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愛犬と異世界転生したら、大陸最強の神獣だと勘違いされました

作者: 日御碕 出雲
掲載日:2026/09/18

【第13作目】ペット(犬)ネタで1本考えてみました。

-------------------------------------------

私はごく普通の会社員だった。

趣味は柴犬のポチを散歩に連れて行くこと。


そんな私が死んだのは、ポチを助けようとしたからだった。

散歩中、ボールを追い掛けて道路へ飛び出したポチを止めようとして交通事故に遭ったのである。


そして気が付けば白い空間。

神様らしい老人が言った。


「お前は死んだ」

「はあ」


「異世界へ転生させてやろう」


「能力とかもらえるんですか?」

「もちろん!と言いたいのじゃが…」


「最近転生者が多くてのう、人間に渡す予算が…」

夢も希望もない理由だった。


しかし神様は思い出したように指を鳴らした。


「その代わりサービスがある」

「サービス?」

「愛犬も一緒じゃ」


足元を見る。

そこにはポチがいた。


「ワフ?」

「ポチ!」


私は抱き上げた。

ポチは元気そうだった。

嬉しそうに尻尾を振っている。


「それだけ?」

「うむ」


「それだけ?」

「うむ」


不安しかなかった。

「では行くがよい」


次の瞬間には異世界だった。



異世界へ来て一時間後。


私は全力で叫んでいた。

「ポチぃぃぃぃぃ!!」


巨大な古代竜がいた。

全長十メートル。

町を一つ消し飛ばせるという伝説の怪物だ。


その古代竜がひっくり返っていた。

お腹を見せて。

完全降伏である。


周囲でポチが楽しそうに甘噛みを繰り返していた。

「ワフ!」

ジャレて遊んでいるつもりらしい。


それを見ていた冒険者達が震えていた。

「神獣だ……」


「古代竜を従えた……」


「救世主だ……」


私は頭を抱えた。

「違います! ただの柴犬です!」


誰も聞いていなかった。



その日の夜。


私は宿屋で頭を抱えていた。

ポチは隣でぐっすり寝ている。


「どうしたのお前……」


返事はない。

犬だからだ。


コンコン。

突然ドアが叩かれた。

開けると武装した騎士達がいた。


「神獣使い様!」


「違います」

即答した。


しかし騎士達は話を聞かない。

「国王陛下がお会いになりたがっています!」


「だから違う」


「どうか!」

押し切られた。


私は王城へ連れて行かれた。

ものすごく嫌だった。


私は普通の会社員だった。

虫が出たら悲鳴をあげるし。

健康診断も注射も苦手だ。

転生後だって戦えないし、魔法も使えない。

そんな人間である。


王の前に立たされても困るだけだった。


ところが。

王は感動したような顔だった。

「よくぞ来た神獣使いよ」


「犬の飼い主です」


「謙虚なお方だ」

話にならなかった。


その時。

王城の窓の外へ巨大な影が降り立った。

神獣フェンリル。

神話にしか登場しない狼だった。


騎士達が青ざめる。

「フェンリル!」


「まずい!」

「王をお守りしろ!」


私も逃げたかった。


だが。

ポチは尻尾を振っていた。


大型犬だと思ったらしい。

地面へ伏せる。

お尻を上げる。


遊びに誘う姿勢だった。


私は顔面蒼白になる。

「やめてやめてやめて~!」


当然聞かない。


ポチは近付く。

フェンリルも近付く。


周囲は息を呑む。

神獣同士の歴史的邂逅。


だが次の瞬間。

二匹はお互いのお尻の匂いを嗅ぎ始めた。


沈黙。


王も騎士も固まった。

そして数秒後。


フェンリルが尻尾を振った。

ポチも振った。


友達成立である。


「古代契約だ……」


「神獣王が認めた……」


「大陸史が変わる……」


私だけが知っていた。

犬の挨拶である。



その後も苦労は続いた。


市場で買い物していた時。

ふと気付く。

リードが軽い。

振り向く。

ポチがいない。


私の血の気が引いた。

普通の犬ならまだいい。

だが今のポチは違う。


