プロローグ
「……うーん」
目を覚ますと、世界が白かった。
「……えっ?」
俺は言葉をなくした。物が何もない世界。上下左右どこを見ても白。自分の影すらもだ。
今は夏休みの真っ只中のはずだ。高校生になって初めての夏休みの中頃だった。
だが、なんだこの状況は。寝て起きたら監禁されましたってか、笑えない。
その場で胡坐をかき、昨日やったことを思い出す。
たしか昼頃に起きてブランチをし、友達と3人で遊びに行き、帰宅。それから風呂に入り、晩飯を食べ、部屋にこもりゲームをして寝た。
いつもと変わらない夏休みを過ごしていたはずだ。
宿題? それは最後にやるものだ!
そんなこんなで、自堕落な夏休みを過ごしていたというのは自負している。
こんな生活をしていた罰が当たったのかと考えていると、前方がいきなり光りだした。
「まぶしっ!」
とっさに目を閉じる。
……光がなくなったのを感じ、目を開けた。
そこには人がいた。正確には人が浮いていた。シスターが着ていそうな服を身に着けて。
「おはよう」
やさしい声でいきなり話しかけられる。
俺は茫然としていた。
ふと思う。これは夢かと。
そりゃそうだ。ずっといたら気が狂いそうなほど白く、何もなく、どこまでも続いているように見える世界だ。
なぜもっと早く夢だと思わなったのだろう。
そう考え、俺は寝ることにする。
「ちょっと! なんで横になるの!!」
と話しかけられたので「おやすみなさい」と俺は返事をし、目をつぶる。
「いたっ!?」
両頬をつねられた。
「いきなり寝るなんてひどいじゃない」
「そういわれても……。ここは夢なんでしょ?」
そう言いながら、少しばかり浮いている人を見る。
そういえば顔をちゃんと見ていなかったと思い、じっと見つめる。
女性だった。
整った顔立ちをして、はっきり言ってすごく美人だ。髪は金髪で腰までで伸びている。体も、出るところは出ていた。
「今から説明しますので……って聞いていますか!?」
見惚れていたら注意された。
コホン、と咳払いをして彼女は話を再開する。
聞くと、どうやら俺は選ばれたらしい。何にって? 異世界へ行くことにだ。
魔物がいて、剣と魔法もある王道ファンタジーの世界らしい。断ることもできるそうだ。
説明はこうだった。
異世界に行くと、二度と戻っては来られない。
異世界に行くと、今いる世界では俺の存在は元からいなかったことになるらしい。
あと、今の状態か、新しい命に俺の魂を入れる、いわゆる転生の2つの行き方があるそうだ。
他にも話してはいたが、右から左に抜けていった。
俺は考えた。
ファンタジーの世界には行きたい。憧れる。だが、今の世界にも未練はある。クリアしてないゲームやマンガの新刊が出たらもう読めない。
しかし、この人生の選択は選ばれなければ一生ない。あったこと自体奇跡だ。
そう思い立ったら自然と答えは出た。いや、この話を聞いた瞬間に答えは出ていたのかもしれない。
「異世界に行きます!」
そう俺は答えた。
「――最終確認です。もう戻ることはできませんが、本当に行きますか?」
「はいっ」
「わかりました。では、今の体と転生どちらがいいですか?」
異世界ですぐ行動したいと思い、今の体にした。
「では、転生しない分、能力補正をします」
俺の体に光が降り注いだ。
「では、ジャンプしてみてください」
「ほっ」
体が今までより軽かった。
「正直に言うと、転生するよりも今の体を選ぶほうが、特典が良いんですよ。その代り、魔力が最初は無いんですけどね」
笑顔で言われ、少し見入ってしまったのは内緒だ。
「まぁ、勇者として行くわけではないので、戦わないでのんびり暮らすのもありですよ?」
覚えようとすれば魔法も使えるとのこと。
「質問いいですか?」
「はい、なんでしょう」
「なんで俺が選ばれたのですか?」
「……秘密です♪」
会ってから一番の笑顔で言われてしまった。が、この笑顔が見れたのでいいとしよう。単純だな、俺は……。
「言い忘れましたが、言葉は翻訳能力を授けてありますので大丈夫ですが、読み書きはできません」
「覚えろってことですか……」
英語は一番の苦手教科であるのだぞ。新たな言語を覚えられるかな……。
「できなくても生きてはいけますが、覚えたほうが世界を楽しめますよ」
ごもっともな意見をいただきました。
「それでは、そろそろ行きましょう」
彼女が、パンと手を叩くと俺の体が輝きだした。
「楽しんでくださいね。追川 幸さん」
何で俺の名前を、と思うと同時に意識が途切れた。