表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/28

どこまでも遠くまで

どこまでも遠くまで(惑星間探偵事務局KSK)

※※※※※※※※※※※※


 カゼノさんがテレビを見ていた。バラエティでもドラマでも、ニュース以外なら見るというとても探偵とは思えない趣味だけど今回はまた違う番組。クラシックオーケストラの演奏会。そんな趣味があるなんて知らなかったけど熱心で、地球のオーケストラは地球人に向けて作られてるから、って言っていた。どこの星にでも音楽はあるし、音なんだからどの星向けとかあまり変わらないと思う。何星人でも頭の中は似たようなものと今ではみんな知っている。だからそんなに変わらないと思うけど、「この指揮者、腕がいいんだ」って解説していた。ベータ32惑星出身のルーピー・オールドバーグさん、地球のネグロイド系と現地の人のハーフ。指揮者の腕がいいなんてわかるのかな、みんな楽譜を見てるし練習してるんだからいらない気がするけど。でもなんだか熱心だから邪魔はしなかった。


 カゼノさんはダンス以外にも音楽を進めることが多くて、シリカ君もフルートをやったらしい。縦笛ではなく横笛というのがこだわりらしくて、「縦は後でいいから、横」と練習したとか。毎日懸命にフルートをくわえて吹いていた、というので「自分のだよね?」といらないことを聞いてしまった。シリカ君から「当たり前でしょ、カゼノさんがやるのは笛じゃないんだ」と思ってたのとちょっと違う答えが返ってきた。ああよかった。何か違うけどよかったことにしておく。


 自分でやらないのに人にやらせるのもどうかと思うけど、カゼノさんもたまにハーモニカを吹いたりギターを弾いたりして、一通りできるらしい。私は歌うのがいいと言われた。慰労会と称してみんなでカラオケに行ったら、なんて美しい!ってカゼノさんが感動していた。何をどう歌ってもそう言うのでたぶん違うものに反応している。カラオケの機械に72点と言われたのにほめられたときは退職を考えた。でも他の職場がないのでここにいる。


 まあカゼノさんも音楽に多少なり興味があるだけだし、それ以上じゃないから疑問もなかった。KSKは仕事時間より待ち時間が長くて閑古鳥が常連さんだからやることがあると助かるし。だからこんな大仕事が来るとは思っていなくて。


 ルーピー・オールドバーグさん。映像ではない。本物だ。な、なんでこんな零細事務所に?って思ったら、このあたりで手を貸してくれそうな人がおらず、小規模な事務所を探したらしい。「一番小規模なところ!」と探すとぶっちぎりでKSKだからここに来た。こういうマーケティングなのだろうかと思ったけどカゼノさんが本気でありがたがっているからただ小さいだけだ。そして、ルーピーさんなら断るわけにはいかない、と仕事を引き受けた。


 ルーピーさんを担当する行政書士の仕事に見落としがあり、お金のトラブルになった。関係者で有名なのはルーピーさんだけだからここにしわ寄せが来て、絡まれている。解決自体は時間をかければできるけど、今度の演奏会に出席しようとしたら居場所がバレて襲われるかもしれない。公表もできないし大事な演奏会だから欠席もできない。襲われるとしたらここしかないらしい。そんな状態でプレアデスまで一人で来たのかと不思議だったけど、「根拠がないなら誰といても安心できない」らしい。この事務所は無関係でしくじれば一蓮托生、そういう意味では信用できますからね、とカゼノさんは納得していた。「一つ間違えば潰れる」って事だと思うけど、納得していいのかな。


 当日その星に行くルートを確保しないといけないから力を貸して欲しいというのが依頼だ。向こうだって来そうなルートを想定して監視しているから、今考えた手段がいる。なら外部の協力がほしい、だからウチに来た。任せて、と言うカゼノさんには考えがあるらしい。数と力に頼る相手ほど変化に弱い、一回こっきりならなんとかなる。原始的でもね、っていかにもカゼノさんらしい作戦だった。



