第6話 共闘 (後編)
新たな仲間との共闘です。
後編もどうぞ。
「ちょ、ちょっと!? なんで空飛んでんのよ!! 降ろしなさいよ!!」
ルミナは暴れるが、男は必死に手綱を握りながら応える。
「お前が罠にかかってたから助けただけだ! 勘違いしないでくれ!」
「助けたって、勝手に攫ってるじゃない!」
やがて男は仕方なく、やや開けた草地にペガサスを降ろした。
「……ほら、降ろしたぞ。もう落ち着いたか?」
ルミナは地に足が着くと、ふうっと息をついて怒りのこもった目を向けた。
「助けてくれたことには感謝するけど、あんな連れ去り方、びっくりするでしょ!」
男は肩をすくめた。
「それは……悪かったよ。俺はアバン。盗賊じゃあない。ただの通りすがりだ」
「ルミナよ。盗賊じゃないって、本当かしら」
そんなやりとりのなか、ルミナも徐々に落ち着きを取り戻していった。
だがその束の間——。
物陰に潜んでいた盗賊達が突如として襲いかかり、油断した隙にルミナは再び攫われてしまった。
「しまっ――」
アバンが声を上げたときにはすでに遅く、ルミナは複数の盗賊に引きずられていった。
「いやっ!アバン!」
その叫びを残して、ルミナの姿が谷間の影に消える。
「くそっ、油断した!」
アバンが追いかけようとしたその時、別の方向から足音が聞こえる。
「おい、そこの野郎!」
マルクとルキが駆けつけ、先頭のルキが憤怒の形相でアバンに斬りかかる。
「てめぇ、ルミナをどこにやった!!」
「ま、待て! 落ち着け!」
アバンはルキの剣をあっさり受け流し、距離をとって冷静に事情を話す。
「俺はアバン、この谷に巣食う盗賊の仲間じゃない。むしろ、あいつらの動きは把握してる。……アジトの場所もな」
「……信用できるか!」
「ルキ、やめろ」
静かな声が二人の間に、マルクが割って入る。
「アバンの言ってることを信じよう。僕たちだけで突っ込むのは危険だ。情報があるなら、ーーそれを使う」
マルクは冷静に判断を下し、アバンの作戦に乗ることに決めた。
作戦はこうだった。アバンが目立って盗賊たちの注意を引き、その隙にマルクとルキがアジトに潜入し、ルミナを救出する。
——そして夜明け前、計画は実行に移された。
アバンはアジトに侵入し、大声を上げて盗賊たちを挑発する。
「起きな!クズども! 俺が相手してやるぜ!」
「……なんだぁ?……敵襲だぁー!」
盗賊たちは飛び起き怒号と共にアバンに群がっていく。
多勢に無勢だったがアバンは傷を負いながらも華麗な槍捌きで応戦し、盗賊達を引きつけ続ける。
——その隙に、マルクとルキはアジトの裏手から侵入する。
「……いた」
檻の中に拘束されたルミナを発見し、マルクが素早く鍵を斬り落とす。
「マルクっ……!」
「無事か。行こう」
ーー三人が合流した直後、アバンの苦しげな叫びが響いた。
「今のは……ちょっと、やばいんじゃないか……!」
「アバンの元へ急ごう」
マルクたちは全力で駆け戻り、戦場に飛び込む。マルクが先頭に立ち、敵を薙ぎ払い、ルキは叫びながら突進する。
「うおおおおおっ!! 姉ちゃんの仇だあああああっ!!」
ルキの怒号が谷に響き渡る。三人が加勢したことで形勢は逆転し、ついに盗賊軍団は壊滅した。
地に座り込んで肩で息をするアバンは、ぼんやりと空を仰いだ。
「ひさびさに……本気で、戦ったな」
アバンは微笑み、立ち上がる
「俺は元々、ギルバディア王国の騎士だった。けど……戦争に絶望し、国を出た。兵士たちが降伏していく姿を見て、 もう戦うのが馬鹿らしくなったんだ」
沈黙のあと、マルクが口を開く。
「もう一度、共に戦おう。帝国に太刀打ちするために、君の力が必要だ」
少し間をおいて、槍を構えるアバン。
「……だったら、俺に見せてみろ。お前の『本気』を」
マルクは目を細めて、ゆっくりと構え直す。
「いいだろう。僕も、君の覚悟を見届ける」
ーー少しの静寂の後、アバンは仕掛けた。
アバンは連撃を叩き込み、空を裂くように槍を振るう。だがマルクはひとつひとつを的確に見切り、受け流す。
「重いだけじゃない……華麗な、槍捌きだ」
それはまるで、舞のような槍だった。力任せではない、研ぎ澄まされた技。
最後の一撃、アバンの大上段の突きをマルクが身を翻してかわすと、次の瞬間、逆にアバンの槍を払い、刃の先をその首元に突きつけていた。
……一瞬の出来事だった。
「……参った」
アバンが苦笑いしながら槍を落とす。
「俺の負けだ。見せてもらったぜ……あんたの本気」
マルクは剣を収め、静かに言った。
「君も……見事だったよ」
アバンは少しだけ目を伏せたあと、ゆっくりと頷く。
「……一緒に戦うのは、今じゃない。だけど、もう一度戦うことは決めた。俺は俺のやり方で、帝国に一矢報いる」
「その時が来たら、力を貸してくれ、アバン」
「こちらこそ……よろしく頼むぜ、マルク」
がっしりと手を取り合う二人。その姿を、ルキが腕を組んで見上げていた。
「ったく……とりあえず、一件落着だな」
「小僧も、またな」
「小僧じゃねえ!ーールキだ!」
ぷいっと顔を背けるルキの隣で、ルミナが小さく笑っていた。
こうして、谷を越えたマルクたち一行は、アバンとの再会を約束して、新たな旅路へと足を踏み出すのであった。