている。

 上げた右手を握る。


「……掴めるわけないか」


 腕を戻し体を起こす。


「寝れないんだし、出発しようかな」


 月明かりに照らされながら、出発の準備をして歩き始めた。



「やっぱり暗いな」


 この前行ったダンジョンより暗いんじゃないか? 月と星の明かりがなかったら何も見えないだろうな。

 日本ではこんな星空を見るには山とか行かなきゃ見れないのではないのだろうか。


 そんなことを考えながら、どんどん歩いて行く。

 すると、空の端が明るくなっていることに気づいた。


「もう朝なのか……」


 それでも俺は歩き続ける。



 魔物も現れず、順調に歩いていた。

 太陽が3分の1ほどの所まで上がった頃。家が見えてくる。


「おっ、着いたか」


 徹夜で歩いたせいなのか、村を見て安心したせいなのかはわからないが、眠気が襲ってきた。


「ふわぁ~」


 あくびをしながら村に向かう。

 村の入口に警備はいないようだ。


「ニャー」


「うん?」


 村の入口で声が……。

 声の正体を探すべく、きょろきょろと辺りを見回す。


「ンニャ!」


 薄い紫色の猫が入口の横にいた。


「ニャー」


 こっちを見て鳴いている。


「……ネコだ」


 俺は猫に近づき、なでる。

 すると猫はのどを鳴らす。尻尾もピンと立てている。


 見た目はアメリカンショートヘアーみたいな感じだな。……け、決してその種類の名前しか知れないという訳ではないぞ。確かに詳しくはないが、他にも……な、名前はで、出てこないが、しし知ってるぞ。か、考えれば思い出せる!

 ……って俺は誰に言い訳しているんだ。


 猫は触り心地がいい。良い毛並みだ。


「そうだ!」


 俺はボックスから容器を取り出し、中にある肉のひと欠片をあげた。

 ノナンさんから4個のご飯入り容器を貰っているからまだあるのだよ。

 猫はそれを美味しそうに食べている。


「美味しいだろ」


 そう言い猫の頭をなでた。


「んじゃな」


 まだ口を動かしていた猫にそう言い、俺は村に入った。



「宿屋とかないかな」


 寝たいのよ。

 辺りを見渡すと、すぐ住人らしき人を見つけたので聞いてみる。


「あっちに少し行くと宿がありますよ」


 と指をさして教えてくれた。


「冒険者さんですか?」


「一応そうですけど、それが?」


「いえ、あとで依頼を頼むかもしれません」


「そうですか。俺にできる範囲ならやりますけど……」


「それはありがたい。では」


 そう言って住人は行ってしまった。

 一体何を頼まれるんだろうか。

 気になったが眠気の方が強い。宿に向かうことにする。

 少し行くと宿はあった。外見からして二階建てのようだ。

 中に入ると、おばちゃんが案内してくれた。


「2日間でいいんだね」


「はい。取り敢えずはそれで」


「それと、後ろにいるネコはお兄さんのペットか何かかい?」


 ネコ?

