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●第5話 終結 (後編)

 土嚢に囲まれた指揮所へ、1人の兵士が飛び込んでくる。

「ペローズ大尉殿! 敵味方不明のアイアンウォーリャーが2台、近づいてきます!」

 大尉は傷ついた体を起こし、

「不明のアイアンウォーリャー? 敵か味方か!?」

「ですから、不明です!」

「あ……そうだな」

 出血で頭が回らなくなってきたのかな? ベローズ大尉は舌打ちしつつ、痛む体を起こした。


 塹壕線からはビレスス少尉が双眼鏡でそれを見ていた。

「エリムM92『ウォーリャー』だ。もう一機は少し改造されてるのか……」

 横で、物知りっぽい兵士が答える。

「もしかして、M92マークⅡ『バンディードス』ってやつじゃないでしょうか?」

「うーん……噂は聞いてるけど、実物を見たことないし……」

 銃声も砲声も止んだ川岸の戦場に、共和国軍の陣地へと歩いてくる2台のアイアンウォーリャーの姿があった。スピーカーから大音量で音楽が流れている。曲目は……この世界での『インターナショナル』と言ったら近いだろう。

 先に立ったM92(ウォーリャー)の操縦席ではカインが緊張した面持ちでレバーを握っている。それに続くM92C(バンディードス)ではダルトが、対照的にリラックスしまくって、コクピット全開の上、ポップコーンまでほおばっている。

 共和軍の陣地では、兵士たちが呆然と2台のアイアンウォーリャーのパレードを見守っている。ふと気づいて、ダルトは左側の陣地に投げキッスをしてみせた。

 視線の先では、女性小隊の兵士たちに、コントの観客のような笑いが起きていた。ダルトに手を振ってる者までいる。

 視線を戻したダルトは、片手にした双眼鏡を目に当てた。

「おう、向こうからも見てら」


「…………味方、かな? 片方は正規軍の将校らしいが」

 ビレスス少尉は双眼鏡を目に当てたままつぶやいた。兵士が答える。

「正規軍は大半が共和派についたんですよね?」

「王統派があの曲でパレードするとは思えないしな。とりあえず、ベローズ大尉の指示を仰ごう。伝令!」


 指揮所に怒鳴り声が響いた。

「バカヤロウ、味方を装っての敵の陽動作戦だったらどうする」

「は! しかし、射撃範囲に入っても、攻撃してくる気配はありません」


 対岸の王党派の陣地でも、この珍妙なパレードを全員が見守っている。

「デモンストレーションでしょうか? 砲撃しますか?」

 副官の疑問に、双眼鏡を覗いてる指揮官は答えないまま首を捻った。


 両軍が見守る中、M92(ウォーリャー)M92C(バンディードス)は橋の上まで更新した。橋はギシギシと軋んでいる。


 カインの胸に、ダルトの声がよみがえる。


「いいかカイン。砂漠仕様のアイアンウォーリャーは川に落ちたら過放電して止まる。橋を壊したらカインは共和派の軍に助けを求めろ。俺に脅迫されて同行してたと言えばいい。どたんばで反撃して俺を捕まえたことになる、それで無罪放免だ」


 カインの表情に苦汁が漏れる。

「ダルト……」


 戦場が見える岡の上では、トーンが身を隠しながら成り行きを見守っている。トーンの頭の中にもついさっきの会話が蘇っていた。


「橋までは行くはのいいけどダルト、お前、戻れないんじゃないか?」

「そしたら、水に落ちた山賊改(バンディードス)を回収して、コメリカへ帰ってくれ」

「待てよ! 死にたくねえからつるんでるんじゃなかったのか? 俺が見捨てたら、お前、死ぬぞ?」

「無意味には死にたくないけど、大勢の命を助けて死ぬのは軍人の仕事なんだよ、トーン」

「……俺達はどうなる!?」

「コメリカのパスポートだ。ジュディカの分」

 ダルトがトーンに一通の冊子を渡した。

「ちょっと待て。ジュディカはザイン人だろ? なぜパスポートが……」

「モチロン偽造だよ。……コメリカはザインよりマシな国なんだろ?」

「少なくとも過去30年、大きな内戦はない」

 トーンの答えに、ダルトは安心したように

「じゃあ、あいつを連れてってやってくれ。適当に騙してでも。で、なんか正業に就かせてやってくれ、馬泥棒なんかしないで済む仕事に」

「……ジュディカは助けて、カイン少尉は道連れなのか?」

「だってカインは軍人だもん」


 トーンは成り行きを見守りながら唇を噛んだ。

「バカヤロー…………てめえが一番、わかってねんだよ!」

 そうこぼしたところへ、匍匐しながらジュディカがやって来た。

「どうなってるの?」

「今、橋の真ん中に……あ!」


 橋の上では、M92(ウオーリャー)がいきなり電磁アックスを振り上げた。


 共和国軍の塹壕では、ビレスス少尉が、すでに必要もない距離なのに双眼鏡を目に当てたまま大きく口を開ける。

「ちょ、ちょっと待てお前ら!」


 橋の上では格闘が始まっていた。M92C(バンディードス)がアックスを持つ手を掴んでいる。橋桁がきしんでいる。M92(ウォーリャー)はその腕を逆に掴んで左足を引き、右に体をかわす。M92C(バンディードス)の右足が一歩前に出た。