歩くだけで露店の品物が落ちる。

走れば窓が割れ吹き飛ぶ。

迷子になったら…きっと町が滅ぶ。


「ポチぃぃぃぃ!!」

王都中を走り回る。


半泣きだった。


三十分後。

ようやく発見した。

広場で鳩を見ていた。


真剣な顔で。

「ワフ」


何もしていなかった。

本当に見ていただけだった。


私はその場へ崩れ落ちた。

「頼むから勝手にどっか行かないで……」


ポチは首を傾げただけだった。


やがて魔王復活の報せが届く。

大陸中が騒然となった。


各国の王が集まり軍議が開かれる。


勇者。

大賢者。

将軍。

その他諸々の英雄達が並んでいる。


私だけ場違いだった。


「神獣使い殿の作戦を聞きたい」

将軍が言う。


「いや、会社員だったので…」

「なるほど」


「何がですか」

「平民出身を強調し兵の士気を高めるおつもりか」


「違います」

誰も話を聞かなかった。



決戦前日。


勇者は聖剣を手入れしていた。


神代の武器。

人類最後の希望。

選ばれた勇者だけが扱える伝説の剣である。


その時。

ポチがやって来た。


聖剣を見る。

勇者を見る。

聖剣を見る。

尻尾を振る。


勇者の顔が引きつった。

「だめだぞ」


ポチが近付く。

「絶対にだめだぞ」


さらに近付く。

そして。

がぶっ。

「聖剣がぁぁぁぁ!!」


ポチは嬉しそうに咥えて走り出した。

勇者が追い掛ける。

私も追い掛ける。

兵士達も追い掛ける。


だが高速の柴犬に追い付けるわけがない。


数分後。

ポチは戻ってきた。

そして私の足元へ聖剣をぽとりと置いた。

尻尾ぶんぶん。


褒めてほしそうな顔だ。

私はため息をつきながら頭を撫でた。

「えらいえらい」

ポチは満足そうだった。


一方、勇者は遠い目をしていた。

「聖剣が犬のおもちゃに……」



そして決戦の日。


魔王城。

巨大な黒い城が連合軍の前にそびえていた。


魔王城の前に立つ一本の看板。

死を意味する警告文が書かれていた。


だがポチが気にしたのは文字ではなかった。

看板を支える木の棒である。

ポチはすたすた近付いていく。


「えっ?」

私は察した。


ポチは振り向く。

「ワフ?」


「ダメ!」

ポチは首を傾げた。


そして。

片足を上げた。

「やめてぇ~~!!」

間に合わない。


しゃーっ。

静寂。


連合軍が固まった。

勇者も固まった。

将軍も固まった。


魔王城の前。


人類存亡を賭けた最終決戦の舞台。

その入口で。

世界最強の神獣と恐れられる存在は。

看板の棒におしっこをしていた。


「ワフ」

満足そうだった。


周囲は震えた。


「まさか……」

「神獣が縄張りを宣言した……」


「魔王城を自らの支配領域と認めたのか……」

「大陸征服の開幕だ……」


私は頭を抱えた。

「違う! ただのマーキングです!」

誰も聞いていなかった。


その時。


魔王城の門が開いた。

魔王が現れる。


巨大な角。

黒い鎧。

圧倒的威圧感。


「人間共よ!かかってこい」

誰もが固唾を飲む。


そして乱戦が始まり1時間が経過した。

勇者はすでに重傷だった。

将軍達もかろうじて息をしてるだけ。


ついに勇者が倒れる。

聖剣が床へ転がった。

「くっ……」


魔王が笑う。

「終わりだ」


勇者は苦しそうに手を伸ばした。

「神獣使い殿……」

「え?」


「聖剣を……」

「無理です!」


「頼む……」

押し付けられた。


石柱の影に隠れていた私は、近くに転がってきた聖剣を拾った。


重い。

ものすごく重い。

両手でやっとだった。


剣先を地面に擦りながら前へ出る。

ガタガタ震えている。

膝も震えている。

歯も鳴っている。


完全に一般人だった。

「なんで私なのよ……」


泣きそうだった。

本当に。


魔王が呆れた顔になる。

「貴様が最後の勇者か?」


「違います!」

「そうだろうな」

魔王も認めた。


どう見ても一般人だった。

私は震えながら剣を構える。

全然様になっていない。


すると魔王はため息をついた。

「興醒めだ」

ぽかっ。


