第十五話 彼等が英雄になった日
七聖と相対したのは全ての元凶、魔神王。
絶望的な力の差を前にして、瓦木一晴が下した決断とは━━━━
「まさか...魔神王...?」
数百年前、当時の日本を圧倒的な力で蹂躙し、支配しようとした、魔物どもの王
禍々しい金色の装飾の施された真っ黒のローブを纏って、人の形はしているが、その目は深紅に染まり、肌は紫であることから人ならざるものであると否が応でも理解させられる。
永遠にも感じられる刹那、剣崎は臨戦態勢を取り...音を置き去りに、後ろに吹き飛ばされた。
「グハッ...!」
剣崎が先程まで立っていた場所には、足を振り上げた魔神王が立っていた
(今、何をされた...?!全く見えなかった...)
隣でかろうじて目で追えた瓦木は戦慄する
(ただの蹴り?!純粋な身体能力でこれってことかよ!)
すると大剣を構えた泉が駆け出していた
「うおぉぉぉ!!」
すると高く上に飛び上がり、大剣を構える
「スキル『重力増強』!」
強大な重力に押し込まれるように、大剣を振り下ろすが...魔神王は軽々と片手で受け止める
「は?!うっそだ━━」
直後、魔神王に大剣ごと投げ飛ばされる。あまりの速度に受け身が取れず、ボールのように跳ね転がる。
今度は魔神王の背後、高速で回り込んだ太刀川が2本の短剣を構える
「天魔二刀流『瞬風』」
2本の斬撃が高速で魔神王に襲いかかる...が
「!?」
魔神王の手にはどこからともなく現れた禍々しい長剣が握られており、2本の刃を受け止めていた
「チッ...!」
そして振り上げた剣にそのまま吹き飛ばされる
「よくも!みんなを!」
後方、柊が涙を流しながら怒りに震え叫んだ
「スキル!『炎帝』!」
灼熱の業火が魔神王を襲う、
「合わせるのです!」
「了解だ」
「あぁ!」
残る3人も同時に技をうつ
「光属性魔術『輝く星々の矢』」
「スキル『棋兵召喚:飛車』」
「スキル『魂の怨嗟』」
4人の攻撃が一斉に直撃する。しかし土埃が晴れると、無傷の魔神王が立っていた。そして何やら聞き取れない言語で詠唱をしている。瓦木は本能的に死を感じた
「お前ら!避けろ!」
瞬間、詠唱が終了する
「第三階挺暗黒魔法『死の鉤爪』」
直後、黒い無数の斬撃が3人に降り注いだ。
全員少なからず傷をおい、その場に頽れる
(強、すぎる...圧倒的に格が違う!魔物特有の魔法も使える以上、今の戦力で勝ち目はない...!)
魔物の中には魔法と呼ばれる、魔術に似た力を使うものもいる。そしてその多くはS危険度以上。2つ以上の戦隊が合同で討伐するレベルである。
「紅!ここは撤退だ!全員死ぬぞ!」
瓦木から指示を受け、剣崎は奥歯を噛む
「...ッ!わかった。全員撤退!すぐにここから離脱しろ!」
声を聞いた隊員達が急いで、撤退を始める。撤退支援のため魔神王に向かう剣崎達だったが、魔神王は何もせずただこちらを見ていた。するとゆっくりと口を開く。
「我が名は魔神王オロバス。矮小な人間共よ、大人しく領土を明け渡す気はあるか?」
剣崎が臆されず力ずよく答える
「断る!ここは俺たちの世界だ!お前らにタダでは渡さねぇ!」
すると魔神王、オロバスは薄く笑った
「では戦だ。どちらかが滅ぶまで戦おうではないか。震え、怯えて待つがいい。」
そう言い残し、オロバスは山頂に向かって歩いていった
その後、《MAA》は魔神王オロバスの出現を正式に確認。緊急戦時宣言を発令。避難を含めた準備が始まった。魔物どもも同様、山頂にいつの間にか出来上がっていた古城に集まり、戦の用意をしていた。
第二次人魔大戦が勃発した。
