シンデレラと呼ばないで
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※プロットを共有し、誤字脱字の確認や執筆の補助、構成の相談でGemini(AI)と協力しています
昔々、ある国になに不自由なく暮らしている一人の貴族男性がいました。
彼の二度めにもらった奥様というのが。
それはそれは、高慢で我が儘だったのです。
前夫との間にできた二人の娘を、連れ子として伴って嫁に来たのですが。
その娘達というのが、やはり何から何まで、母親にそっくりな我が儘娘でした。
父親には、前夫人から生まれた若い娘がおりました。
気だてのいい亡くなった母親そっくりの、この上なく素直で優しい娘です。
父と義母の結婚式が済むとまもなく、義母は早速意地悪い本性をさらけ出しました。
義母にとって、腹違いの娘が天真爛漫で優しいので自身の生んだ娘達の欠点が目立ってしまうことが、なによりも我慢できないことだったのです。
そこで、義娘に女中のする仕事を押し付けました。
お皿を洗ったり、食事を作らせたり、屋敷中の掃除まで。
更には自室を取り上げ、屋根裏の、蜘蛛の巣だらけな部屋とも呼べない空間に押し込め、藁の上で眠らせるようにしました。
そのくせ自身の娘達には、日当たりの良い大きく綺麗な部屋を与えました。
そこには、立派な寝台は勿論、頭から足の爪先まで映る大きな姿見もあります。
かわいそうな義娘は、何もかもじっとこらえていました。
父はすっかり義母に丸め込まれ、義母達とともに小言を言うばかり。
言いつけられた仕事で埃や灰まみれの異母妹を見て、義姉達はからかい半分にシンデレラというあだ名をつけました。
シンデレラはどんなに薄汚れた身なりをしていても、美しく着飾った二人の姉より綺麗でしたし、まして心の美しさは、比べものになりませんでした。
さてそんな日常を繰り返していたある日。
国の王子が盛大な舞踏会を催して、国中の淑女をお招きになると噂が立ちました。
シンデレラの義姉二人も、貴族の父を持つ娘になりましたので、例に漏れずお招きを受けました。
彼女達はのぼせあがって、ドレスよ、外套よ、アクセサリーよ、と。
毎日毎日選り好み、浮き足だっておりました。
おかげでシンデレラには、新しい厄介事が増えていきます。
義姉達のドレスの手入れや飾り縫いをするのは、シンデレラの仕事だったからです。
義姉達は朝から晩まで、おめかしの話ばかりしていました。
「わたしは飾りのついた赤いビロードのドレスにしようと思うのよ」
「お姉様はビロードになさるのね。ではワタシは青いシルクのドレスにしますわ。けれど、そのかわり金の花模様のマントを着るわ。そうして、ダイヤモンドのベルトをするわ。あれは世間にめったにない品物なんだもの」
義姉達は評判の良い商会を呼び。
髪飾りから靴まで、一分の隙もなしに流行の支度を整えさせました。
シンデレラもその場に置かれ、いちいち使われていました。
何しろ前妻に似たシンデレラは物の良し悪しの良く分かる子でしたから、義姉二人のためと一生懸命に工夫して美姫に仕立て上げたのです。
やがて待ちに待った、楽しい舞踏会当日になりました。
シンデレラは義姉達のお化粧も手伝います。
シンデレラに髪を結い上げてもらうなか、二人が笑いました。
「シンデレラ。おまえ、舞踏会に行きたいとは思わないの」
「まあ、お義姉様。私のような者が、どうして王城へと行くことができるのでしょう。お二人の足を引っ張るしかないわたしなぞ捨て置いてくださいませ」
「そうですわお姉様。灰だらけ娘を舞踏会に行けば、皆の笑い者にしかなりませんわ」
舞踏会の招待が届いた日に義母にも「お前が舞踏会へ行っても恥をかくだけ」と言われていました。
シンデレラはそれはそれは人のいい子でしたから、頼まれた通り立派に身支度を仕上げます。
お洒落に着飾った義姉二人は、支度を終えて待っていた父母とともに王城へと出掛けて行きました。
シンデレラは、じっと四人が乗る馬車が見えなくなるまで見送っていました。
その日の日暮れ、いつものように掃除を終えた暖炉のそばで休んでいると優しい魔法使いが現れました。
