第一話 新設部隊の戦隊長
日本、深夜の廃ビル街。夜の静まった空間に突如としてこの世のものとは思えぬ咆哮と、爆発音。音の先には黒紺色のトレンチコートのような隊服に軍靴、手には剣や弓や槍などといった近代には多少場違いな格好の5~6人の集団と、それよりも遥かに数が多い緑の小鬼、ゴブリンの群れが戦闘を行っていた。
「そっち行ったぞ!くっそキリがねぇ!」
「本当ですよ!誰ですか!こんな任務受けちゃったの!」
ゴブリンは一体一体の強さはそれほどでもないが、問題はその数の多さと狡猾さだ。1体いれば100体はいるなんてのはよくある話だが、闇討ち不意打ち当たり前。男は殺し女は犯すというまさに外道のような魔物である。
「隊長ぉぉ!もう無理ですぅ!助けてー!」
一人の女隊員が涙目で走りながらさらにゴブリンの増援を連れてきた。他の隊員たちも思わず見る。
「なんで数を増やす?!」
「ああ!もうほんと限界!隊長!あとお願いしますよ!」
そう言って
5人の隊員は廃ビルの間を跳び、屋上に避難する。ただ、1人だけその場に留まっていた。白髪に一部分だけ赤く染った髪に、隊長格を記す他とは違う隊服を纏い、赤黒い刀を手にその場に立ち尽くす1人の青年。
「ああ、後は任せろ」
そう言うと青年は一瞬で消えた。そして気づけばゴブリンの集団の後ろ、剣を払いながら、
「散れ」
瞬間、その場にいた数100のゴブリンの首が一斉に切り落とされたようにドサッと落ちた。そして小鬼の大群は全員その場に崩れ落ちた。
「はは、今の見えたか?」
1人の男隊員が苦笑気味に隣の隊員に問う。
「ほとんど見えなかったよ...まだ現場復帰して1年弱なんだろ?流石としか言えねぇわ」
青年の周りに降り注ぐように出る返り血がまるで、咲き誇り舞い散る桜の花弁のようだった。
翌日、《MAA》西部戦線第一戦隊の司令室。戦隊長である白髪に一部分だけ赤く染まった青年、剣崎紅は、右目の眼帯が良く似合う筋骨隆々のおっさん司令長官、大凪玄司に呼び出されていた。
「おい紅。確か昨日の任務は”ゴブリンの巣の調査”だったよな?」
剣崎はあっけらかんと答える
「そうですね」
大凪のこめかみに青筋がピキッとなる。が何とか怒りはこらえる。
「じゃあ何故ここまで大規模な戦闘になったんだ?」
紅は相変わらずの口調
「いやぁー実は思いの外数が多くてですねぇーこれは殲滅した方がいいかなって」
我慢だ我慢だと大凪は質問を続ける
「その旨は報告したのか?」
俺は少し考えるポーズをとって
「忘れてました☆」
ニコッと笑うを見てついに大凪は限界が来た。
「紅ぅぅ!報連相は必ずしろといつもいつも言ってるだろうがぁ!!」
怒号と共にゲンコツ1発。フツーに痛い。
「いってぇ?!ごめんって!急だったんだよ!だからこうして今報告してんじゃん!」
「これは事後報告というのだ!」
もう1発ゲンコツ。昔馴染みの、特にここ1年程は特にお世話になったからこれが愛情故だということはわかるが
「もう、これ以上バカになったらどーすんだよ。」
「これ以上も何もお前バカじゃねぇだろアホ」
「やっぱり酷くねぇ?!」
「まったくお前というやつは。本当に頼むぞ?過去の英雄」
過去の英雄。その言葉を聞いて俺の顔が無意識に強ばる。
「英雄はやめてくださいよ...俺は、何も守れてないんですから」
そう言ってさっきまでの調子が嘘のように悲しそうな顔になる。さすがの大凪も申し訳なくなり、別の話題を探す。ふと、今日の呼び出しのもう1つの要件を思い出した。
「そうだ紅。お前に上から移動命令だ。」
そう言って少し申し訳なさそうに紙を手渡した。
紙に書いてあったのは剣崎紅という正式名称と等級階級と共に[西部戦線第七戦隊戦隊長に正式任命]と書いてあった。
この組織には純粋な戦力としての等級と、指揮系統としての階級がある。等級は下から六等級、五等級、四等級、三等級、準二等級、二等級、準一等級、一等級、準特等級、特等級。
階級は軍曹、伍長、少尉、中尉、大尉、少佐、中佐、大佐、少将、中将、大将、元帥となっている。そして、組織構成としては東西南北の各戦線があり、それぞれに5~6戦隊存在する。そう、最大でも第六戦隊のはずだ
