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布づくり

 爪楊枝大の骨を針に応用することを思いついた俺は、本格的に布を織ってみることにした。思い出せ・・・小学校3年生の時、父親と一緒に参加した『夏休み親子ふれあい体験教室 ~自然布を織ってみよう~』での楽しかった時間を・・・。地域の学習センターで行っていたワークショップの一つで夏休みの期間に数回に分けて行われたものだ。当時馬鹿みたいにクワガタ採りにはまって野山を駆けずり回っていた俺に、父親が何か有益な時間を過ごさせようと参加させた。教室ではやっぱり馬鹿みたいにはしゃいでいる俺がいた。懐かしい思い出だ。


 ・・・よし、何とかいけるか。しかし糸にする繊維はどうするか。この世界に綿や羊毛があるのか解らない。それがこの森で手に入るかどうか・・・と考えていたところでさらに閃いた。・・・あるじゃん押し入れ草(大きな麻)。単なる掴みの1ネタだけじゃなかったんか。伏線だったんか、お前は。麻糸を紡げば麻布で丈夫な服や麻袋、またロープなどを作ることができる。やるじゃん押し入れ草(大きな麻)。こと衣料に関してはお前天才だ!


 早速、最初に発見した押し入れ草の群生地に戻る。木々に印をつけながら移動してきたので、戻るのは簡単だった。あの時は気づかなかったが、よくよく見れば見渡す限り群生していた。衣服その他を作るため大量に採取しても狩り尽くすことはないだろう。というか、別の用途で活用すれば巨万の富を得ることができるかもしれない。まあ、それだけはやらないつもりだ。今の所は。着ていたポロシャツを脱いで。襟口と袖口を縛り袋にしてどんどん入れていく。何度も行き来するのも面倒なのでスラックスも脱ぎ足元を縛りこれも袋にする。これ以上入らなくなった所でオー窟へと戻った。




 オー窟に戻ると、まず袋の中身を露天風呂にぶちまけ、ついでに汗を流した。服も草臭いので洗っておく。洗濯を終え陽の当たる所に干し、たっぷりと時間をかけて湯につかると浮いている草が大分ふやけてきた。よくふやけた物から順に葉を落とし茎の外側の皮と内側の部分を分ける。確か外側がやわらかい麻糸になって内側が荒い麻布になるはずだ。途中からのぼせてきたので場所を作業場に移し続けた。この作業だけでこの日は終わった。


 翌朝、食事を爆裂弾と星狐を採ってきて簡単に済ませると作業場に向かった。床には前日までに剥いた皮と内側の茎が分けて置いてある。土魔法で大きな作業机、椅子、釜、土鍋、排気口を造ると鍋に水をだし火を焚いて沸かした。剥いた皮を土鍋にどんどん放り込み茹で上がったら机の上で切れないナイフを使い皮の繊維をこそぎ落としていく。今回は作業回だ・・・猛烈につまらなくなりそうだ・・・とブツブツ呟きながら黙々と作業をこなす。食事は作業の途中で適当に済ませた。



 膨大な時間をかけて皮と茎を全て繊維にすると一つの魔法を唱えた。

 「土が糸車を形作って固まる。」でた。やった。

 イメージしたのは手回しタイプの糸車。ふれあい体験教室で使った原始的なやつだ。難しい原理のはイメージしきれなかった。わしゃわしゃになった繊維の端をねじり、糸にして糸車にセットした。片手で糸車を廻し細い木の棒に絡め取っていく。また膨大な時間がかかる・・・。


 何日かにかけて繊維を全て糸にした。皮の繊維はやわらかい糸、茎の繊維は荒い糸になった。俺は、自分で自分を褒めてあげたい気分で一杯になった・・・。


 木の棒に巻き取った糸を釜の灰で煮込む。なんか体験教室でこんな作業をやっていた。変な工程だから覚えていた。煮込み終わったらきれいなお湯でもう一度煮込んだ。たしか汚れが落ちるんだったっけか?まあ、いいか。

 煮込んで白くなった糸を染織する。今回は果物の採取に向かう途中で紺色の草の群生地を見つけたのでそれを使う。煮込めば色が染み出るのは確認済みだ。確か、より色がつくように銅と一緒に煮た方がいいと奇跡的にワークショップの先生が話していたのを思い出したので折れた銅の剣も一緒に煮込む。煮込んだのはやわらかい糸だけだ。何回か煮込むと濃い紺色が定着した。いい感じだ。干して乾かした。


 あとは布を織るだけだ。山の頂きはすぐそこだ。早く完成させて、自分のご褒美に残った煙草12本の内の1本吸うんだろ?


 気持ちを奮い立たせ、布を織る。まず太い木の棒2本を用意し、それを手の幅一杯の感覚で地面に立てた。その2本の木の棒の間に糸を回していく。Ⅱ←これを90度横にした形だ。横にして縦の部分がそれぞれ木、横の口の部分が全部糸だと思ってくれ。これで布の縦糸が完成した。その内に一本を土魔法で用意したY字の物干し台の上に引っ掛ける。物干し台の高さは身長より少し高いくらい。下の棒は地面についていない。下の棒に糸で石をくっつける。これで重さで糸がピンと張られる訳だ。

 伝わり辛い方の為に改めて言い直すと、今はYⅡY←こんな状態だ。Yが物干し台。Ⅱの上と下の飛び出ている部分が棒、口の分が縦糸だ。縦糸は二本の棒の間をまわしてある。物干し台のVの部分に上の棒が引っかかっている。下の棒は地面についておらず、糸で石が結ばれ縦糸を重さでピンと引っ張ってている。・・・自分でいっていても伝わりづらい。


 針替わりの骨に炎で小さな穴を空け、糸を通す。針を縦糸と垂直にじぐざぐなるよう通していく。右から左に通したら、折り返し、左から右に通す。ときどき上から横糸を抑え、すきまがなくなるよう埋めていく。・・・非常に神経を消耗する作業だ・・・。上から下まで糸を通すと布を廻し一周するまで延々と横糸を通す。


 ・・・気の遠くなるような時間を経て全ての横糸を通し、土魔法で造ったはさみで切ると1,7m×3,5mの紺色の麻布が完成した。正直涙が止まらなかった。


プロット達成率9%未満

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