本当に軽いパンチだった。

私は吹き飛んだ。

「ぎゃああああ!!」


壁まで転がる。

聖剣も手から離れた。


全身が痛い。

涙まで出てきた。

「痛ぃぃぃ……」


魔王は聖剣を拾う。

唯一自分を倒せる武器。

忌々しそうに見つめた。


「折れんな」

神代の武器だからだ。


ならば。

投げればいい。


魔王は思い切り腕を振った。

聖剣が空の彼方へ飛んでいく。

流星のように。


山の向こうまで飛び視界から消えた。

魔王は満足そうに笑った。

「これで私を倒せる者はいない」


その時だった。

ポチの耳がぴくりと動く。


私は気づいた。

魔王は気付かない。

ポチは立ち上がる。


尻尾を激しく振る。

目が輝いている。

「ワフ!」


魔王が首を傾げた。

「何だ?」


私は叫んだ。

「みんな~逃げて~~!!」

「は?」


「逃げて~~~! 今すぐ!」

「何を喚いている羽虫の分際で」


「あなた、今棒投げたでしょ!」

魔王は意味が分からない。


だが私には分かっていた。

長年柴犬を飼ってきたから。


今のポチの頭の中はこうだ。

投げた! ↓ 取ってこい遊びだ!

それだけだった。


次の瞬間。


ポチが消えた。

轟音。

衝撃波。

城が揺れる。

音速を超えて飛び出した。


数秒後。

数十キロ先。

落下する聖剣を空中でぱくりと咥える。


そして。

Uターン。


投げた相手へ向かう。

取ってきた物は投げた人へ返さなければならない。

良い子だからだ。


魔王は遠くの光を見た。

だんだん大きくなる。

聖剣だった。

咥えた柴犬だった。

しかも嬉しそうだった。

「ワフーーーー!!」


私は頭を抱え地面に伏せた。

「終わった……」


魔王が青ざめる。

「まさか」


ドゴォォォォォォォン!!!

世界が揺れた。


魔王城が吹き飛んだ。

塔も壁も門も消えた。


煙が晴れる。

そこには。

地面にめり込んだ魔王。

完全に絶命していた。


その胸の上でポチが尻尾を振っていた。


そして。

ぽとり。

聖剣を置く。


「ワフ!」

取ってきたよ。

褒めて。

そういう顔だった。


静寂。

勇者も。

将軍も。


誰も言葉が出ない。


神話に残る最終決戦。

世界を救った一撃。


その正体は。

柴犬の取ってこい遊びだった。

私は痛みを堪えふらふら歩いていく。


そしてポチの頭を撫でた。

「えらいよ」


「ワフ!」

ポチは満足そうに笑った。


私だけは知っている。


魔王が負けたのは神獣ではない。

勇者でもない。


ただの柴犬だ。


しかも。

投げた物はちゃんと取ってくるべきだと信じている、とても良い子の柴犬だった。


そしてその後。


世界を救った英雄として祭り上げられた私は、今日もまた走っていた。

「ポチぃぃぃぃ! 待ってぇぇぇぇ!」


鳩を追い掛けて爆走する柴犬の後を。

世界で唯一、その危険性を理解している飼い主として。

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もし、よければ過去作も読んでみてください。

①・コンビニ「アクマート」へようこそ!

②・魔王を倒した剣ですよ!没収ですか…

③・伝説の装備を手に入れたら「Version 12.4」って書いてあったんだが

④・異世界にだって予防接種はあります!

⑤・古代龍素材での装備注文にはご注意を!

⑥・迷宮レビュー☆2につきまして  ~迷宮建設部は今日も炎上中~

⑦・伝説の剣を取りに行っただけなのに  ~この異世界クレーンゲーム、取得率何%ですか?~

⑧・転移魔法のご利用は計画的に ~穴入って穴に入りたい思いをした勇者の話~

⑨・勇者は静かに戦いたい ~なのに聖剣が毎回ライブを始める~

⑩・へっぽこ魔導士とツンデレ魔導書。好感度を上げたら終焉の禁呪が解禁された件

⑪・魔獣を倒せば赤字、依頼を受ければ賠償金。そんな俺が異世界最強です

⑫・戦士ほど強くなく魔導士ほど賢くもない俺が、なぜか勇者として魔王討伐パーティーのリーダーをやっている件

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