大戦は激戦を極めた。時には前進、時に後退を繰り返し、均衡状態が半年続いた。その間も何度か古城に攻め入ったことはあったが結果は全敗。魔神王の圧倒的な力を前に為す術はなかった。《最後の希望》も海外での長期間にわたる《門》攻略で全員不在。厳しい戦況に司令部は頭を悩ませていた。そんな時一人の青年が作戦を立案した。
そして最高司令部は、この案を採用した
「これより作戦の概要を説明する」
中央本部大広間に集められた、戦隊長、副隊長達に、上層司令部の男が説明を始める
「今回の大規模作戦では、東部戦線、西部戦線の合同で行う。まず、両戦線の第二以下戦隊は古城前面にて魔物の陽動を行ってもらう。その間、東部第一の補助の元、西部第一が古城に潜入し、魔神王の懐に近づく。その後、研究部が開発した魔導具にを用いて、魔神王を封印する」
すると、少し全体がざわつき、一人の隊員が疑問を口にする
「何故討伐ではなく封印なのですか?」
すると司令官の男は言った。
「魔神王は現状、我々の戦力では、討伐は不可能だというのが司令部での見解だ。ので、封印という方向で作戦が立案された。」
すると司令官の男は黒い短剣のようなものを取り出した
「これが今回封印に使用する魔導具、『魂葬』だ。これを3本同時に刺すことで封印が完了する」
ざわつきが収まらない中、奇襲部隊の面子が名指しされた。
「奇襲部隊は東部戦線第一戦隊より、剣崎準特等級少佐、瓦木準特等級少佐、泉準特等級大尉、太刀川準特等級大尉、栗田一等級少佐、柊一等級大尉、雨宮一等級大尉。以上の7名で行う。『魂葬』の所持は7人の判断に任せる。その他戦隊は古城正面での陽動部隊だ。決行は明日だ。それまで解散!」
そしてその日は解散となった。
作戦当日。
剣崎達は奇襲部隊であるため、古城の裏手で待機していた。
「なぁ一晴。聞いてるか?」
すると瓦木はハッとしたように剣崎の方をむく
「お、悪りぃ聞いてなかったわ〜。どした?」
「いや、大したことじゃないんだけど...お前最近変じゃないか?」
ここ数日、瓦木はどこか上の空でなにか考え込んでいるような節があった。
「ん?そうか〜?俺はいつも通りだぜ?」
そう言ってヒラヒラと流される。何となく、この時剣崎の胸にモヤモヤとした嫌な予感が渦巻いていた。
前面で戦闘が始まり、作戦開始となった。
古城内は陽動のおかげで魔物はほとんど居なかった為、すんなりと魔神王のいる玉座の間にたどり着く。
「...来たか。愚かな人間共」
そう言って魔神王は玉座の傍らに置いていた禍々しい剣を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。
「行くぞ!お前ら!」
そう言って剣崎達は一斉に駆け出した。
そして前衛組の4人が完璧な連携で、魔神王の注意を引く。幾度となく続く激しい猛攻に、魔神王も受けに回る。その間、後ろで技の準備を進める3人。
「スキル!『火ノ鳥』!」
「炎光複合魔術!『灼熱の陽光』!」
「スキル『棋兵召喚:龍王』」
後方支援組の高火力攻撃が降り注ぐ。しかしそれも魔神王にとっては大したダメージにはならず目くらまし程度にしかならない。
しかし、魔神王、オロバスは気づかない。
後衛の火力支援はそれこそが本当の目的であることを。
「スキル『魂の多腕』」
土煙が晴れきらない時、不可視の無数の手に体を掴まれ、オロバスは身動きが取れなくなる。
その隙一瞬の隙を待っていたと言わんばかりに土煙の中を駆け回る3つの影。次の瞬間
「何?!」
オロバスの体に何かが突き刺さった。すると体全身が重くなり、脱力感に襲われる
(魔力を吸っているのか...!)
