File04 -如何にして過去は未来を襲い来るか
いらっしゃい。
君がここに来るのも何度目になるのかな?手慣れたもんだね。
私も、君のことは飽きるぐらいに覚えてしまったよ。
少し嫌味だったかな?
ふふ。こういうやり取りも手慣れたもんだ。
ではいつも通り、話を聞かせてしんぜよう。
タイトル?
あー……タイトルも気に入っていると。
なら今回は「如何にして過去は未来を襲い来るか」としよう。
◇◆◇◆◇◆
とある女性の話だ。
ご多分に漏れず彼女もスマートフォンを持っているんだが、電話機能はほぼ使っていなかった。
今は便利なアプリがたくさんあるからね。
通話を従来の機能に頼ることはなかったらしい。
まぁ、その彼女なんだが、ある日スマホの留守電機能にメッセージがあることに気づく。
通知はなかったようで、何時吹き込まれたかといえば、3日前の午前2:32だった。
自分が気づかない夜中に留守電が入るなんて不気味だろう?
見知らぬ番号からの留守電など、誰にとっても気味が悪いだけの存在だ。
彼女の性格上、そういった物はすぐ消去する。けれど、その時は何故か再生してしまった。
流れてきたのは自分自身の声。
そして、過去の思い出話だった。
そりゃあ、驚いただろうね。
自分の声で、自分が覚えていない、赤ちゃんの頃の話をされるのだから。
あとで両親に確認したら、その内容もあっていたようだ。
それからというもの、何日かおきに留守電が入っていることがあった。
入るのは決まって夜中の1:00~4:00の間。
様々な思い出が入っていたようだよ。
赤ちゃんの頃玩具を掴んで離さなかったこと。
幼稚園のお泊り会でさみしくて泣いてしまったこと。
小学生の頃、虫歯無しで表彰されたことや、好きな子ができたこと。
中学生ではフルートの練習に明け暮れ全国コンクールに参加できたこと。
などなど……。
たった1分の留守電だけど、過去の思い出に浸れる、
彼女からしたら"ちょっとした幸せ"だったんだろう。
だが、それも少しずつズレていくことになる。
高校生の頃、イジメにあったこと。
大学生の頃、変なサークルに入り、それが原因で中退したこと。
その経験がトラウマになり精神科に通っていたこと。
いわゆる「思い出したくない思い出」が吹き込まれるようになってきた。
辛いのであれば聞かなければいいのに、彼女は留守電が吹き込まれるたびに聞いていった。
飼っていた猫が亡くなったこと、就職に失敗したこと、引きこもり生活をしていたこと。
そうして、その内容は"今"に近づいていく。
社会復帰先でパワハラにあったこと、その影響で男性不信になってしまったこと。
自分にはなにもないと感じていること。
……そして、消え去りたい、とすら思っていること。
過去はただの記憶じゃない。振り返るたび、未来へと重くのしかかってくる。
彼女はそれを、自分の声で知ってしまった。
漠然と、しかしながら確信があり、彼女の精神はついに限界を迎えてしまった。
どうやら入院したようでね。玩具の電話を相手に、ずっとなにかを喋っているようだ。
はてさて、その声は、一体誰に届いているやら…。
◇◆◇◆◇◆
今回の話は如何だったかな。
なぜ過去からの留守電があったか?
それはわからない。実際にあったことなのか、それとも彼女の精神が聞かせたのか。
確かなことは、彼女のスマホに留守電メッセージは登録されていなかった、ということだけだ。
タイトルはどういう意味なのか?
ふむ……屁理屈にはなるんだが。
私がこうして喋っている1秒前は過去であり、1秒後は未来なのだよ。
つまり"今"というのは『1秒に挟まれた刹那』でしかない。
「この瞬間にかける」などという表現がある。それは無意識下で"今"は瞬間的、刹那のものでしかないことを理解しているんだ。
よって人間には"今"は存在せず、『過去と未来』だけで形成されている。
よく、言葉遣いには気をつけよう、と言うだろう?
あれは、口に出した時点で過去になり、未来に影響を与えるからだ。
その結果、過去が未来を襲う、と言う事になるわけだ。
君もなにかを発言・発信する際は、内容は吟味することだ。
過去が、未来を襲いに来るからね。
まぁ、それは、この私にも言えることなんだが。
ふふ、お互い気をつけようじゃあないか。




