Last File -ストーリー・テラー
やっと来たか。待っていたよ。
……出迎え方がいつもと違う?
ふふ、今日は特別な日でもあるからね。
否が応でもテンションが上っているんだろう。
さて、君がここに来るのは何回目になるか。
いつも来てくれる君に敬意を表し、特別な話をしよう。
タイトルは……「ストーリー・テラー」だ。
◇◆◇◆◇◆
ある人物の話だ。
性別は男性か女性か……。受け取り手によって変わる。
ともかく、その人物は退屈していた。
毎日毎時間変わらぬ日常。
決まった時間に起き仕事へ行き、決まった作業をこなして定時に帰る。
食事はだいたいコンビニ弁当、決まり切った道しか歩かない。
そんな代わり映えのない生活。
その者は刺激を求めていた。
退屈な日常に、ほんの少しのエッセンス。
そんな「なにか」を求めていたんだ。
ある日、いつも通りの帰り道。
ふと、惹かれるように狭い路地に入っていった。そんなところに用はないのに。
ぼんやりと歩いていると、突き当りにこじんまりとした家を見つける。
家というより小屋くらいの規模感だろうか。
導かれるままに、扉を開け中に入る。
そこは、出入り口以外の3方を本棚に囲まれていた。
中央の文机にはアンティーク調のランプのみが、怪しげに部屋を灯す。
そして、ある一人のモノが居た。
これこそ求めていた刺激だ、と感激したのだろうね。
そのモノが披露する内容を拒絶することもなく、静かに聞き入る。
それこそ恐怖、狂気といった内容でもだ。
とても満足したんだろう。
スッキリした表情で帰っていったよ。
しばらくしたら、その人物は、また家に訪れる。
そうして、そのモノが語る話を聞く。その繰り返し。
様々な話をその身に、記憶に、魂に溜め込んでいく。
いつしか刺激も日常に変わる頃。
そのモノは特別な話をしてきた。
それは「代替わり」。
モノから者へ継承される儀式の一つだ。
話すものは知識を放出し、聞くものはそれを溜め込んでいく。
それこそが、ここでの代替わりの方法。
蓄積により、披露されたストーリー、齎されたテラーはいつしかストーリーテラーに変わる。
◇◆◇◆◇◆
さて、今回の話はここまで。
そして私が話すのもここまでだ。
これからは、君が新しい物語を紡いでいってくれたまえ。
いつだったかは忘れたが、忠告したはずなんだがね。
深入りはオススメしない、と。
その結果がこれだ。好奇心は猫を殺すとよくいったもんだ。
タイトルの意味?
この期に及んでそれを聞きたがるか……。ある意味逸材だな。
単純な話だよ。
私「テラー」を介して恐怖のストーリーを集めた君は、次のストーリーテラーになる、というだけさ。
話はここまでだ。
私は50年ぶりに、外の世界を楽しむとするよ。後は任せた。
……おいおい、聞いてなかったのか?
代替わりは成ったんだ。君が"今"からここの主人。訪れる者への「ストーリー・テラー」として頑張ってくれ。
キャンセルは受け付けられないね。
それに、こうも考えられないか?
こんな不思議な家の主、それはつまり。
君の求めていた「刺激」だろう?




