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真実の代償

10 真実の代償


 なぎさと別れて家路。


 駅方向へ歩く、あの日と同じ暑い日。なぎさがくれた日傘がありがたい。が、「いつでも会えるわな」という言葉が胸に残る。本当にそうだろうか。


 なぎさも以前言っていたように、よしつねはいなくなることがある。よしつねによれば、そのまま死ぬこともあるらしい。当然、現世では死んでいないので、なぎさはそのことを知る由もないのだが、先日突然倒れたこともあって、楽観視はできない自分がいる。


 それもあって、早く会って伝えたい、聞きたいことがある。でもそれはわたしのエゴ。


 それに、母に会いに行って、思い出や悲しみを抱えているであろうよしつねに言うべきではない、少し考えを整理してから伝えたいとも思う。



 大通り、椰子の木が連なる。思い出す、夕焼け、ぬいぐるみを獲ったこと、忘れ物をしたこと、走ったこと、車の風圧、急ブレーキの音、眼前の車、全身を伝う衝撃、痛み、これは知らないはず、記憶?、痛い?、叫び声、誰の?、わたしの?、違う、うるさい、見たくない、聞きたく「莉花!!」


 遠くに椰子の木。目の前に一瞬見えて消えた、誰…


「大丈夫?」と暗闇に聞こえる声。


「…わからない」


「支えてるから、ゆっくり、座るよ」


「うん…」


 体が沈み、地面に座る。硬…くない。何かの上。


「水、飲める?」


「うん」


「少しずつ、ね」


 唇に感触、静かな流れが断続的に喉を伝い、次第に全身に行き渡る。


 聞こえる雑音、陽の熱をまとう身体を風が撫でる。


 背中には微かに震える生命の感触。


「よしつね」と発せられた自分の声に驚き、目を開ける。


「もう大丈夫だよ」の声の主は、微笑んで目を潤ませている。


「…泣いてるの?」


 他者を認知する余裕ができた。もう大丈夫だと思う。


「泣いているよ」


「…本当にさ、嘘つかないんだね」



 アーケード街を歩く。今度倒れたのはわたし、フリじゃなくて本当に。


 よしつねは左手で土埃まみれのバッグを抱えて、右手でわたしの背中を支えている。


 店のシャッターが降りているので、右脇の玄関ドアから入る。促されて、長いソファに横たわり、礼を伝える。


「あのさ…ありがとう」


「ほんまびっくりしたで」と、すぐ左のソファに座るよしつね。


「うん。どれくらい座ってた?」


「数十秒ってとこやな。ゆっくりしたらええ」


「あそこ歩いてたらね…この前ぬいぐるみ獲ったこととか思い出してね…そのあとに、車にひかれた…みたいのを感じて、それでふらっとしたんだ」


 話すだけで痛みを感じる、本当は痛くないはずなのに。


「わしが余計なこと言ったせいやな。すまん」


「それは、わたしがいろいろ聞いたせいだから、気にしないで欲しい…それにね、わたし、助けたいっていうか、協力したいって思うんだ」


「わしか?…別に困ってへんで」


「嘘、ううん…気付いてないんだよ…すごくつらいことに。だってさ…何回もお母さんが…んと、亡くなるのを経験してるんだよ。それにお墓参りにだって行って。忘れたら楽なのに、忘れたくないよね。でもつらいんだよ」


 言葉がつまる、が伝えないといけない、伝えたい気持ちが、辛うじて上回った。


「そう…かもな」


「わたしね…その、夢っていうか、将来っていうか、あのね…人を助けたい、役に立ちたい…そう思ってるんだ。


 だからね、今はよしつねを助けたい、それができなくても少しでもつらさが和らぐようにしたい…って。そのために知りたいんだ…誰にも言わないからさ。よしつねが今までどうしてきたか、それを知って、できることをわたしに考えさせて欲しいんだ。


 …本当はね、今日、お母さんのところから帰って来るって聞いてたから…いろいろ考えて…会わない方がいいと思ったんだけどね、でも会っちゃったらさ…我慢できなくて…本当にごめんなさい」


 体の震えが止まらない、よしつねを傷付けてしまうかもしれない、でも…


「うん、い…ええで」


「…ありがとう、本当に、ごめんね、わたしのわがままに…」


「いや、そこまで気ぃ使うてもろて、嬉しいわ…けどな、りかおんにあんまり深刻に考えてほしないねん。さっき具合悪なったばかりやし。それにわしも帰ってきたばかりやし。ちょっと休も?な?」