 後ろを見ると、村の入口にいた猫がそこにいた。


「ついて来ちゃったのか」


「ニャァ~」


 猫は鳴きながら俺の足に擦り寄って来た。

 うぅ、かわうい奴め。


「……この子も一緒ってダメですか?」


 猫を抱いて聞いてみる。


「しょうがないね。お客さんも滅多に来ないし、銅貨5枚追加してくれれば許可しよう」


 言われた通りお金を払った。


「部屋は1番の部屋ね」


 カギを受け取り二階に上がる。

 この宿は民宿みたいな感じだな。


 部屋に入り猫を離す。

 俺はベッドに一直線だ。

 バタンと倒れ込み目をつぶった。

 猫もベッドに上がって来たみたいだ。薄目を開けると俺の隣で丸くなってあくびをしていた。

 俺は手を伸ばし、猫をなでながら眠りについた。



 ----



 起きると外は明るかった。


「今何時だろう……」


 頭をぽりぽりと掻きながら呟く。

 猫ちゃんはまだ寝ていた。


「冒険者さーん、起きていますかー?」


 ドアをノックされる。


「はーい。起きてますよっと」


 俺はドアを開けると、村に着いた時に道を教えてくれた人が立っていた。


「どうしたんですか?」


 俺は聞いてみる。


「昨日、依頼を頼むかもと言ったじゃないですか」


 昨日と言うことは、もう次の日なのか。

 昼頃に宿を取ったと思うから、約半日は寝ていた事になるな。


「そうですね」


「その依頼をしにきたのです」


 俺のお腹がグゥ~と鳴った。


「……ご飯食べながらでもいいので、話しをしてもいいですか?」


 そう聞かれたので俺は頷いた。



 宿の近くにある飯屋に向かった。もちろん猫ちゃんも連れていく。

 メニューを適当に頼み、俺は話を聞く態勢に入る。


「では、話しますね。あとで、村長に正式に頼まれると思いますので簡単に説明します」


 村人は話し始めた。


「この前、近くにある森にいつものように木を切りに行った人たちが帰って来なくてですね、調査のため、3日前くらいに少しは戦える人たちに行ってもらったんです」


「……その人たちも帰って来ていないと?」


「そうなんです。その調査をまたやりたいのですが、村を守る人がいなくなるのは困ります。なので、冒険者さんに依頼をしようと思ったとき、あなたがこの村に来てくれたんですよ。早く安全を確保しないと、村の存続がかかってますからね」


 ご飯が来たため、俺は食べながら話を聞く。


「この村は、木材で半分くらいの生計を立てているんですよ」


「……危険そうな依頼ですね」


 村の生計の話を聞き流し、俺は一応そう聞いてみた。依頼内容は把握できたが、戦える人たちが何人か行っているのに帰還者ゼロはどう考えても危ないだろ。


「まだ実態は掴めてないらしいのですが、どうかお願いします」


 村人はそうお願いをしてきて、話は終わった。

 村長の家の場所を俺に教え、食べ終わったら行ってくださいと言い残して。


 俺と猫はご飯を食べ終えてから、言われた通り村長の所に向かうのだった。猫は飯屋から出たときにどこかに走っていってしまった。



「すいませーん」


 家の前で声を上げる。

 ドアが開いた。

 中から優しそうなおばあちゃんが出てくる。


「あの、俺冒険者やってて、村長の所に行ってくれって言われて来たのですが」


「聞いてますよ。上がってください」


 おばあちゃんは応接室に俺を通すと、村長を呼びに行ってくれた。


「やあ、待たせたね」


 すぐに人がやって来た。このおじいさんが村長なのだろう。


「いえ」


「では、いきなり本題入ろうと思うが良いだろうか?」


「はい」


「聞いていると思うが、森の調査をお願いしたい。報酬は金貨1枚でどうだろう?」


 金貨1枚だと!


