フランケンシュタインは花婿
12 フランケンシュタインは花婿
翌日、終業式が終わっていったん帰宅。夜勤明けの母が作ってくれたごはんを食べてから、まいちと駅前で待ち合わせてから、アーケード街の映画館へ向かう。
昨日、よしつねはなぎさのところへ行ったようだ。『ちゃんと伝えた もう大丈夫 ありがとう』との淡白なメッセージを信じることにした。
一方のなぎさには、まいちを連れて店に行く旨のメッセージを送ったところ、『ええで、待っとるわ』と、これまた淡白な返信が来た。
二人とも大丈夫だろうか、世話の焼ける大人たち。
映画を見終わる。楽しかった。映画館満員の観客。このアーケード街でこんな混雑は記憶にない。和らぐまで席で待つ。余韻に浸る時間。いつもは一人。でも今回はまいちが隣にいる。すぐに感想を言い合える関係。初めての感覚。
「いやーすごかったよー。泣いたー。りかおんに泣かされたときより泣いたー」
まいちが人聞きの悪いことを言っている。
「いや、わたし、泣かせて…」
「それにさー短期間で63話見たわたしーありがとうだよー。そのおかげだよー」
「はいはい、えらいえらい」
「でもやっぱり一番はさー…りかおんのおかげ」
「んもう、泣かさないでよ…」
「でもさーやられちゃうかと思ったよーほんとハラハラしたよねー?」
「うん、でもわたし、漫画でストーリーは知ってるから」
「え?そうなのー?じゃあ楽しくないのー?」
「ううん、そんなことはないけどね、楽しいし、興奮するし、泣きますし。それに綺麗な映像だったり、動きだったり、音だったり、漫画にはないものがいっぱいいあるし。それに、いいものは何回見てもいいんだよ」
「そうだねー。わたしも毎日さー、りかおんとどうでもいい話してるけどさー、何回やっても楽しいもんねー」
「…どう…でも…」
「でもさー、できれば記憶を消してもう一回見たいよねー」
「記憶?」
「うん、いくら面白くてもさー、そう何回も見たらだんだん飽きたりもするしー」
「それは…そう、だね」
「でもさー、そう思うってことはもう一回見てるっていう記憶があるからかー。何かわからなくなってきた。でもつまんなかった場合は、その記憶があるからもう見ないで済むんだよねー」
「…そうだね、つまらなかったらもう見ないだけだしね」
つまらない、苦痛だらけの人生、母が死ぬ、それを知っているのに何度も繰り返す、けどやめられない、よしつね…
「ん?りかおん、どしたー?」
「ううん、何でも。ほら空いてきたから、行こ」
映画館から出て、なぎさの古着屋へ向かう。御代史堂の前を通ることになるが、よしつねには、寄らないし、まいちと一緒だから声を掛けないように言ってある。よしつねも、わたし以外に秘密を打ち明ける気はないと言っている…のだが。
まいちが突然駆け出して
「あれー、ミイラ男がいるよー、人間に戻れたんだねー」と御代史堂の店内へ。
すぐそこで座っているよしつねがギョッとしている。
「いっ、らっしゃい…」
どうやら前世にない出来事らしい。
「姫、世にも珍しいミイラが人間になってるよー、こっちこっち」
あのときは包帯ぐるぐるだったのに、よくわかるなと感心する。しかし、うちの侍女が失礼を、申し訳ない、よしつね。
「あ、どうも」と、とってつけた挨拶をする他ないわたし。
「…いらっしゃい」よしつねも同じ。
「あの、まいち…みよしさんだから、ね?」
「うんわかったーここミイラ男の店なんだねー、怪しいねー」まいち、聞いているの?
