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天国の正体

天国の正体(惑星間探偵事務局KSKリターンズ)

※※※※※※※※※※※※


「我々は天国、ユートピアを作るのだ」


 マルクス・ブーゲンハイトさんは嬉しそうに言った。カゼノさんは、とても悲しそうだった。



 デルドレッド連邦から独立した惑星ワーカーで、私たちはトラブルに巻き込まれた。この星の人たちはとても豊かで幸せな生活を送っている、と自分たちで言っている。毎日ずっと働いてお金を少しだけもらって、食べたいときも寝たいときも明日の仕事に備える。大変そうだなあと思っているけど、星によっていい暮らしって違うんだと思って納得していた。好きなことをしていても自由だけど、みんなの視線が痛い。だから働かないといけない、とみんな少しだけ思っていて、ずっと思っていて、結局働く。働き始めたら少しだけというわけには行かなくて、ずっと働いている。KSKはこういう会社だから真面目に働いている人を見ると頭が下がる。でも……つらいんじゃないかなあって心配になる。カゼノさんは、ワーカーにいる間つらそうだった。具合が悪いんですか?ってシリカ君が気を遣ったけど、大丈夫としか答えてくれなかった。早めに仕事が終わったから、やることもないし帰ろうかと思っていたら空港で大騒ぎ。パスポートなしで出て行こうとした人が、止められていて暴れたみたい。四人か、五人か……家族だろうか。子どももいたけど、警備員が乱暴するわけないと思ったから見ていたら、カゼノさんが飛び出した。カゼノさんは警備員の拳を受け止めて、お子さんは殴られなくて済んだ。


 カゼノさんは不法出国の手引きをしたんじゃないかと連れていかれて、私とシリカ君も一緒について行くことになった。手錠をされたカゼノさんと、大人しく座った私たちが部屋で待っていると、知っている人が来た。マルクス・ブーゲンハイトさん。カゼノさんの元同僚だ。


 カゼノさんの手錠は何か特別な仕掛けがしてあって、反抗の意志自体を削ぐらしい。前みたいに錠前外しがないことを確かめて、マルクスさんが座った。まだこんなことやってるのか?ってカゼノさんが聞いたら、マルクスさんが笑った。非常に順調だ、って。お前は肝いり、できれば引き込めと言われている。引き込めないなら、残りの二人だ、って注射器を取り出した。ムッとしたカゼノさんだけど、錠前が効いているから飛びかかれない。マルクスさんは、満足げに言った。


「我々は天国、ユートピアを作るのだ」


 カゼノさんは、とても悲しそうだった。ユートピアってのは、すごいものなんだってな。金も貧富もなく、生きるために働き、文明は進歩していく。どこの誰が考えたか知らないが、すごいものだ。それを聞いた誰かが、こう思った。「こいつらにやらせよう」。これをもってこの世には天国が生まれ、同時に地獄が生まれた。今ではユートピアは、そういうものになった。興味がない。だから抜けたんだ。マルクスさんは諦めたみたいで、なら仕方ない、命令だ、って注射器を持って私たちに向かってきた。怖くて声も出せなかったそのとき、カゼノさんの錠前がバチンと音を立てて外れた。


 カゼノさんが飛びかかると、マルクスさんはすぐに叩き伏せられて注射器を踏み潰された。その気になったら全員倒すのもわけない、と言ってカゼノさんはマルクスさんを見下ろした。まずはお前が、踏み潰されるか?……マルクスさんはカゼノさんを送り出して、別室を通りかかったカゼノさんが声をかけてご家族も出国した。そのあとはなぜか、誰も私たちを追いかけてこなかった。あちらはわずかな傷よりきっかけをなくしたいそうで、マルクスさんがやられたってどうということはない。私たちを捕まえるより……自分たちが隠れることの方が大事だと、思っているらしい。


 ワーカーの人たちは自分たちの暮らしを、まるで理想郷だと思っている。でもあまりにもつらそうで、カゼノさんは見ていられなかった。叫びたくなることが、何度もあったけど……叫んでも聞いてもらえないと、わかっていたらしい。いつかわかってほしい。ワーカーの人たちにも、あと……カゼノさんはもう話してくれなかった。


 ところで、どうやって錠前を外したんですか?外れないようにできていたと思うんですけど。カゼノさんは、胸と踵に思いきり力を入れて、錠前に屈服したと思わせたらしい。錠前の型式を知っていたから、これでいけるはずだとタイミングを計っていた。そんなことができるんですか?なんで外れるんですか?って聞いても「聞かない方がいいですよ」と言って教えてくれなかった。カゼノさんのご友人の、キョクシンのハリーさんが「リューキューのコツカケを使えば外れるという噂がある」と後日教えてくれた。じゅうぶんわからなかったけど。

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