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特別編 蛇足

この特別編は、最終話を別視点から描いたものです。


これで最後になります。

お読みくださりありがとうございました。



特別編 蛇足


 キミの眠る部屋をあとにする。


 乾杯したときの笑顔、今までで一番だった。いや、キミの笑顔はいつだって。


 起こさないように、気付かれないように、そっと外へ出たつもり。だけど起こしちゃったみたい。


 キミのことだから、気付いたって送り出してくれるかな。でも、最後までそばにいたっていいって、思うよね。けどね、最高の人生の締めくくりは、やっぱり笑っていて欲しかったんだ。なにせ今、ボクの顔は涙でぐちゃぐちゃなんだ。それを見たら、キミも泣いちゃうよ、なんてまた、自惚れが過ぎるかな。


 もうすぐ、この角を曲がるとき、横目でキミを探してみるよ。


 ほら、一瞬だけどキミの姿が見えた。これ以上見えたら、引き返してしまいそうだ。


 ボクはこの街を去る。引き返せないくらいに、ずっと遠くへ。やがて、この世界からも消えるんだ。


 もしも、この世界がボクの妄想だったら、キミも消えてしまうのかな。…いいや、違う。これは妄想なんかじゃない、そんなわけない。だって、キミの笑顔、しぐさ、声、全部、とてもボクには想像できないほどに、素敵で綺麗だったんだから。


 そう、ボクがいなくなった世界で、このさきもキミは生きていくんだ。夢を叶えて、さらに進んでいくキミの人生は、もっと素晴らしいものになる。ボクの最高の人生より、もっとずっと、ね。わかるんだ、何せ一億万年生きてきたボクが思うんだからね、間違いないよ。




 実はね、夢を諦めていたキミとズルで作り上げたボクが素晴らしい日々を送ったことがある。その終わり、泣いているキミを見たとき、もうキミに嘘はつかないことを決めたんだ。そのときのキミだけが呼んでくれた名前を、再びキミが、現世のキミが初めて呼んでくれたとき、嬉しいのか悲しいのかわからなくて、あり得ないくらいに泣いてしまった。見られていたなら恥ずかしいね。




 そろそろかな、もう涙も出ないし、目も開けていられない。また次、生まれ変わってもキミに会いに行く、間違いなく。でもね、また同じくらい素晴らしい人生にする自信はないんだ。だからね、心配しないで欲しい。現世のキミが一番だよ。ボクにとってはもう終わる、この…ね。




 いつかキミが言っていたね。トゥルーエンドを迎えたら、繰り返さないんじゃないかって。本当にそうだったら、これが最後の最期なんだって思うよ。もし続くとしたら、それは蛇足ってやつだ。作者は何にもわかっちゃいない。


 ああ、このまま終わればいい。現世も来世もなく、もう繰り返すことなく、このまま、瞼に残るキミの笑顔を抱きしめて…




 ………




 目が覚める。眠っていたよう。また始まってしまう、今度の『現世』。

 はじめまして、母さん。大切に育ててくれて、ありがとう。

 さよならしても、もうずっと大丈夫。逢いたい人もいるから。

 それでも、すごくたくさん泣くけどね。

 ごめんなさい、なぎささん。また騙して。なのに守ってくれて、ありがとう。

 いつも気にしてくれるから、寂しくないよ。

 でも、怒らせてしまったなら、もっと思いっきり殴ってくれていいよ。




 そして、あの夏がやって来る。


 金曜日、暑い、キミの放課後。


 ここで待っていたら、早足のキミがやって来る。ほら、店に入って行くのが見えたよ。


 そろそろかな、キミが出て、こちらへ来るのを待つ。この辺りで目を閉じて、うつ伏せに行き倒れている、フリね。


 足音を身体で感じる。さっきより軽やかに弾むような。


 お目当てのものは手に入ったんだね。うん、それは知っている。


 ボクの鼓動も速くなる。信じてくれるかな。何度目だって緊張するんだよ。


「ふふっ」


 キミの笑う声、間違いない、嬉しかったんだね、これからもっと嬉しいことが待っているよ。それも知っているんだ。何せ、ね。


 そろそろボクの脇腹辺りに、こう、来るんだ、あれさ、身構えていても結構痛いんだよ。




 ふと、右頬に、はっきりと、涼やかでしっとりとして心地良い、知らないけれど懐かしい肌ざわり。


「ふっ、もしもし、起きてますか?」


 身体を捻って、声の方を見上げる。そうだよ、その笑顔、もちろん知っている。知っているんだけどね。




              「ほら、バカみたい」



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