「第七戦隊...?どういうことだ?」
大凪が説明を加える
「なんでもうちの戦線に新設された部隊らしい。んでお前がそこの戦隊長に適任なんだとよ」
なぜこんな時期に移動なのか、突然のことに謎は深まるばかりだが、上からの命令である以上逆らうことはできない。
「まあ、後は行ってみれば分かるって話しだ...まあ、その、なんだ...寂しくなるな。」
大凪は本当に寂しそうにつぶやく。それもそうだ。かれこれ1年弱、大戦前も含めたら結構長いこと面倒を見てくれたんだ。俺だって寂しい。でも何も一生会えない訳じゃない。生きてさえいれば、また会える。
「大丈夫ですよ。これが最後ってわけでもねぇんだから。」
そう言って俺は席を立ち上がった
「落ち着いた頃に、また顔だしますよ。」
そう言って俺は踵を返し、部屋を後にした。その後、お世話になった人達や部下に挨拶を済ませに行った。部下達にはそうとうただをこねられたがこればっかりは仕方ない。俺は長年お世話になった古巣に別れを告げ、新部隊の第七戦隊とやらの宿舎に向かった。
「着いた...けどほんとにここ...か?」
翌朝、渡された地図に記された場所に到着すると、そこにあったのはおおよそ宿舎とは言い難い、ボロ家だった。庭は雑草が伸び放題だし、建物は所々崩れ落ちている。
「他の隊員は先に着いてるって言ってたが、ほんとにいるのか?」
他のメンバーは5人で、既に配属はされているらしい。だが人の気配がまるでしない。というか生活している感が1ミリもない。まあ、外出中の可能性はあるが。
「とりあえず入るか...こんちはー」
恐る恐る引き戸を開け、挨拶するが返事はない。やはり外出中なのだろうか...と思っていると、奥からドタバタと足音が聞こえてきた。
「あー!2人とも帰ってくるの遅いよ〜!先にお風呂入っちゃ...た...」
そこにはバスタオル1枚の美女。赤い髪をたなびかせ、あられもない姿を堂々とさらすそのたたずまいの子とバッチリ目が合う。
「...」
「...」
長くも一瞬の沈黙の後
「へ、変態ぃぃーー!!!」
腰の入った見事な右スレートが俺の頬を撃ち抜いた。
その後、やはり外出中だったらしい他のメンバーが続々と帰った時、血を吹いた男が転がっていたとか...って死んでねぇし!
「改めてこの子が本当に申し訳ありませんでした」
「ああ、まあ俺も悪いしね...」
「とは言っても...ほら桜花ちゃん、ちゃんとごめんなさいしないと神様にオヘソとられるわよ?」
いや、それ雷の時だろ、というツッコミはさておき。
このおっとりした美女は出雲薫。薄く紫がかったロングの髪が良く似合っていてスタイルもよく、背の高いお姉ちゃん気質な...天然。
「...ふん」
そして先程事故であられもない姿を目撃してしまったこちらの少女は火村桜花。真っ赤に揺れる綺麗な髪を今はポニーテールに結び、高校生とは思えぬその豊満なものを見せつけるがごとく腕を組み、そっぽを向いて不貞腐れている...小生意気なヤンチャ娘。
「もう、2人とも大人しくしていてください。話が一向に進まないじゃないですか。まったく」
このクールな少女は桐生菫。青みがかった黒髪ショートヘアで、いかにも頭が良さそうな雰囲気である。この状況下でも1人冷静で、話の進行をしようとしてくれる。身体は全体的に小さいが...それも魅力というもの。
「お待たせしました!お茶と茶菓子をどうぞ!遠いところからお疲れ様です」
この元気ハツラツなお嬢ちゃんは椿野芽衣。短めの黒髪を2つ括りにし、ニコッと笑う姿は天使かな?と錯覚してしまう程だ。まさに妹キャラと言ったところだろう。
「あ、あの、あなたが、新しい、た、隊長さん、ですか?」
このおどおどした感じの子は神門桃寧。天パ気味の髪の毛にメガネで、顔は悪くないのに芋っぽく見えてしまう。
と、この少々個性的なメンバーが西部戦線第七戦隊の隊員、つまり戦隊長である、俺の部下になる...不安を隠しきれないんだが?




