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出会い

 寂しげに仰ぐ先には明るく輝く満月。

 初めて見た彼女は、『月のような女性(ひと)』だと思った。


 大学に入学して二年目の夏、俺は田舎に帰省した。

 それ以外にも月に一度は帰っていたが、今回は夏休みということもあり長く滞在することにした。

 両親はまだまだ元気のようで、日課のランニングは欠かしていないという。もう少ししたら親孝行を考えるつもりではいる俺としては少しホッとしている。

 その代わり寝るのは早いらしく、散々「そろそろ彼女作れ」とか「近所の○○くんなんてもう結婚してるのよ」とか二人して俺に熱っぽく話していたくせに夜の十時を回ると話を切り上げてとっとと寝てしまう。もっと他の話を、と思っているのに何故かその話にいってしまう。何故だ・・・。


 滞在四日目辺りの夜。やはり眠れず、アルコールを少しでも抜こうと夜風に当たりながら近くを散歩していた。

 今日も結局最後には例の話になり、四日目となるとさすがに精神的に疲れてくる。まぁ、親として心配してはくれているのだろうが・・・俺も「しばらくそのつもりはない」とはっきり言ってしまえばいいのだが、ついいもしないのに「気になってる人ならいる」と言ってしまってからは「どんな人だ」とか「年上か年下か」とか散々詮索されて結果的に架空の人物を作ってしまった。


『黒髪美人で、性格は大らかな年上。酒豪で合コンでは最後まで潰れなくて、お酒の飲み方まで教えてくれた人』


 とまぁ、大方俺の好みだったりするのだがそんな女性は中々出会えないだろう。そもそも、好みなんてあくまで自分の好みなのだから、それを他人に要求すること自体が間違っている。それで永遠と出会えなくてがっかりするなら「出会えたら嬉しいな」位の気持ちでいれば十分だ。

 でも、もし出会えたらそれは「運命」としか言い様がない。


「まぁ・・・出会えたら嬉しいけ、ど?」


 ふと缶を置く音に溜息を吐いていた顔を上げると、一人悲しげに月を見上げて座り込む女性がいた。先程の音は彼女が置いたビールの缶の音だったようだ。

 庭のセンサーで光るライトが彼女を照らしていたのでよく見えた。


 ・・・いた。


 俺が、架空の人物として話した彼女が。

 

 実際に・・・目の前に、いる!


 俺は暫しその場から動けず、彼女の横顔に見蕩れていた。

 まさか本当にいたなんて思いもしなかった。

 髪は短めだけど黒髪で、年上かは分からないし酒豪かも分からないがビールを飲んでいる。もしかして、酒が好きだったりするだろうか。

 こんな運命みたいな出会いなんて他にあるだろうか。いや、絶対になさそうな気がする。

 話しかけてみたい。けど、なんて声をかけよう? こんばんは? 

 しかし、いきなり話しかけて驚かれるに決まってる。「うっかり不審者110番」なんてシャレにならない。現に、道を聞こうとしただけで通報されそうになりかけた経験があった。まだ二十歳になったばかりなのに道を聞こうと女子高生らしき女の子に声をかけたら、「変なおじさんに声をかけられた」と交番のお巡りさんに通報された時は泣きそうになったものだ。

 自分が老け顔なのだろうかと思い出して悲しくなりつつ動くか動かぬかと悩んでいると、うっかり足を動かしてしまった。土とサンダルの擦れる音がする。


「・・・誰?」


 こちらに振り返った彼女は不審げに警戒するように声を出した。そして、俺の姿を見ようと闇に目を凝らしている。

 こうなったら変に動いたら通報されると考えた俺は、両手を上げて闇から出た。数少ない外灯の下まで進み、姿を現すとスポットライトにでも照らされる気分だった。


「あ、怪しいものではありません。たまたま散歩しているところを通っただけです」

「本当に?」


 弁明はしたものの、彼女の警戒は未だ解けなかった。訝しげな目が上から下まで睨めつける。


「散歩してて、たまたま通ったのは本当です」

「怪しいのは認めるの?」

「あ、いや、そういうことではなくてですね。え、と・・・」


 嫌な沈黙が続く。冷や汗をダラダラと背中を伝う。頭をフル回転して弁明の言葉を絞り出す。


「あー分かった。道に迷ったんだ!」

「へ?」


 何も言えずに口ごもっていると一人で納得したように「田舎は同じ風景が多いもんねー」と苦笑した。その姿に思わず惚けてしまった。因みに決して道に迷ったわけではない、と思う。