 KSKの宇宙艇が真っ正面から星に入っていった。四方八方から他の宇宙艇が集まってきて、オンボロ宇宙艇は運転技術にものを言わせて逃げていった。もちろん追いかけられて、その間に私たちの乗った個人タクシーがその星の裏に回った。KSKの宇宙艇に乗っていたのはルーピーさんの仕事着に合わせてそれっぽい服を着たカゼノさんだけ、追いつかれたら簀巻きにされるだろうけどたぶん平気だろう。きっとこれくらいコブを作って帰ってくるんだろうなあ、という想像図は「それではすまないだろう」という程度なのが不思議だ。でもいつも平気そうなので、これでも多めのコブを見積もったくらいだ。私たちのタクシーは星の裏に降りた。ここで問題が発覚、「星って大きい!」。真上から降りたら十分間に合うのにここから裏まで大急ぎ、カゼノさんは自分本位に体力を計算するからギリギリもいいところ!乗り継ぎが一つできなければ完全に遅刻、交通機関の間をみんなでがんばって走ったけど最後の電車に間に合わず遅れが出た。カゼノさんから通信が入って「こっちは大丈夫」らしい。遅れが出て、開演に15分遅れます!そもそもこの演奏会は替えが効かないからルーピーさんが困っていたので代役がいない。15分持たせる、ってカゼノさんが言っていた。無理ですよ!でもカゼノさんは慌てた様子もなく、事故を起こさないようにって言っていた。


 到着したルーピーさんがシリカ君と一緒に裏手に走っていって、私は演奏会の会場に残された。ルーピーさんから話を聞いていた関係者に中に入れてもらって、見守る。そしたら指揮者が出てきた。いくらなんでもまだルーピーさんの準備ができていない。出てきたのはカゼノさん、囮の服装のまま指揮棒片手に挨拶した。


「本日は友人のルーピー・オールドバーグに前座を任されました。しばしお付き合いください」


 それでは、みなさん知っている曲を。「天国と地獄」。そう言って指揮棒を掲げるとオーケストラの人たちが楽器に手をつけた。大きな腕の動きと供に演奏が始まって……一糸乱れぬオーケストラの熱演。なんでこんなに上手いんだろう。カゼノさんの振る棒に合わせて、まるでいつも一緒に練習しているみたいにみんな息が合う。誰も疑問を持たず、まるで杖を振る魔法使いのよう。最後のお辞儀まで終わると、ルーピーさんが交代で出てきた。我が友人にどうか、盛大な拍手を!と喝采を受けて演奏会が「始まった」。


 裏に回ると、大丈夫でしたか?ってカゼノさんが聞いてきた。こっちのセリフですよ!って言って机に置いてあった指揮棒を手に取った。どこからどう見てもただの棒、だって私が買ってきたし。なんでこれで指揮ができるんですか?って聞いたら何か持っていたらなんでもいいらしい。棒みたいなものを掲げて、例えばカミソリと眉毛で剃るような形を作ればだんだん似たようなことができるようになる。やったことはないけど、ってカゼノさんが言っていた。じゃあ適当なことを言わないでください、もし眉毛を剃り落としたら恥ずかしくて山を下りれないじゃないですか。


 モニターを通してルーピーさんの指揮を見たカゼノさんは、自分の指を小さく動かして「やっぱり上手いな」って言っていた。演奏会が終わってルーピーさんを送り届けたら仕事は終わり、私たちは事務所に帰った。帰る間、カゼノさんはさっき演奏に使った「天国と地獄」を口ずさんでいた。


「彼女を思うとこの胸騒ぐ、会いたい気持ちがワクワクワクワク……」


 それ、ゲーム音楽じゃないですか?って聞いたら「宇宙の真理じゃないですか」と真剣に言っていた。真理というのは、だいぶ単純らしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