File07 -天に吐く唾の行方
いらっしゃい。
……どうしたんだい、そんなにしょぼくれて。
宝くじが、ハズレた。
はぁ。
あー……なんと言ったら良いか。
未来に夢を見るのはいいが、それを元にして計画を立てるのは、うん。
では、そんなしょぼくれた君の気持ちが少しでも上向くように、今日も話をしよう。
タイトルは「天に吐く唾の行方」。
◇◆◇◆◇◆
とある市でしか配られないチラシがあるんだが、それがまた実に珍しくてね。
それは──予讐代行サービス。
いやぁ。
今の時代、どのような物でもビジネスになると感心したもんさ。
どんなサービスかって?
その名のとおり、"予め"復讐を代行するサービスさ。
依頼者に未来で危害を与える者に対して、先に復讐し安全を守ろう。
そういうコンセプトらしい。
依頼方法は簡単だ。
チラシに記載されているQRコードを読み込み、自分の個人情報と支払い口座を登録、
それから復讐度合いを選択するだけ。
依頼が通るとメールで内容の確認が届く。
そして、だいたい一週間以内には、復讐が"完了"するそうだ。
金額も、復讐に見合った額が自動で引き落とされる。
ただし──
誰が復讐されたかは、依頼者にもわからない。
だって未来に起きる"だろう"事柄に対してのアクションなんだ。
今現在で相手と出会っていない可能性もある。
それに加えて依頼は事件や事故の形で処理されるようでね。
様々なニュースは流れるが、その被害者が未来の"加害者"だったのかどうかは、誰にもわからない。
把握しているのは、このサービスを運営している「株式会社モガモガ」だけだ。
そんな摩訶不思議なサービスだが、意外にもリピーターが付いていてね。
評価はそれなりに高いようだ。
さて、利用者のエピソードを一つ紹介しよう。
ある女性は結婚を控えていた。
相手の男性はとても良くできた人物で、お互いの両親も仲がいい。
周りからは羨まれていたくらいだ。
ある時彼女は、何の因果かチラシを見つけてしまった。
そして、今後の結婚生活の障害を排除するためにサービスを利用した。
……してしまったんだ。
もうわかるだろう?
依頼してから3日後、結婚相手の男性が事故で亡くなった。
解体中のビルから落ちた鉄骨で身体が潰れてしまったんだ。
……それが依頼の結果なのかはわからない。
──だが彼女の中に疑念と安心が芽生えた。
それからは彼女はサービスのリピーターになったそうだ。
もしかしたらあの人が……という疑念とそれが排除された安心感には代え難い。だそうだ。
◇◆◇◆◇◆
未来はわからないからこそ、楽しみでもあり怖くもある。
それに株式会社モガモガは他にも面白いサービスを提供していてね。
それは、いつかのお楽しみにしておこうか。
タイトルの意味、か。
ことわざであるだろう? 「天に向かって唾を吐く」。
人に害を与えようとして、かえって自分に災いを招く例え、なんだが。
このサービスを利用して天に唾吐く行為は──どこに向かうのだろうか、と。
……ところで、君。
最近、怪我をしたり、妙なトラブルに巻き込まれたりしていないかい?
もしかするとそれは──
誰かに"依頼されたから"かもしれないよ?