その時剣崎が叫ぶ
「お前ら!『魂葬』を刺した!すぐ離れろ!」
『魂葬』を受け取った時に言われたこと。刺したあとは全力で離れること。
しかし瓦木はその場を離れない。
「一晴!?どした!早く来い!」
すると、瓦木は振り返らず言う
「言ってなかったんだがな〜!この封印は、俺のスキルのひとつだ!だから俺が最後、仕上げをしなきゃならねぇ!だから先に行け!」
その瞬間気づいた。ここ数日の瓦木の行動。魔導具の名前の魂葬。そして、彼のあるスキル。その事を思い出した栗田が叫ぶ
「まさか!自分の魂使って封印するつもりか!」
剣崎が怒りも混じりに叫ぶ
「はぁ!?アレのことか!良いわけねぇだろ!そんなの!」
そう言い、剣崎は駆け出し、瓦木に駆け寄ろうとする。するとオロバスが手先だけを拘束から外し、詠唱を唱えた。
「第九階挺暗黒魔法『呪縛の炎』」
その時、咄嗟に瓦木は手を魔法陣の正面に出して、妨害した。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!」
さらに、余波で剣崎も魔法を受けてしまった。そして瓦木の右手は、黒く焦げたようになり、だらんと垂れ下がっていた
「一晴!早く戻れ!...ッ!」
(体に...力がはいらねぇ...クソ!)
するとボロボロの体で少し振り返った瓦木が、薄く笑う
「悪いな。元々そういうつもりでここに来たんだ...覚悟はできてる」
柄にもない事を言いながらスキルの構築をする瓦木の背中には覚悟が見えた。
「じゃあな。楽しかったぜ〜相棒」
それでも剣崎は泣きながら叫ぶ
「嫌だ!まだ死ぬなんて許さねぇ!絶対...最後まで一緒に...!」
その時、後ろから抱えあげられる。
「...行くぞ!」
泉が剣崎を抱えて、みんなで走る。
「?!...何しやがる!離せ!」
「バカ野郎!一晴の覚悟を無駄にするつもりか!?」
剣崎は言葉を失う。代わりに涙が溢れ出した。
「安心しろ...皆同じだ。」
気づけば全員泣きながら走っていた。後ろを振り返らず、ただ真っ直ぐ。
「クッソ...!」
そこで剣崎の意識は、呪いの影響か、黒く暗い海の中に沈んで行った。
横目に、全員が走り去ったのを見届けた瓦木は少し安堵する。
「...ありがとな」
そう言っていつものように笑い、オロバスの方をむく
「何を笑っている。人間風情がたった一人で、我を止められるとでも思っているのか?」
すると瓦木は不敵に笑った
「少し違うねぇ〜。俺はひとりじゃない。みんなの思いを背負ってここにいる。だから、これで終わりだ魔神王。一生眠ってろ!」
そして瓦木は眩い光に包まれる
「スキル『四凶封魂』!」
4つの魂を核にして、ひとつの魂を封殺するスキル。その効果は核にする魂の強さに依存する。
故に、この世に強い未練を残した魂3つと、自身の魂で形成された『四凶封魂』は、魔神王でさえも封じ込める効果を発揮する。
「我が!こんな人間共になど!負けはせんんんん!」
そして、魔神王は光り輝く箱に閉ざされる
力を、魂を使い果たした瓦木はその場に倒れこむ。そして、震える手でタバコを取り出し、火を...付けようとすると、右腕が無いことに気づいた
「ハハ...最後の1本も吸えねぇのか〜」
意識が遠のいていく。魂を使い切った、つまり文字通り精も根も尽き果てている。
戦闘で空いた穴から空を見上げる。作戦開始は昼前だったのに気づけば夜になっていた。そして満点の星空を見上げ、ここ数年の思い出が込み上げてきた。
「...楽しかったなぁ〜」
そして、瓦木はゆっくり目を閉じた。
その後、魔神王の封印を確認した《MAA》は、戦争の終結を発表した。その後、西部戦線第一戦隊総動員で古城の調査。残党狩りをしつつ、玉座の間にたどり着くと、そこにはオロバスを封印した光の箱と、火をつけ損ねたタバコが1本落ちていた。