「な、何か…お探しの、ですか?」うろたえている、よしつね。
「うーん、人間になった姿、悪くないねー。まーりかおんの御眼鏡にかなうくらいだからねー」
「ちょっと、何言ってるの?ほら、行くよ」すぐにまいちを引っ張っていくから、よしつね、耐えて。
「わかったよー。じゃあミイラさん、りかおんをよろしくねー。もし傷付けたら許さないよー」
「うん、わかってる」よしつねが小さい声で、そう言っているように聞こえた。
まいちを連れて外へ、アーケード街を行く。
「もう、まいち、何やってんの?」
「査定だよー。ほら、言ったでしょ?」そうだ、わたしの友達をまいちが査定するという話。
「でも、そういうんじゃないよ?」
「いやさー、りかおんがわたしの家に来るときにさ、ついて来るってことはさ、りかおんが相当信用してるってことでしょ?」
まいち鋭い。
「たまたまだって」
「それにさー、わたしがりかおんをよろしくって言ったら、目を見て返事して来たからさー」
「びっくりしたんじゃないかな?」
「りかおん、良かったね?」
「…うん」
なぎさの古着屋に近付く。今思えば、よしつねに抱きついたなぎさはとても寂しそうだった気がする。でも、わたしが見ていたことをなぎさはおそらく知らないだろう。お互い、あのことを知らないふりして、やり過ごすことができるだろうか?まいちが余計なことをしなければと思う。
「こんにちはー」まいちが古着屋に入る。
「いらっしゃいませーって、おんしらか?」なぎさの声が響く。他に客はいない。
「どうも」緊張してよそよそしい挨拶しか出てこない。
「ここ、昔いとこと一緒に来たんですよー、わたし好きだったのにその人結婚してどっか行っちゃってー」いきなり核心を突く、いや、えぐるようなまいち、悪気ないのはわかるけど。絶対に、なぎさの反応を見てはいけない。
「あの、わたしの友達の、井内真衣さん、まいちです。ほら、まいち、こちらがなぎささん」何とかまいちを落ち着かせるわたし。
「あ、今日はありがとうございます」
「おう、まあ見てってや」
「はーい」と店内を物色し始めるまいち。離れて行ってくれてひとまず安心。
「すみません、いきなり騒がしくて」
「いや、何か元気出たわ」なぎさ、元気なかったのだろうか。そう思っても見せてはいけない。何か言わないと。
「あの、ろっくんもっくん、被っちゃったみたいで。すみません」
「あーあれな、おんしのせいやあらへんし。それにいくらあっても困らんからな…けどな…」
「え、何かあったんですか?」
「あんな、昨日あいつが来てな。実は14年前にうちが助けたあれやけど、あいつ、うちに助けてもらおうと思って飛び込んだんやって。それをごめんなさい言いよって」
「じゃあ、騙されてたっていうことですか?」知らないふりして返す。
「せやな、けど不思議と怒りは湧いてこんかった。追い詰められよったんかな思て。何となくそんな気はしてたしな。せやから、これからはそないせんでも助けちゃる言うたわ」
「なぎささん…」
「何ー!?ミイラの話ー?」まいちが割り込んで来た。
「あ、どうしたの?欲しいのあった?」話をそらす。
「うん、これーなんだけどさーそんなことよりー」灰色のオーバーサイスTシャツを持って。
「…そんなことより何?」お願いだから、そらさせて。
「あそこにさ、フランケンいるよ?」と入り口方向を指差すまいち。今度は何?
見ると身長180センチ超え短髪筋肉男が立っている。
「んあーあれ、うちの旦那や」となぎさ。
「どうも。なぎさがお世話になってます」と男。
「いえいえお気になさらずー」まいち、やめて。
「うち、こいつらとめし行くから、あとは頼むで」となぎさ。
「うん、ゆっくりして来て」
「あんッ、うちおらん間に何かしよる気か?」
「ふふっ、しないよ。気をつけて」
「おう。頼むで」と夫に軽くハグするなぎさ。
「あの、これ…」夫婦仲を見せられて調子が狂ったまいちがTシャツを持って。
「持ってってええで」となぎさ。
「あ、ありがとうございます」まいち、赤くなってませんか?
挨拶をして店をあとにする、なぎさとまいちとわたし。
「なぎささんの旦那さん、マッチョで格好良かったねー?」まいち、あなた、さっき何て言ってましたっけ?
「そうか?でかいだけやろ?」なぎさ、悪いよ。
「なぎささん、夫婦仲良さそうですね」わたしがフォロー。
「せやな。うちには勿体ないくらいや」
なぎさには夫がいる。大事にして欲しい。だからもう、よしつねに縛られないで。わたしに任せて欲しい。
え?どうして?わたし?
そうだ。わたしはよしつねを助けたいのだ。よしつねに助けられたから。いや、よしつねはわたしにだけ秘密を打ち明ける。それはきっと、わたしに何かしてもらいたいから、そう考える。だからそれに応えたい。でもどうしたら…
「おーいりかおん。何ぼーっとしてんの?早く行くよー」
「ほら、行くで?」
「うん、待って」
そう、考えるのもお腹いっぱいになってから、ね。




