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気がつくと知らない天井だった

――――――――気がつくと知らない天井だった。





 これは「吾輩は猫である」に次ぐ冒頭の一文で有名な言葉だろうが、正に今そんな感じだった・・・。




頭上には一筋の陽光とそれを覆う樹木の影。身体を起こし周囲を見渡してみると、鬱蒼と茂った樹木。ジャングルのようだ。近所の森では見慣れない植物も見受けられる。

これは・・・アレ(転生)か?アレ(転生)なのか?





落ち着け。まずは周囲を見渡してみろ。とりあえず野犬や害獣など生命を脅かす要素がいるかどうかだ。耳を澄ますがとりあえずはいない。・・・よし、少し落ち着いて、昨夜までの状況を整理する。



 まず自分の事だが、氏名は角蝦(かどえび)遊太(ゆうた)、27歳。会社員だ。175cmの身長、中肉中背、顔の容姿は・・・好みによる。普通だと思うが、わからん。昨夜は給料日ということもあり会社帰りに先輩の誘いで飲みに出たんだが・・・その後の記憶がない。梯子した2件目までは覚えている。久しぶりに外で飲んだ事もあった。その所為で少しはっちゃけてしまったこともこの際認める。だって焼き鳥旨かったんだもの。ガード下のシャッター前で寝たのだろうか。反省している。……謝罪にも応じる。しかし、2件目を出た後の記憶がない・・・。






 ……という事は、酔って公園のベンチか何処かで泥酔→公園の浮浪者に荷物を奪われる→ひん剥かれた人間を見た密入国の誘拐組織に売られる→薬で目を覚まさないようにされ、臓器売買目的で海外に輸出される→組織の施設に一時留め置かれる→薬が偶然切れる←今ココ・・・この可能性も十分にありえるのではないか。まじかよ……。


 と、途端に冷や汗が流れる。あわわわわ。見慣れない植物もその所為ではないか。あわわ。て、手が震える。ア、アレ(転生)とか言ってる場合ではないのではないか。中国・韓国・フィリピンとかマレーシアとか、今もうそこら辺じゃないだろうか。

 ……落ち着こうと胸ポケットから取り出した煙草を、取り落とす。もう駄目だ。昨夜先輩と散々山田課長の悪口言った報いなのか。こんなんあるか。山田の呪いかよ。山田どんだけ強いんだよ。












 とりあえず落ち着こう。そうだ。頭がフリーズした時は、まずマニュアルを見直せ。単純作業から始めよう。まずは煙草を拾うことから始めよう。



 ……ふー。オーケー、イージーだぜぃ。ほら、拾ったぜぃ。簡単だぜぃ。ちょっと悪ぶってちょっと落ち着いてやったぜぃ。


 なんか焦って杉ちゃんの引き出しを開けてしまった。うそ。俺取り乱すと杉ちゃんの引き出しで平静取り戻そうとするんだ。というか、俺杉ちゃんの引き出しあったんだ。始めて知る自分の一面。衝撃過ぎた。嘘だろ。マジか。そうなのか。……これは時間をかけて処理していかなければならない。



落ち着こう。幸運にもまだ煙草は15本程残っている。これも大事に吸わなきゃな・・・。一本口に挟み、ライターを探そうとあちこちポケットを探ってみると、ない。ライターがない。喫煙者の方なら理解していただけると思うが、煙草を口に挟んでから吸えると思っていた煙草が吸えないと解った時の絶望感……(ここで杉ちゃんネタに絡めた文にするつもりだったが、ネタもう忘れてた)。

 ……火だ。まず水より食料より火だ。火を起こそう。


 枯れ草を集めようと周囲を見回した所、ある一つの草が目についた。・・・何処かで見たことがある気がするが、上手く思い出せない。しばらく悩んでみたものの時間だけが過ぎていくだけだった。近くに群生している中から枯れ枝数本と大量の枯れ草を拾い、元の場所に戻る。ここだけが、不思議と開けた場所になっていた。


 さて、ここからが問題だ。枯れ枝、枯れ草。伝え聞く所によるとこの2つがあれば火がつけられるそうなのだが、果たしてそう簡単にいくかな?と自問自答してみる。・・・フフ、少し楽しかった。答えは、30分粘って枯れ枝を膝で折るが正解だった。煙草が吸えないイライラと、火が着かないイライラが、イライラの宝石箱だった。・・・済まない、取り乱したようだ。膝が痛い。


 枯れ草も蹴散らした。くそ、まったく意味がない。この場所で目が覚めてから意味のある行動を一つもとっていない。なんて厄日だ、山田の馬鹿!


 もういっそここが異世界で、剣と魔法のファンタジーで、魔法とか「炎でろー」とか言ったらでるかな~と思って指先にイメージ集めてみたけどやっぱり出ない!・・・ああ、ちょっとは夢見たよ!おめでたい奴さ俺は!ハハッ!


 ・・・でも一応、万が一出るかも知れないので、ライターの火のイメージで小さな声でボソボソと「ほ、ほのおでろー」と言いながら指先に集中してみる。


 ボッ


 でた。すぐ消えた。


 ・・・マジで。マジで?

