File03 -都市伝説.exe
んー……。
お、来てたのか?
すまない、気づかなかった。
いや、ちょっと頭の中を整理していただけさ。
この“中”には無数の話が詰まっていてね、たまに棚卸ししてやらないと。
そうだ、せっかくだし君にも手伝ってもらおうか。
難しいことはない。ただ話を聞いてもらうだけさ。
というわけでタイトルは「都市伝説.exe」。
◇◆◇◆◇◆
これは、私の友人でもある怪奇収集家「茂木 センテンス」氏から聞いた話なんだ。
……怪奇収集家ってなにかわかるかい?
そう。
各地を回って怪談や伝承、呪物や儀式などを集め、それらを語ることで糧を得る者たち。
言ってしまえば“ホラーの民俗学者”ってやつだ。
彼は特に熱心で北海道から沖縄まで実際に取材に行くほどフットワークが軽くてね。
それで怪談や地方の伝承、都市伝説など色々集めたようだ。
その中の一つ、都市伝説について、ある共通点を見つけたらしい。
それは、都市伝説はある種のルーチンであるということだ。
ルーチンがわからない?
ここでは、プログラムにおけるルーチンを指している。
「ひとまとまりの処理群」、あるいは「決められた手順で再現される一連の機構」だ。
氏の言うには、都市伝説には必ず"発動条件"があり、その後は決まった手順を踏む。
すなわち、それはルーチンとして書き換えられるということ。
たとえば有名な「口裂け女」なら、こうだ。
1. 対象者に「私、綺麗?」と尋ねる。
2. 「綺麗」と答えた場合 → マスクを外して「これでも?」と再度問いかける。
3. 「綺麗じゃない」と答えた場合 → 武器で殺傷行為に及ぶ。
4. どちらでもない答え → 別の処理ルーチンに分岐。
といった具合かな。
ね? 見事に"手順"だろう。
そしてこのルーチンは、現代社会のどこかに埋め込まれていて――
知らず知らずのうちに起動してしまった人間が、"都市伝説に遭遇する"。
……そういう話なんだ。
いや、あくまで彼の仮説ではあるけどね。
また、そういうルーチンだからこそ成り立つ都市伝説もあるのだと。
彼は八尺様とアクロバティックサラサラの関係がそうだと言ってたね。
八尺様のルーチンを親として、一部改変した子がアクロバティックサラサラなんだそうだ。
で、他の伝説や伝承にも当てはめられるのではと検証するため、
今日もフィールドワークに精を出している。
彼も頑張るよねぇ。
◇◆◇◆◇◆
今日は棚卸しだから軽めの話になったね。
私としては満足なんだが、君はどうだろう?
茂木 センテンスの話を聞けてよかった?
ああ、君はファンだったのか。彼も今や有名人だからねぇ。
タイトルか。
話した内容そのまんまだろう?特にひねりはない。
……ないんだが、氏がこの話をしてくれた時、一つの仮説を聞いてね。
このタイトルをつけようと思ったんだ。
その仮説は
「この世界は箱庭。上位存在によって作られた遠大なシミュレーションライフゲームである」
というものだ。
つまり、観察されるだけの存在ってわけだね。
なぜそう思い至ったかと言うと、
「上位存在に遊び好きなプログラマーが居て、暇つぶしに都市伝説の"実行ファイル"を作った。
それを各地の祠や廃墟に配置し、条件を満たした人間を対象にルーチンを実行する。
プログラムであるからこそ、地域差があるにも関わらず仕様……本質は一貫している。
つまり都市伝説がプログラム的だとすれば、我々の世界もまた作られた可能性が高くなるのでは」
とね。
彼は疲れていると突拍子もない事を言うんだが、この仮説は否定しきれない妙なリアリティがあった。
なぜって?
じゃあ聞くが、君は「都市伝説」という名称に疑問を持たなかったかい?
妖怪、幽霊、悪霊……
恐怖の呼び名はたくさんあるのに、なぜあえて"都市伝説"なんて新しい名称を作った?
それは、一連を分類しやすいように作った"命名規則"なんじゃないのかな。
プログラムの管理者が、ファイルを整理する時のラベル付のように。
世界は今も膨大なルーチンで動いている。
現代社会だって、それこそ──ここに来ている君だって、実行された結果かもしれないよ。




