始まりの村デビューに失敗した
・・・決めた。引き篭ろう。もうこの森を終の棲家としよう。
即断即決した俺は、自分の足跡を頼りになんとか服を脱いだ場所を探し出した。無言で服を着る。まだほのかに残る温かさが先ほどの出来事が夢ではなかったことを教えてくれる。あ、頬が濡れてる。
あるのかは解らないが、これで冒険者ギルドで依頼を受け、華の冒険者生活を満喫する日々は潰えた。今後この樹海だけが俺の全てだ。ここが俺にとっての異世界だ。街道に戻るだ?無理無理恥ずかしくて悶死するわ。
調査の再開だ。日が暮れるまでにはなんとか寝床を確保しよう。
・・・樹木に印をつけながら歩き、およそ1時間程だろうか。周囲を警戒しながら進んでいると、高さ10mはあろうかという崖が見えてきた。近寄ってみると、そこだけ周囲に草木がなく、崖の下には入口の高さが3mほどの大きな洞窟がぽっかりと口を開けていた。一時的にも雨露をしのぐにはよさそうな場所だ。他に目星もないし、当面の棲家と決め、中に何かいないか目視できる限界に離れて張り込む。10分程経過した時、広場一方の繁みが大きく揺れた。当たりだ。ここをねぐらにしている奴がいた。繁みから現れたモノを見て思わず唸ってしまった。
「オーク・・・。」
それは2mを超す人型の巨体、豚の頭、朽ちた革の鎧を着た異形のため、もうオークでいいだろうという提案が圧倒的過半数をもって可決された。片手で何かの骨と思われる大きな棒を肩に担ぎ、もう一方の手には何かの獣?の足を掴んで引き摺っていた。獣?かどうか判断しづらいのは、身体のあちこちが不自然に変形して生前の状態がわからなくなっており、相当な力で撲り殺されたことがわかる。オークは圧倒的な威圧感を放ちながら、どっしりとした足取りで洞窟の中に入っていった。
・・・あまりの恐怖に屁が止まらない。全力で撤退する。洞窟どころか崖が完全に見えなくなる位置まできてようやく屁が止まった。
しがない会社員だぞ俺は。スポーツだってモテる為に大学でやってたテニスだけだぞ。それも入社してからは一度もしていないぞ。最近身体を使ったことといえば、通勤の満員電車で押されてバランスを崩す女性に脚を踏ん張って壁になってあげたことぐらいしかないぞ。逆立ちしたって勝てっこない。それこそ、全裸で逆立ちしたって勝てっこないぞ。
正攻法では敵わない。ならば何か手はないかと探していたところ、ポケットの中からくしゃりと音がした。・・・これは駄目だ。何もかもこれで解決すると思ったら大間違いだ。何故かというと現実では何も解決しないからだ。それをお前は前回の失敗で学んだはずだ。というかまだ持っていたんだコレ・・・。
コレで思い出したが魔法を使えば可能性があるのではないか。なぜすぐに思いつかなかったんだろう。そうだ、俺には魔法があった。魔法を試行錯誤すれば対抗する所までもっていけるかもしれない。
まずは指先に集中し、一番の検討課題だった言い方について試してみる。
「炎でろ」でた。でろーよりすこし強い気がする。
「いでよ神竜」でなかった。
「炎、君に決めた。」でなかった。出る訳ない。
純粋に名詞と動詞の組み合わせが発動条件か?あと余計な要素はいれない方がいいな。次は威力が調節できるのか試してみる。
「強い炎でろ」おおー、完全にリアル●ガフレイムです。エガフレイムではないです。
「灼熱の炎、でろ」でた。凄い眩しい。何も見えない。
「灼熱の炎、でろでろっ」でなかった。なんとなく語呂が良かったので言ってみただけだった。出る訳ない。
気がつけば土が溶けてテカテカに光っている。それほどの威力か。でろでろっ。何気にハマった。
それにしても疲れた感じがしない。この世界にMPの概念がないのか?それともそんなもんなのか。
一つ言えることは、これで今日の寝床は確保した。
簡単なプロットを立てました。完結を目指すため、次作からプロットの達成率を%で記していこうかと考えています。