 




 慌てて煙草を取り出し口に咥えた上で、もう一度試みる。


 結果、煙草は吸えたが鼻毛が焦げました。


 よく100円ライターのガスを高出力に噴出するよう改造し、友達に渡すあの状況だ。臭い。鼻毛が臭い。髪の毛燃やした時のあの匂いがひたすら鼻に残る。煙草は吸えたが散々だ。しかし、物は試してみるもんだ。得る物が多かった。魔法の可能性。異世界の可能性。・・・そして見知らぬ土地で初めて意味のある行動が出来た喜びプライスレス。枯れ草を集め、とりあえず火を着けてみる。少し大きなガスバーナー程の炎をイメージし、指をかざすと丁度それ位の炎がでた。しかし、毎回「ほのおでろ~」は恥ずかしい。改善の余地がある。


 水は?と疑問に思い、指先から「みずでろ~」と言ってみた。でた。うん。見た目完全にお小水ですね御馳走様でした。


 王道の風、土も試してみる。風はイメージが扇風機だったせいか強ぐらいの風が、土は土が盛り上がるイメージが土竜(もぐら)の穴ぐらいだったのでそれぐらいの盛り上がりを見せた。気分的にも盛り上がった。


 一息ついて、焚き火のそばで倒木に腰をかける。さて、これからの方針を決めるか。現在の状況、おそらく異世界。なにより魔法?と呼ぶのかわからないが、特殊な自然現象を発生させることができる。これはほぼ確定だろう。とすると拉致の可能性はなくなった。これは何よりの発見と言っていい。精神的に。そして魔法。これはまあ今後の課題。更にイメージによって有益な発見が期待できる。衣食住の環境の整備。これが優先順位でいえば一番か。現在の服装は、会社帰りであるため、ポロシャツとスラックス。靴はスニーカー。コンクリートジャングルの住人にリアルジャングルの知識はない。文明があるという保証もない。森があることから何らかの生物はいる可能性が高いが、例えばモンスターの類かも知れない。逆にいないかも知れない。この調査は優先順位でいえば2番目か。最初の遭遇までは相当周囲を警戒する必要があるだろう。


 これらの独り閣議の結果から、まずは衣食住の整備、周辺の生態系の調査、魔法?の改良の順に優先して取り組むことが、政府方針で示されました。


 とりあえずは周囲の散策だ。鬱蒼と茂る森の中だ。太陽があるのかは分からないが見えない。方角もわからないため、石で樹木に傷をつけながら警戒して進む。30分くらい歩いたところで、膝が笑っていたので自分も笑えてきたorz。


 ・・・現代人にとって30分、足場の悪い中どうか歩いて欲しい。この気持ちがわかってくれるはずだ。特に自分はしがない会社員。いいさ、同情は慰めと同義じゃない。


 10分休憩と時計を見ずに体内時間で決める。そういえば、枯れ草と一緒に拾ったあの草って、煙草の葉じゃなかったっけか。一度煙草の葉をどこかで見た事があった様な気がする。かなり、うろ覚えだけど。あ、これ大発見じゃないか?一応持ってきてはいる。見た目を表すと、細長いギザギザの葉がついた草といったところか。どこかで見た気がする。煙草だったと思うが・・・。まあ、魔法の例もあるし、物は試しと火で炙り乾燥させてみる。足も疲労回復に相当時間がかかりそうだし、時間を有効活用しようと決める。


 しばらく炙っていると乾燥してきたので、細かく揉み砕く。それを平たい石の上へ移す。全て細かく砕いた後に自分の煙草を一本取り出し葉を全てだした上で、砕いた葉を慎重に入れていく。これで満足のできる味であればあとは紙とフィルター探しかなと思いながら、「ほのおでろー」で火をつける。


 あ。あぁ

 へ、へへ(´∀`*)

 あー


 あー思いだしたけど、これあれだー。よくニュースでみるやつだー。よくニュースでみるやつだー。

 よく押入れで栽培されてるやつだー。そうだー。それだー。


 なんか気持ちよくなってきたなー。あれ?やばくねー。ま、気持ちよければいいかー。いやーまずいっしょー。


 なんとか理性で投げ捨てる。山田ぁぁぁぁ!!

 日本だとよく押入れで栽培されてる、オランダとかで合法な奴ですね。くそ野郎が!

 どうすんだよ大量にあるよもう・・・。


 いいか、異世界だし。多分違うクサだろう。違うクサだということにして押入れ草と名付けよう。投げ捨てたシケモクを拾い、半ば自暴自棄になって吸う。


 あー気持ちいいー。なんか大自然に全てをつつまれたいー。

 靴が邪魔だなー。裸足になろうかなー。

 気持ちいいなー。裸足気持ちいいなー。

 服も邪魔だなー。脱ごうかなー。

 裸きもちいいなー。全部脱ごうかなー。

 空気うまいなー。全力で走ったらもっと気持ちいいかなー。

 全力で走ったらもっと気持ちいいなー。このままどこまでもいきたいなー。

 気持ちいいが続く限りーどこまでも走りたいなー。


 ……と全力疾走してたら、街道に出て第一村人に遭遇した。そして俺は後ろを振り返りまた全力疾走で森に逃げ込んだ。

 

お楽しみ頂けたら感想を寄せて頂ければ何よりです。

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