「うん、わたしも変なこと言っちゃうし、落ち着くね」と言って、身体を起こし、ソファに座る。



 どれくらい経っただろうか。気分が落ち着いてきた。よしつねが戻って来た、いなくなってはいないことを認識する。


「ドクペ、あポカ、飲むか?」と、立ち上がるよしつね。


「あ、ううん、さっきの水でいいよ」


「あー」と玄関の方へ向かい、戻って「これか?」と水をテーブルの上、わたしの前へ。


「うん。でもまた間接キスだね?」今度はわたしがあとだけど。


「あーそれ、わし飲んでへんで?」


「え、そうなの?」


「ホテルにあった水、せっかくやから持ってきてん。薬飲むときくらいしか水、味のないやつ飲まんし、基本外でもドクペやし」と言ってペットボトルのドクペを見せてくるよしつね。


「なんだそっか、気にして損した…」


「ぶっ倒れてまでそないなこと考えとんか?」


「違うよ…あとから。でも、何であそこにいたの?」


「帰り道やん」


「でも夕方までに帰るって、なぎささんが」


「あー、いつ帰るっていうとな、遅れたらめっちゃ怒られんねん。店の前で待ってるときもあるしな、怖いねん。だから遅めにぼやかして言うたんや」


「すごく怖がってるね」


「ミイラにされかかっとるしな」


「でも、お土産にお菓子くれるって、楽しそうに話してたよ」と話しながら、嫌な予感がする。


「せや、買うてきたわ、今日は奮発していつもの倍や、ろっくんもっくん」


 的中。


「あのさー今日なぎささんのところに行ったんだけどさ、この前のお礼に、ママがお菓子持たせてくれたんだけどね、それがさ…」


「ろっくんもっくん?」


「うん、ろっくんもっくん」


「48本?」


「48本」


 しばし沈黙。


「…りかおん、ろっくんもっくん好き?」


「まあ、好きだけど。みんな好きだよね?」


「いる?」


「くれるなら…って、いや、それ持って帰ったらさ、わたし、なぎささんのところ行かないで家で寝てたみたいになるよ、嫌、いらない」


「まあ、しゃあないな。けど、りかおんにも買うて来たで。トーキョーキャラメルリ」


「えーわたしにまで?ありがと」


「プラス、ろっくんもっくんも持って帰ったらええやん?そしたら出掛けてないことにならんし」


「もらい過ぎでおかしいよ。それになぎささんにお土産なしってそっちの方が危険だよ?」


「ふっ、元気になったみたいやな」


「うん、そうだね、ありがとう」



 改まって椅子に座り直すよしつね。


「でな、わしの話やけど、繰り返す…ループするっちゅうやつやけどな、自業自得みたいなもんやねん」


「え?何か…したの?」


「そもそもな、最初のループ、そりゃあ繰り返すなんて思ってもみんけどな、オカン死んですぐ死んどんねん」


「しん…ってよしつねが?」


「他に誰の話すんねん。まあ、あれや自殺、今風でいうと自死か?まあ言い方変えても同じことやな」


「嘘、あ、ごめん…でも」


 もう何も考えられない、けど…


「そいでな、目覚めたら記憶が残ったまま赤ん坊ってわけや。最初は幻覚かなんかと思うたけどな。ゆっくり現実的…現実と変わらんように感じて来たって感じやな。


 2回目は死なんと頑張ってみたんやけどどうにもならんくて途中で諦めたわ。


 で次、ギャンブルとかで生活してみたりしてな、だんだん小狡いことして生きるようになって、状況を利用したらオカンを助けられるんちゃうかな思て、医者になってその知識を次のループで使ったりして、何とかしよ思たんけど、何遍やってもうまく行かなくてな。


 諦めて、オカン死んだらすぐ死ぬの繰り返しになってもうた。いつかそのまま終わるんちゃうかな思て。でも終わらんかった」


 淡々と話す様子が一層、心を突き刺してくる。


「…ごめん、わたし…」


「まあ気にすることやない。その状況を楽しんでる節もあったからな。何遍でもオカンとの楽しかった日々を繰り返せるんやから。


 それにな、しょっぱなに自殺した自分への罰かもしれんと。


 ほんまは地獄で焼かれてな、永遠にもがき苦しんどるんやけど、その状況を直視できんくて、わしが勝手にし続けている妄想が、繰り返す世界の正体なんやないかって。目覚めるとその世界は消えて、地獄で火炙りが待ってる、でまた妄想が始まるっちゅう、な」


