パンダとパンダ
23 パンダとパンダ
翌朝、朝食はいつも食べないので、最終日のみにしてもらっている。
アサクサへ。大きな提灯を下げた門をくぐり、参道を通る。まだ朝早いので営業前の店も多い。人通りも多くはなくスムーズに進める。テレビで見た光景は人だかりだったので、良かったような寂しいような。まずお寺でお参り。お賽銭は自分で出した。50円。願い事は皆の健康とよしつねのこと。よしつねもわたしのことをお祈りしてくれているのだろう。
帰り、参道やその付近を見て回る。さきほどより賑わい出してきている。工芸品や和菓子店が多い。よしつねが人形焼を買ってくれたのでその場でぺろっといただく。雷おこしと七味唐辛子をお土産に買った。海外の人も多いし、私たちも含めて、おそらくトーキョー以外からの人がほとんどだろう。いつものアーケード街も盆踊り以外でも外からの人たちでこんな賑わいになってくれたらと思う。
ウエノに移動して昼食。パンダのいる動物園に向かう途中の洋食屋へ。わたしは海老フライやハンバーグが載ったプレートのライス付を、よしつねはオムライスを注文した。わたしの方が食べ過ぎになるので、いくつかの料理をナイフで切って、よしつねにあげたら喜んでくれた。毎度のことだがよしつねのお金なのに。同じものを食べるのが嬉しいのだろうか。わからないでもない。デザートにパンダがあしらわれたプリンが出てきて、いっそう気持ちが高まる。
動物園に到着。まずパンダ。双子の2頭が飼育されているが、列がそれぞれ別なので、どちらかを選ぶ必要がある。以前は同じ場所で飼育されていたが、じゃれ合う最中に互いを傷付けてしまう恐れがあるため、今は別居しているらしい。好きなのに傷付けてしまうなんて、まるで人間みたい。メスの方が列が長いが、まずメスから並ぶ。
「パンダ、楽しみやな?」
「うん。もうここだけだしね」
「せやな。昨日どの動物に似てるかってやつ、言うたやろ?」
「うん。昨日はアニマルって言ってたけど」
「それはええやん。でな、わし白シャツ黒パンやん。もう完全にパンダやろ?」
「色味だけね。別に似てないし。あと似せに行ってもだめだよ。そういう競技じゃないし。似てないし」
「何や競技て」
「ふふっ、そもそも競技じゃないね。勝ちとか負けとかないし。互いに似てるものを判断するわけだからね。もう言っちゃうけど、絶対パンダではないよ。パンダかわいいし。まだ見てないけど」
「何でや、パンダでええやろ?白黒やし」
「もしかして、パンダって言われたくてあんなこと言ったの?」
「ぐぅ…まあ、な」
「あのさ…ううん、あと部屋戻るまで言ったらだめだからね。楽しみがなくなるし、ね?」
「せやな。パンダの夢破れたな」
「いいから、ほらもう少しだよ」
2頭のパンダを見たあとは、レッサーパンダ、サイ、カバ、キリン、ハシビロコウ、ペンギン、サル、ゾウ、クマ、シロクマ、フクロウ、カワウソ、トラ、ゴリラ、バクなど多くの動物を、かわいい、大きい、怖い、長い、細い、白い、臭いなど感想を言い合い、見て回った。よしつねとお互いの顔を見比べながら。また、写真もたくさん撮った。もしかしてまいちが私のことを撮影するのはこれと同じなのかと、少しもやっとした。今度問い詰めたい。
お土産は自分で、今度は本当に自分のお金で買った。どうしても自分のお金で買いたくて。もともとは当然、母からのお小遣いだけれど、それでも。よしつねには外で待っていてもらった。
そのあとイケブクロ、グッズショップへ。品揃えが豊富で見ているだけでも楽しいが、お金がいくらあっても足りない。よしつねに言ったら買ってくれるだろうが、自分を甘やかすのも良くないと思い、我慢した。が、我慢しきれず、数点買ってもらった。もう二度とないかもしれない機会だから仕方ないと言い聞かせて。
そのまま、うなぎ屋へ。カウンターで職人が捌くのを見られるようになっている。うな重かと思っていたが、様々な部位の串が出てきて驚いた。いろいろな味が楽しめたけれど、ちょっと苦いものもあった。お酒に合うのだろうか。よしつねにお酒を飲みたいか聞いたら、今日はそうでもないとのこと。最後に蒲焼きとごはん、よしつねはごはんを大盛りにしてもらっていたので、たらふく食べたいときはお酒を飲まないのだろうかと想像した。わたしはごはんをかなり少なめにしてもらったが、旨味が凝縮されたタレのかかったうなぎに箸が進み、結局おかわりをしてしまった。
ホテルに戻る。お風呂上がりによしつねがいちごミルクを用意してくれた。いつの間に買ったのだろうか。わたしを喜ばせたいのが伝わってくる。まいちの家で飲んだものの方が好みだけど、気持ちが嬉しい。窓際のローチェアに座って待つ。よしつねが戻ってくるのに合わせて、冷蔵庫からドクペを出して用意する。
「おう。ありがとうな」
「うん。ほら座って。乾杯」
「何かええことでもあった?」
「取り立ててないけど、こうしていられるのがいいことでしょ?」
「せやな。ほな」
「かんぱーい」/「カンパーイ」
グラスを合わせ、ゴクリ。
「ふう」
「今日もお疲れさんやで」
「うん。でさ、動物園のやつ、決まった?」
「ああ、決まったで。わしからいくか?」
「いいよ。わたしが後攻で」
「別に対決やないからな?」
「そうだけどさ、気分だよ」
「なら、わしがりかおんに似とる思てるんは…あ、りかおん言うても動物のリカオンちゃうで」