「いやその、道に迷ったわけでは・・・」

「あれ、違うの? この辺だと見かけたことない顔だから都会から来た人かとてっきり・・・」

「あ、実家はすぐ近くにあって、都会の大学に行ったんですけど、今丁度夏休みだから帰ってきたところなんです」

「なるほど、それでかぁ。私の方が新人さんって訳だ」

「え?」

「私ね、去年の冬から時々ここに来てるの。ここ友人の家でね、今は借りてるから、こっちに引っ越したわけじゃないんだけどそのうちここで暮らそうかなって思って」

「あ、なるほど」


 確かに田舎の方は落ち着いてて過ごしやすい。もちろん、都会の方も便利さなどを言えば住みやすいが、心を落ち着けるような穏やかさを求めるなら田舎の方も魅力的だ。俺も月一程でこちらに来るといつもホッとするような気持ちになる。


「ええと、疑ってごめんなさい。てっきり不審者かと思っちゃって・・・」


 ふと思い出したように彼女がわざわざ立って頭を下げてくれた。


「そ、そこまでしなくてもいいですよ。俺も勘違いさせるような真似しちゃったんですから・・・」


 というか、立ち止まって気配を消して様子を伺ってた俺の方が悪いような気がしてきた。そんな怪しいことをしてたら誰でも怪しまれるに決まってる。


「あはは、じゃあ御愛顧ね。あ、そうだ。良かったらお詫びに飲んでってよ」


 と後ろにあったらしい少し大きめのクーラーボックスから取り出したのは彼女が飲んでいるのと同じビールの缶。ビールを顔の近くで持って微笑む彼女はまるでビールのイメージガールのようだった(そう思ってるのは俺だけかもしれないが)。


「お詫びって・・・俺も悪かったんですからそんな、いいですよ」

「じゃ、君のお詫びは私と一緒に飲むことでいいんじゃない? あ、それともまだ未成年とか、時間無いとかだったら別に」

「い、いえ! 時間ならいっぱいあるし、成人してます」

「そっか、良かった。ま、飲めなくても引き止めて付き合わせるつもりだったけどね」


 折角のお誘いがチャラになると思い、思わず彼女が言い終わる前に遮って叫んでしまったが、結局は引き止めるつもりだったらしい。

 彼女があはは、と笑いながら手招きするままに隣の小さな庭石に座る――庭石の上といっても数センチ下は地面だからほぼ地べたに座ってるに近いが――とはい、とビールを渡された。


「ありがとうございます」

「ささ、開けて開けてー。かんぱーい!」


 既に酔っていたのか陽気な様子で俺の開けたばかりの缶にカチリと一度当てるとそのままグイッと缶を傾けた。そして、暫しゴッゴッゴッと喉の音を鳴らしながら水でも飲むように飲み、息の限界まで達したのか勢いよく「ぷはああああっ!」と声を出した。間違いない。酒豪だ。きっとそうだ。


「はー誰かと一緒に飲むって美味しいねー。ほら、君もグイッと」

「は、はい!」


 彼女に勧められて思わずグイッと勢いよく飲み始めてしまった。隣でおおーという小さな歓声が聴こえる。

 大量のビールが喉を通ってから思い出したのだが、実のところあまり回数を重ねているわけでもないので下戸か笊かも分かっていないのだ。ちびちびといつも少しずつ飲んでいるので今のように一気に飲まない。決して。

 つまり、まだ酒に慣れているわけではない為、大量のアルコールを急に摂取すると・・・。


「わっ! だ、大丈夫!?」


 俺の意識が急に入ったアルコールの所為でぼんやりとする。座っていても何だか頭がふわふわとして・・・意識の彼方でバタリという音を最後に俺の意識は消えた。

初の連載小説!

恋愛はあまり得意な方ではないのでR15さえもいかなさそうなラストになりそうですが最後まで書いてみようと思います。


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