「それは違うよ。だって…わたしはここにいるから」


 そう、今流している涙も、この感情も本物、伝えたい、だけど。


「せやな…わしが死んでな、りかおんがわしの死を認識できたら、りかおんの言う通りや。けどわしは知る由もないんや」


「そうだけど、でも、よしつねが死んだら悲しむ人だって」


 そうだ、わたしだってきっと。


「そうならんためにもな、すぐ死ぬようにしてたんや。せやけど、だんだん死ねんようなって、意識はあるけど死ねん状態が何十年も続くとか、それはもっと地獄やった。そいでな、今度は死ぬのを諦めた。


 といってもなかなかうまくいかなくてな、なぎさに助けられてからやな、普通に生活できるようなったんは」


「それで今みたいな生活に?」


「最初のころはな、開き直ってな、まあ、りかおんの言うズルやな、絶対流行るってわかってる事業に出資したり、権利を先に取ったりしたり、そうして金持ちなってな。万一失敗したらまたやり直せばええって。けど、どっちにしろ死んだら終わりやし、だんだん執着せんようなって、一個一個の人生なんてどうでもよくなってな、気ぃ付いたらこの有様や」


 よしつねは遠い目で静かに話した。


「そんなの…」


 言葉が見つからない。何て言ったらいい。違う。わたしの心、思いを、考えて言葉に、忠実に伝える、よしつねが教えてくれた、そうすればきっと伝わる。


伝える。


「でもさ、よしつね、わたしを助けてくれた、前世で何回も、この前だって、今日だって。


 わたしのためになんて傲慢なことは言えないけれど、よしつねも自分の人生が大切って、そう思っているからわたしを助けてくれたんだと思うよ。


 だからね、現世も、来世もずっと、いつ終わっても、いつまで続いても、どっちでもいいようにさ、ずーっと素敵な人生を送ったら良いんだよ。


 わたしがさ、ううん他の人もみんな、一回きりの人生を生きてるんだからさ。何回も送るからって大事にしないのはさ、ズル…ううん、悲しいよ」


 伝わって。


「………」


「………」


「…ふ、そうだね…ありがとう…」微笑むよしつね、悲しそうな目で見てくる。


「…うん…」悲しみ、安らぎ、怒り、慈しみ、すべてが混じりあい、濁りない、涙が溢れる。


「でも、そんなに泣いていたら、こっちまで泣きたくなるからさ、笑ってよ」


 さっきからそっちだって泣いてたくせに。



 よしつねに言われて、洗面で顔を洗う。


 涙のあとは鏡に写っていない。


 どんな顔で戻ればいい?何を言えばいい?


