前編
ひたすらテスト用です。2014年12月31日加筆。
1.A.D.2096-TOKYO-
高速機動車が暗い幹線道路を疾走する。
夜間でもない薄暗いその道。高い高架のその下は、煤けて、彼方此方にどす黒い煙が張り付いている。廃墟である。
車内の空気もまた同じだった。
乗っているのは20人ほど。皆特徴的なオレンジ色のウエットスーツに、黒い制服を着込んでいる。眼前は張り出した大きなヘッドマウントモニターに遮られている。
「総員、降車準備」
2.A.D.2082-KANSAI-
8月15日、奇しくも旧太平洋戦争終戦日と同じ日、第2次日中戦争の休戦協定が結ばれたとされた。2年前、中国が一方的に宣戦し、沖縄に上陸した二百万人の兵士を前に降伏も叫ばれたが、しかし政府はそれを認めず、徹底抗戦・領土死守を掲げ、それを打ち破った。協定はその勝利が勝ち得たものだった。
あちこちで歓声が起こり、祭りが如く灯がともった、昨日まで統制と不安で真っ暗闇だった町に。
街は一気に活気が宿り大戦前のにぎやかさに迫るものがあるといまわしめるほどに、民衆は喜び沸いた。
商人の集う『天下の台所』関西であるならなおさらだ。
ある者らは抱き合ってその生の喜びを噛締め、またある者はそれを体現するために道頓堀川に飛び込んだ。犬までもが喜びに吠え、子供は無邪気にはしゃいだ。
――が、半日もせぬ間、それらは消し飛んだ。
3.A.D.2096-TOKYO-
『先生ッ、こちらB班捕捉網とデコイの設置完了を報告します』
「本隊了解。あと今の私は先生ではない。隊長だ、いいな」
『もうしわけありません。隊長、てい正いたします』
まだ幼い声がノイズ混じりの無線機から鳴る。そして自然と溜息が漏れた。が、彼らのようなまだ年端もいかぬ――わずか16歳の――少年少女らを動員していることに感傷している暇はない。
ぐいと気を引き締め、各部の状況報告させる。
『こちら第2署、住民の避難は終了しましたどうぞ』
『C班、道路封鎖・避難誘導完了』
「A、D班はどうしたぁッ」焦燥か、声が荒くなってしまう。
『ディっ、――、、D班、道路封、……完了』
「A本隊、各員配置につきました」
ちょうどその時を待ってたかのように咆哮と何かを破壊し続ける轟音が響いてくる。
地面が振動し、だんだんとと大きくなってくる。
前方手前の隊員が叫ぶ。
「竜だぁぁ―――ッ」
それを引き金に、一斉に82式高速機関砲が火を吹き上げる。だがこちらに弾切れが迫ってもその動きは止まらない。体中のあちこちから血を滴らせながら、より速度を増して突っ込んでくる。
猛然と進んでくる竜を前に、前衛隊の損害は大きいと思いながらも内心ほくそ笑む。そして、
「いまだっ!!」
4.A.D.2082-KANSAI-
――水爆が落ちた。
死者766万人、
2次・3次被曝者、およそ2300万人、
放射能飛散範囲・大阪を中心とする半径700キロ、
クレーター規模・大阪を中心とする半径200キロ。
数日間降り続いた黒い雨ののち、奇妙なものが観測された。
どの生態系にも属さない・どの生物にも当てはまらない・体内に莫大な放射能を自ら吸収/保有する”モノ”。
それが『龍』。