「……そんな危険なんですか?」


「たぶんのう。前に調査に行った人たちが帰って来てないから何とも言えんが……」


「調査ってことは、その原因を見つけて戻ってくればいいんですよね」


「そうじゃ。魔物だったら倒してくれるとありがたいがのう」


 倒さなくてもいいんだな。


「わかりました。その依頼受けます」


「そうかい! 助かるわい。明日の朝、またここに来てもらってもいいかのう」


「わかりました。……あの、俺1人ですか?」


「流石に1人は危ないじゃろ。道もわからないと思うしのう。明日一緒に行く人を紹介しようと思っておる」


 良かった。1人で行かなくてもいいみたいだ。言っといてあれだが、危険な森に1人で行けとかだったら、辞退しようかと思ったぞ。


「はい」


 俺は村長の家を後にした。

 その後、村をぶらつくがやることがない。


「……何やろう」


 村の端の方にいくつか畑がある。林業と農業でこの村は成り立っているみたいだ。

 俺は入って来た所から村を出て、草原に行く。

 ここら辺は道以外は草原となっていた。


 鞘から剣を抜き、ジャンさんが前にいるイメージをして振るう。イメージトレーニングというやつだ。



 ----



「ふぅ」


 練習をやめてその場に座り込む。

 日が傾いてきていた。

 そうそう、折れていた剣は鞘に入れておいたら本当に直っていた。凄い剣だな。


 村に戻り飯屋へ。

 途中で猫ちゃんが座っていたのを見つけ確保。1人は寂しいということを、ここに来るまでの道のりで気づいてしまったのだ。


 おばちゃんに注文をして、ついでに今日が何日か聞いてみる。旅に出ると日付感覚なくなるのな。

 みんな日付とかはどうやってわかっているのだろうか。

 すると、おばちゃんは魔法を使いなさいよ。と言って来た。

 え?

 生活魔法に日付確認ができるのがあるみたいだ。時間確認もできるらしい。

 そんな魔法もあったのか。初めて知った。

 疑問がいきなりわかったのであった。というか、誰に時間は体内時計や日の方向でわかると言われた気がしたんだが……騙されたのか……からかわれたのか……。どちらにせよ、後で教えてくれてもいいじゃないか。あれは、この世界のジョークの一種だったのか?

 常識がなかった俺にはきついぜ。


 そんなことを考えながら黙々とご飯を食べ終える。

 日にちはちゃんと教えてくれました。今日は3日だそうです。


 ご飯を食べてから宿に帰る。

 やることもなかったので、すぐ寝ることに。

 今日聞いた魔法。俺は勝手に日付時間魔法、略して日時(ひじ)魔法と命名。日時(にちじ)魔法は何か言いにくいしな。カレンダー魔法も良いと思ったが、時間が入ってないと思いやめたのであった。

 やり方はおばちゃんに聞いた。

 聞くのは恥ずかしかったが、聞きましたよ。

 やり方は他の生活魔法と一緒。というか、この魔法は生活魔法の一種なのだから当たり前か。頭で思い浮かべれば、魔力が反応してくれるのだ。


『163年8月3日 19時46分12秒』


「おっ!」


 5秒ほど頭の中に時間が浮かんだ。その間、秒数は動いていた。前に短剣を持ったときに出てきた感じと同じような感覚だな。

 それから、ベッドの上でゴロゴロしていた。が、寝れない。昨日寝すぎたかな。

 今日は3日で、この村に来たのは2日のはず。来てすぐ寝て次の日の、日が高くなるまで寝ていたのだもの。しょうがないか。

 猫はもちろんベッドの上で丸くなっております。

 猫とじゃれようと思ったが、もう寝ていたのだった……。

 俺はじゃれるのを諦め、素直に寝ることにした。


 ……眠りにつけたのは、それから1時間ほどしてからだった。



 ----



 次の日。

 俺は起きてからすぐ時間を確認。


『163年8月4日 9時51分02秒』


 寝坊した。

 9時に起きようと思っていたのに。


「やべっ」


 急いで支度をする。

 ノナンさんの手作り弁当を食べて宿を出た。猫は宿にいる。窓を開けておいたから大丈夫でしょう。


 10時過ぎに村長の家に着き、ノックをする。

 昨日の様におばあちゃんが出て来て、中に入れてくれた。


 部屋も昨日と同じ部屋で、入ると村長と見知らぬ2人の男がいた。

 1人は軽そうな鎧をつけており、もう1人はローブを羽織っている。

 3人は何か話していたが俺が来ると話をやめ、俺に話しかけてきた。


「良く来てくれたのう。この2人が今日、冒険者さんと一緒に行く者たちだ」


「よろしく」


「よろしくお願いします」


 2人はそう言ってきた。


「……よろしくです」


「道はこの2人が知っておる。気をつけるのだぞ」


 村長はそう言って、俺たちを村から送り出した。


気づけばユニーク700人を超えていました。PVも2500超え。嬉しいですね。

読んでいただきありがとうございます!

いつも読んでくださる方、ありがとうございます!!

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