 笑って、って言ってたよね。無理して笑う?違う。


 楽しかった、勾玉をもらったとき、ぬいぐるみを獲ったとき、チャーハンを食べたとき、なぎさの悪口を…それはいいか。


 そう、いつも通りにすればいい、きっと。無理に何かをすることを、あの人もわたしも望んでいない。



 リビングに戻るとテーブルにドクペとグラスに氷。


「飲むやろ?」


「うん、いつもすまないねー」


 ありがたくいただく。


「言いっこなしや」


「でさー、今日なぎさと会ったんだよー」


「それさっき聞いたわ、どうした?」


「あ、いや、何か湿っぽくなっちゃうから普通にしようと思ってさ」


「それ言うたらあかんやろ?まあええわ」


「ふふっ、でさ、ラーメンおごってもらったんだ。おいしかったー」


「なぎさでもおごることあんねや、へー」


「うん、日傘ももらったし」


「さっきしてやつか、最初どっかの貴婦人がふらふらしてんのか思たわ」


「んもう、それはいいからさ、それでさ、思い出したんだけど…」


「ん…何?」


 なぎさが頼むと言っていた、その…


「けいじ、って?」


「捜査一課の」


「刑事」


「神の?」


「啓示」


「魚の?」


「鮭児」


「はな…」


「もう違う。けいじのこと頼むって言ってたの!誰?」


「わしやろ?」


「よしつね?」


「せや、メッセージの名前んとこ書いてあるやろ?」


 スマートフォンで確認すると『経治』…


「うん、これで?」


「けいじ」


「よしつね、じゃない?」


「そもそもそれはりかおんが名付けたんや」


「あそっか、え、でもみよしつねはるって?」


「ほんまはな、けど戸籍ってふりがなないやんか?つねはるってオカンだけに呼んでほしくてな、ここ数千年くらいはな、こっち来てから、けいじって名乗るようにしてんねん」


「ごめん、また…」


「ええんや」


「でもさ、何でわたしにはつねはるって」


「嘘つかんからな」


「そっか、でもけいじって聞いてないけど」


「聞かれんかったからな」


「は?嘘じゃないとでも?」


「せや、何でもかんでも伝えきれんやろ?永遠に終わらんで」


「う〜ん、もやる。でも、たぶん今日初めて聞いたよ、なぎささんがけいじって言ったの。いつもあいつとかアホとかクソとか死ねだし」


 そこまで言ってない気もするが。


「ひどい言われようやな」


「お互いさまでしょ?」


「せやな」


「でも、今度は戸籍にふりがな付くようになるからさ、よしつねに戻るの?」


「あーハガキ来とったな、けいじって書いてあって、捨ててもうたけど」


「じゃあもうけいじで行くの?申請できるよ?」


「名前なんて、呼んでくれる人が決めてくれてええんや。せやから、りかおん、これからもよしつねって呼んでくれな」


「でもさ、わたしだけだよね?おかしいよね」


「そもそも、つねはるやしな。なぜかよしつね言うとるし」


「つねはるで通してるんだったら、略したっぽい感じになるけど、けいじで通ってるとね。やっぱりけいじって呼ぼうかな」


「えーよしつねでええやん」


「え、さっき呼ぶ人が決めたらいいって?もう忘れた?」


「うぐぅ…」


「どうする?よしつねがいい?」


「…うん」


「じゃあ、呼んであげるけど、条件がありまーす」


「またそれかー?え何?」


「うんとね…」バッグを探って取り出した、勾玉を見せながら「これ、どうやったの?模様がそっくり。ちゃんと教えて」


「簡単なことや。そっくりに作ったんや。その沼島イザナの方を、な」と棚の方を指差すよしつね、ぬいぐるみが飾られている。


「あ、え、勾玉じゃなくて?」


「そんな勾玉うまく作れんやろ?」


「うん、でも、どうやって?」


「とある前世でな、りかおんが好きやっちゅうのがわかってな、勾玉を探したんや。資金はあるからな。買ってもええんけど、オンリーワン感を出しとうてな。ほいでビザンを発掘してな、良さそうなのを見つけたんや」


「うん、でも違うよね」


「それの模様と見つかった場所は知っとるからな、次のループ、まあ今回もしてんけど、そのイルエトワール!の会社、プリズムアイランドにごっつ出資とかしてな、口出さしてもうてんねん、勾玉の模様はこれにしてやって。あと発掘やな、2回目以降は埋まっとる場所わかるからな。それで見つけて。あとはりかおんに渡せば終いや」


「じゃあ、むしろこの勾玉がモデルってことだよね?」


「せやな」


「荷が重すぎるんですけどー。しかも普通にすごい勾玉だし」


「けど、それ知ってんの、りかおんだけやからな。問題あらへん」


「もう…」


「真実を知るっちゅうのは、時に残酷なんやで」



 泣いて、笑って、他にもくだらない話をした。


 わたしもこの世界も妄想ではない。けれど、よしつねが言っていることは本当は妄想なのかもしれない。側から見たらそう思えても仕方がない。でも、よしつねの涙も笑顔も、わたしのそれも、嘘ではないと、そう思う。


 母親の話もした。母。よしつねと同じくらい、わたしも母が好き、だから母に隠し事はしたくない。でも、その気持ち以上に、母に知られてはならない、知られたらこのままじゃいられない、そんな気持ちが勝つ。危うく、形容しがたい関係性。


 次の約束はしない、また会えると思う、突然会いに来ても笑って迎えてくれるはず。


「じゃあ帰るね」


「ああ、えっと…送ってこか?」


「ううん、まだ明るいし、もう大丈夫だから」


「せやな」


「あーぬいぐるみ、飾ってくれてるんだね?」


「思い出の品やからな。けど店に出したら売れるかな?」


「だめだよ、なぎささんに告げ口するよ」


「この上ない脅迫やな。りかおんも使てるんか?ぬいぐるみ」


「え、いや飾ってるよ」嘘ではない。


「抱っこせんの?」


「せんよ」これは嘘。


「ほな、わしはなぎさんとこ行ってくるわ、もう夕方やし」


「付き合おっか?帰るって言ったのに来てるから」


「ええて、まあ説明はしとくわ」


「うん」


「ほな、気ぃ付けて、倒れんで」


「そっちもね」



 お土産を持って、なぎさの店に向かうよしつねの背中が遠ざかる。今日はよしつねに、先日はなぎさに、倒れそうなところを助けられた。二人とも優しい。でも、その二人は悪口言ったり、殴ったりしている。好きなら仲良くすればいいのに。


