File13 -Roulette、Rule・Let
やあ、ようこそ。
君の来訪を心待ちにしていたよ。
ふふふ、たまには挨拶を変えてみたがどうかな?
……そうか。次からはいつものに戻そう。
それでは早速話を、と思ったんだが。なかなか興味深いものを手に入れてね。
今回はそれを聞いてもらおうか。
いや、私が話すのではない。
録音を聞いてもらうんだ。
ある猟奇殺人犯の独白。タイトルは「Roulette、Rule・Let」としようか。
◇◆◇◆◇◆
俺は人生のターニングポイントになるものを、全部ルーレットで決めてきた。
人生ゲームのルーレットみたいな物を思い浮かべてくれればいい。
それを使って、物事を決定してきたんだ。
それこそ、物心ついたときから。
そう、全部だ。
高校、大学、就職先でさえも。
いやぁ、高校が地元の不良校だった時は参ったね。
それから大学は早稲田と来たもんだ。
そんな経歴の上で、仕事は零細印刷業で作業員ってわけだ。
ルーレットの女神様は波乱がお好きらしい。
……不良校なんてハズレと思うかもしれない。
そして、ルーレットにわざわざハズレを入れるなんて、って考えるだろう。
でも、それじゃあつまらない。
当たりもハズレも、全部含めて"ルーレット"なんだ。
そして、それがルーレットの選択であり、俺の選択なんだ。
それに、俺にとってはハズレじゃあないんだよね。
だってそれで上手く"回って"いたんだ。決して不幸ではない、幸運の女神さ。
そうして、その後もルーレットの決定に従った。
結婚したのも大きなターニングポイントだったなぁ。
奥さんはどんな人かって?
大学時代の同期だ。
見た目は、んー……人形焼きを想像してもらえればいいかな。
タイプではないけど、ルーレットの決定だから付き合ったよ。
いざ付き合ってみると可愛くてね。
で、結婚なんだけど。
もちろんするかどうかも、ルーレットさ。
「結婚する」「結婚しない」で回して、「する」が出たから結婚したんだ。
結婚生活は上手く"回って"たよ。
思いのほか楽しかった。ルーレットのおかげもあるけどね。
で、だ。
結婚しているし、それ以前に男女なんだ。
やることはやるだろう?
そうして、子供が出来た。
妻から、赤ちゃんができたって聞かされたときは、そりゃあ嬉しかったね。
だから早速ルーレットを回したのさ。
「男の子」「女の子」のマスでね。
そうしたら、「女の子」が出たんだ。
まだ赤ちゃんの性別はわからない時期だったけど、ルーレットが決定したんだ。
喜び勇んで、女の子用品を買い集めたよ。
それからしばらくして、赤ちゃんの性別がわかったんだ。
……男の子だったよ。
もう愕然としたさ。ルーレットの決定は「女の子」なんだ。
それなのに産まれてくるのは「男の子」だよ?
彼は――あぁ、赤ちゃんのことさ――彼はルーレットの決定に背いたんだ。
そんな事はありえないだろう?
俺はルーレットの決定で今まで幸福だったんだ。それなのに彼は決定に背くなんて…。
これは、もう、不幸にしかならないよ。
彼のすべてが、不幸で包まれている。
俺は妻に言った。
「ルーレットに背いた」「女の子なら幸せなのに」「子供が不幸なのは嫌だろう?」って。
でも、妻は俺がなにを言ってるのか理解できないみたいなんだ。
妻には失望したよ。子供をむざむざ不幸にするのかって。
だから俺はやり直したんだ。
なに、簡単なことだよ。妻を縛り、不幸になる子供を腹から取り除き、「女の子」になるよう精子を注ぐ。
腹を掻っ捌いて子供を見た時、「あぁ、なんて不幸な子なんだ」と思ったね。
だからこそ、「女の子」が産まれてくるように俺も頑張ったよ。
妻は泣き叫んで、俺のことを異常者とか言ってたな。
俺からしたら、子供の幸せを願わないのが異常に思うけどね。
でも、子供なんてすぐにできるもんじゃない。昔から十月十日っていうだろう?
それに妻もすぐ死んでしまった。
ルーレットの決定に背いたからだと、純粋に、そう感じたんだ。
最初から「女の子」を産んでいれば、皆幸せだったのにね。
それからは、もう……
◇◆◇◆◇◆
ここまでにしておこう。
興味深くはあるが、楽しい話ではないしね。
彼は、自分の奥さんと子供に対する殺害容疑で逮捕された。
この独白は、逮捕までの間に自分で吹き込んだようだ。理由は知らないけどね。
彼はなんでこんなことをしたのか?
ふむ…、あくまで私の考察だがね。
彼は、"選べなかった"のさ。
彼の価値観はルーレットこそ正義。だからこそ道を外れることは神に背くのと同義なんだろう。
子供が生まれる、新たな生命の誕生。彼の価値観では祝福することを"選べなかった"。
最初に言ったタイトルを覚えているかな?
Roulette、Rule・Let。
ルーレットはある意味運命だ。出目によって良くも悪くも左右する。
彼にとってそれは"ルール"、そのルールに縛られることを"許可"してしまった。
皮肉にも、運命を決めるはずのルーレットに決められてしまっていたのさ。
しかし、人間は不思議なものだね。
いや、なに、今回のルーレットに限らず、就職や結婚など、人生において選択することは様々だ。
──本来無数の選択肢があるはずなのに、なんで自ら可能性を狭めるのだろうか、って。