「さあ、この魔法の靴と馬車で舞踏会へ行くのです。王子様と踊れば、きっと幸せになれますよ」
差し出されたキラキラと光を反射する透明な靴を見て、シンデレラは静かに首を振ります。
「いいえ、魔法使い様。私は、私を蔑む家族から逃げ出したいのです。機会をくださると言うのでしたら舞踏会ではなく、違う道へと送り出してくださいませんか?」
魔法使いは驚いて、シンデレラをじっと見つめました。
「おやおや、なんという賢い娘さんだろう。誰もが王子を選ぶというのに…貴女は違うのだね。では、貴女は何を望むのか?」
「私に、新しい人生を歩むチャンスをください。この馬車で、誰も私のことを知らない遠い街まで連れて行ってほしいのです」
おやまあ、と魔法使いは驚きました。
シンデレラは、舞踏会で王子と出会う奇跡よりも、自分の力で生きていく自立|《道》を選んだのです。
魔法使いはシンデレラの意思を尊重し、カボチャを馬車に変えると、遠い街へと送り届けることを約束してくれました。
馬車に揺られながら、シンデレラはこれまでの人生を振り返ります。
過去の自分は、ただひたすらに耐え忍ぶことしかしませんでした。
しかし今、彼女の心は希望と不安で満ちています。
もし新しい街で仕事が見つからなかったら?
もしまた誰かに虐められたら?
そんな不安が頭を過る度、そっと胸に手を当てて、自分に言い聞かせました。
「私はもう、誰かに貶められながら生きることはしない」
夜が明ける頃、馬車は大きな街の入り口に辿り着きました。
街は活気に満ち、パン屋からは香ばしい匂いが漂い、市場では人々が楽しそうに会話を交わしていました。
魔法使いに深く頭を下げ、新しい一歩を踏み出しました。
最初に見つけた仕事は、小さなパン屋の手伝いでした。
慣れない仕事に、初めは失敗ばかり。
生地を焦がしたり、パンの形が歪になったり。
しかし、彼女は決して諦めません。
夜遅くまで残り、パン作りの練習をします。
その真面目な働きぶりに、パン屋の夫妻は感心し、大切なことをたくさん教えてくれました。
彼女が特に得意だったのは、小さなパンに可愛らしい動物の形をつけたり、花を飾ったりすることです。
彼女が作ったパンは、見る者の心を温かくし、子ども達に大人気となりました。
ある日、パン屋の主人は言います。
「君は素晴らしい才能を持っている。その手は、人々を笑顔にする魔法の手だ」
その言葉に、初めて自分に自信をもつことができたのです。
彼女はそれまで、自分の手を薄汚れた、灰まみれの手だと思っていました。
しかしその手でパンを作り、人々を喜ばせることができると知り、喜びが溢れます。
パン屋で働きながら、裁縫や刺繍の腕も磨きました。
休みの日は、町の仕立て屋や刺繍屋を訪れ、新しい技術を学びました。
彼女が作るものはどれも丁寧で美しく。
やがて街の人々は、彼女に服の繕いや刺繍を頼むようになりました。
昔の自身を苦しめた家事が、今は技術として花開いていることに気づいたのです。
そして、三年という歳月が流れました。
パン屋で貯めたお金と街の人々からの支援を受けて、ついに小さな自分の店を持つことができました。
店の名前は、『エラの小さな工房』。
パンやお菓子、可愛らしい刺繍が施された布小物など、エラの作ったものが所狭しと並んでいました。
この店はエラが自分の力で築き上げた、本当の居場所でした。
灰まみれじゃない、自分だけの人生。
エラは、過去の自分を憐れむことはもうありませんでした。
魔法使いがくれたのは舞踏会への招待状ではなく、人生をやり直す"機会"だったのだと理解しました。
そして暖炉のそばで泣いていた"シンデレラ"と呼ばれた娘が、もはや自分ではないことを知ったのでした。
この街に来てようやく、誰にもシンデレラとは呼ばれず、ありのままのエラとして生き始めたのです。
キラキラと希望に満ちた瞳と満面の笑顔は、見る者の心を照らし、優しさを伝染させていきましたとさ。
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