 よしつね、お土産が被って怒られないだろうか。また殴られたりしないだろうか。心配。だからつけて行くことにした。影から見てて、もし殴られそうなら助けてあげる。


 なぎさの店、灯りは点いている。店の中入ってすぐ。よしつねが見える、その向こうになぎさ。誰も来ないからといって、そんなところで話していて大丈夫だろうか。


 声はほとんど聞こえないけれど、何やら話しているように見える。わたしのことだろうか。今日はなぎさと食事して、よしつねとたくさん話して、二人とも優しくしてくれた。そんな二人だから、喧嘩しないで欲しい。


 お土産を渡す。それを受け取るなぎさ。それはよしつねがなぎさのために買ってきたのだから、怒らないで。


 お土産をレジ棚に置くなぎさ、よしつねに近寄る。


 ぶつかりそう。


 なぎさが、よしつねに、どうして、どうして抱きつくの?わたしが仲良くして欲しいって思ったから?


 でもいけないことだよ、家族を悲しませるよ?わたしも家族を悲しませるようなことしているから?


 それよりも、一番わからないのは、わたし。どうして、二人が仲良くしても、こんなに嬉しくないんだろう。



 帰り道。日が長い。夕焼けを見ると思い出すから、その前に買い物して、家に帰らないといけない。もう思い出していることに気付いてないふりをして。


 今日はわたしがごはんを作る。お米はセットした。いつも美味しいっていってくれるから、ハンバーグ。玉ねぎ。切ると涙が出る。あんなにいっぱい泣いたのに。いつもより、たくさん、止まらない。


 夕食。いつもと変わらない。美味しいって言ってくれる、いつもそう。涙だって玉ねぎのせい。でもどうしてわかるの?ママ、間違い探しの天才だね。


「莉花、最近何かあった?」


 テーブルの対面で母が見つめているのは、わたし。


「ううん、別に」


 その目を見られずにうつむく、わたし。


「ママに話したくない?」


「うん」


 自白。


「なら、話さなくてもいいよ」


「ほんとに?」


「うん。でも少し聞いてもいい?」


 取り調べ。


「いい…よ」


「嫌なことした?」


「してない」


「された?」


「ううん」


「これからも続けたい?」


「うん、たぶん」


「なら、いいよ」


「ほんと?」


「でも、ちゃんと帰ってくること、あとやめたくなったら、やめて、ね?」


「いいの?」


「莉花の人生だから。それに莉花は、ママを悲しませるようなことしないって思ってるから」


「ありがと」


「何かママにできることがあったら言ってね?ずっと長く生きてるんだから」


「うん」


「じゃあ、部屋行っていいよ」


 釈放。


 でも、母よりも、もっとずっと長く生きてる人を知っているけど、その人はずっともがき苦しんで、ずっと悲しんでいるように思える。



 寝る時間、寝なくてもいい時間。明日も休みだから。


 でも寝る。早く今日を終わらせたい。


 天井が見える。そして目を閉じる。


 ぬいぐるみ、ここ数日は一緒に寝ている。でも今日は別。わたしに構ってもらえるのが当たり前と思わないことね。


 明日また、よしつねに会いに行く?行ったら喜ぶだろうか。


 母がわたしの異変に気付いたように、よしつねも気付くだろうか。母とは生まれたときからずっと一緒。でも、よしつねも前世でわたしのことをたくさん見ているはず。気付かれて、何かあったか聞かれたら、なぎさとのことを見たって言うだろうか。


 それとも、さきにわたしが問い詰めるだろうか。そうしたら、よしつねは嘘をつかないで答えるのか、それとも嘘をつくのか。どちらであっても、答えを聞きたくないから、何も聞かないだろうか。


 母が、やめたくなったらやめたらいいと言っていたように、もう行くのを止めるだろうか。


 わたしはどうしたいのだろう。でも今日はもう疲れただろう。


 だから、わたしがわたしを抱きしめてあげる。


 おやすみ、わたし。



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