「そんなのわかってるよ。誰がイヌ科だよ?ホモサピの恩田莉花の話だよ?」
「ツッコミ激しいな」
「いいから、何?」じれったい。
「ほな、えっとな…レッサースローロリス、やな」
「えっと」スマートフォンで写真を確認して「ふーん。目がぱっちりなところかな、まあいいけど。理由を聞こうか」
「暗がりにいて、毒を持ってて、目力が強うて、かわいくて、挙動不審なところ、やな」
「…あのさ、パンダになれなかったからって、悪口になってない?それに動物って人間から見たらだいたい挙動不審だよ?」
「けど目えとか、かわいいやろ?ええやん、わしがそう思たんやから。ほなら自分では何や思てたんや?」
「うーん、パンダ?」
「何やりかおんもパンダ狙うてたんか?ほなパンダにしたる」
「もう、別にいいよ。そういうあれじゃないし。そう、わたしはレッサースローロリス。パンダでも、レッサーパンダでもない、レッサースローロリス」と写真を見ながら恨み節。
「ごめんて。でもかわいい方やろ?」
「…うん、そう言われればだんだんかわいく見えてきたかも」
「ほな、りかおんの番や」
「うーん、どうしようかなー」
「何や決めてへんかったんか?」
「一応決めてたけどさ、そのレッサースローロリスを受けての、だよ?」
「は?反撃しよ思とんか?そういやさっき後攻言うてたしな。趣旨変わってへんか?」
「いいの。よし、決めた。よしつねはね…シロテテナガザル、これ」とスマホで画像を見せながら。
「ふーん。白黒やしな。何で?」
「高いとこから見下してる感じがムカつくのと、変な声で鳴くのがバカにしてるみたいでムカつくのと、あと…ムカつくとこ」
「ははーん。完全に悪口やな。復讐心を隠そうともせんな」
「毒あるからね、レッサースローロリス」
「けどシロテテナガザルか、まあ似てなくはない…いや…どうやろ?」
「そんな気にしなくていいよ。悪口だから。シロテには悪いけど」
「ほしたら、最初は何やってん?シロテに格下げされる前」
「それはね…ハシビロコウ。鼻がさ、クチバシだけど、すーっとしてるのとか似てるかなって。あと、普段はあんまり動かなくて、何考えてるんだかわからないんだけどさ、餌獲るときは素早いところ。よしつねもさ、普段あれなのに…その…わたしのために素早く動いてくれるからさ。うん、そんなところかな」
「ちょい気になるところあったけどな、そない考えてくれたんか。嬉しいな」
「うん。でも過去の栄光だからね。今はシロテだから。でもさ、いいよレッサーでもシロテでも、個性だから。人間の感想だし、本来はどっちが上とかないし」
「せやな。いつもと違う感覚で、ぎょうさん動物見られたしな」
「そうだね。わたしもそう思う。あ、あとさ…」立ち上がってバッグを持って戻り、中から「これ、良かったらもらってください」とパンダの、手のひらに少し余るくらいのぬいぐるみを取り出して、よしつねに差し出す。
「パンダか。かわええな。わしがなりそこねたパンダ。ありがとうな。お小遣いで買うてくれたんか」と微笑んで受け取る。
「そう。パンダに憧れてるみたいだからね」
「りかおんはええの?」
「わたしはね…」とバッグからパンダのぬいぐるみを取り出して「ほら、おそろい。これも買ったんだ」
「ほな、もうお互い、パンダってことでええやろ?」ぬいぐるみを見つめているよしつね。
「まだ諦めてなかったんだ?うん、じゃあわたしもパンダだよ」
「せやな。にしても双子のパンダ、見られてえかったな」
「そうだね。あのパンダもさ、今は別々だけどさ、一緒に仲良く暮らした思い出はあるから。わたしとよしつねも会わなくなっても、これ見たら今日のこととか山登ったこととか盆踊りとかをさ、思い出せるようにって。それでわたしもこの子を連れて、またよしつねのところに行けるようにって」
「いつでも来たらええよ」
「そうなんだけどさ。何か…その象徴的なもの?持ってたいなって」
「ようわからんけど…まあわかる気するわ。来世に連れていけたらええのにな」
「…え!?わ、わたしを?ぅえっ!?」
「あーちゃうて。この子や」とぬいぐるみをこちらに向けて見せる。
「はあ、びっくりした…何か急にぬいぐるみを人みたいな扱いするから」
「そっちがさきに言うたんやろ?この子て」
「わたしはいいでしょ?その…ぬいぐるみをかわいがってもおかしくないし」
「せやな。抱っこして寝とるもんな?」不意打ち。どうしてそれを?
「…えっと、な、何をおっしゃられて…おるのですか?」焦るわたし。
「ぬいぐるみ抱っこして寝とるやろ?」
「はあ?いったい何の証拠があってそんなことを!?」
「知らんけど、一緒におねんね、やろ?」
「見た?」
「見てへんよ。何かデジャヴやな。前世やのうて最近の…」
「絶対見たでしょ?この前、盆踊りの前の夜」
「せやったんか?って絶対見てへん」目をそらさない。
「本当?」
「ほんま」
「うん、そうだよね。嘘つかないんだしね。ならいいけど、ってわたし、自分でばらしてるし」
「別にええやろ?誰に迷惑かけるわけでもないし」
「うん。恥ずかしいけど」
「ほなら、わし、今日はりかおんにもろうたこの子抱っこして寝るわ」
「…じゃあ、わたしもそうするかな」
「恥ずかしないやろ?」
「ううん。そこまでしてもらって余計に恥ずかしい」
「せやけど、旅の恥はかき捨てって言うしな」
「それはさ…ううん。ありがと」
今日は、今日もよく眠れそう。