 メリメリッ、と橋げたが軋み続ける。


 ビレスス少尉はまだ双眼鏡を覗いたまま、

「待て! そんなとこで戦ったら、橋が…………橋が…………橋が…………!」


 M92(ウォーリャー)が左足にM92C(バンディードス)の右足を引っ掛ける。M92C(バンディードス)は大きく前にバランスを崩し、前に手をつこうとした。

 そこで、強度に限界が来た。橋桁が音を立てて崩れ落ち、2台のアイアンウォーリャーが水に落ちる。噴水のように水煙が上がった。


「は、し、がぁーーーぁッ!!」

 塹壕で、号泣に近い表情で絶望的な大声をあげたビレスス少尉に対し、指揮所の覗き窓から見ていたベローズ大尉は、負傷の痛みに耐えつつ

「やっ……たぁっ!」

 となぜか嬉しそうな顔で拳を握った。


 M92Cの操縦席では、ダルトが疑問顔でパネルを操作していた。

「変だな? 水に入ったんだから、明りが消えて、緊急のランプが点くはずなんだけど…………」

 しかし計器類は何も異常なく動き続けている。立ち上がらせようと思えば立ち上がらせることもできそうだ。が、それでは予定が狂ってしまう。

 電源を落とし、モーターも停止させて、ダルトはコクピットを開いた。

 水面ではM92(ウォーリャー)M92C(バンディードス)の上にマウントした状態で停止していた。M92もコクピットが開いており、すでにそこを出て、こちらへ向け拳銃を構えているカインが見えた。

「ダルト……」

 ダルトは両手を挙げ、小声で

「さあ、共和派に俺を突き出せ。あとは打ち合せ通りに」

「ダルト……殺されるわ、やっぱりダメよ!」

「大丈夫、俺は死なない」

「ダルト……」

「言ったろ、カイン。ヒーローは、偉業を果たすまでは絶対に死なないんだ」


 岡の上ではトーンも腹ばいのまま拳を握り締めていた。

「やったな!」

「でも……捕虜になっちゃうんじゃ無いの、あれじゃ?」

「ダルトはそのつもりだ」

「待ってよ! カインのやつが裏切ったってこと!?」

「ダルトは自分が捕まることで、カインの不名誉を挽回するつもりなんだよ」

「じゃ……じゃ、自分はどうなるのよ!?」

「うーん…………銃殺かなあ?」

  ジュディカはトーンの胸倉を掴む。

「あんた、知っててそれほっといたわけ!?」

 トーンはその手を振り払い、

「俺達がケンカしてる暇はない。すぐ出発だ」

「どこへよ!」

「……ダルトは、お前をつれてコメリカへ行けって言ってた。国境を越えればお尋ね者じゃなくなからな」

 ジュディカはムッとして飛び出そうとする。

「いやよ、私! 裏切り者のカインからダルトを助る!」

 その腕を捕まえてトーンは

「待てってば! お前一人飛び込んでも、死体が一個増えるだけで、意味ないぞ」

「でもっ!」

 気が動転していて、すでに半泣きだ。トーンは落ち着かせるようにわざとゆっくりした口調で、

「とにかく、一緒に来い。あいつを助けられるかもしれない。バンザイ突撃よりは可能性がある…………と思う」

 涙目のままジュディカはトーンを見つめた。嘘をついているようには見えなかった。

「……わかった。じゃ、そっちに賭けてみる!」


 橋が壊れたので両軍に闘う理由はなくなり、夕方になると撤収の動きがあわただしくなった。

 向こう岸にはトラックや装甲車などに乗って撤退していく王統派軍が見える。

 こちらも似たような状態だ。双眼鏡で向こう岸を見ているビレスス少尉の後ろに、多数の歩兵を載せたトラックが通過していく。

 少尉は双眼鏡から目を離すと、嫌になったようにため息をついた。

 こんな結果になるのなら、あの多くの血はいったいなんのために……。


 指揮所も撤収作業中だった。横臥していたベローズ大尉が担架に移されている。

 そこへビレスス少尉が入ってきた。

「ペローズ大尉殿、捕虜はどうしますか? すぐ尋問しますか? それとも、即刻、処……」

「負傷してるか?」

「ピンピンしてます」

 大尉は少し驚いたようなしぐさを見せてから、

「……後方に引き上げてから、上の指示を仰ごう。扱いはくれぐれも、軍規則に準じとくように」

「わかりました」

 少尉は敬礼して飛び出していった。


 装甲トラックの運転席はものすごい振動だ。

 ジュディカは手で頭を抑え、舌を噛まないように気をつけながら怒鳴る

「どこへ行くの!?」

 トーンは無表情のまま答えた。

「レバルタのコメリカ領事館」

「げえっ!?」

 夕闇の岩砂漠に、土煙を上げて空荷のトラックが爆走していく。そ姿を見た者がいたら、悪魔の軍隊の行進を連想したかもしれない。



 <つづく>


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