第3話 姉弟(前編)
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新しい仲間の登場です。
前編になります。
山道を歩いていたマルクとルミナは、前方から聞こえてきた怒声に足を止めた。
「やめろ! 姉ちゃんに触んな!」
声の主は少年だった。木々の間からのぞくと、数人の盗賊が若い姉弟に囲みを作っていた。姉と思しき女性は弟をかばい、その後ろに立っている。弟は震える手で棒切れを握りしめ、必死に姉の前に立ちはだかっていた。
「また盗賊ね……どうしてこうも懲りないのかな」
ルミナはそう言いながら、迷うことなく足を踏み出す。 指先に魔力を込め、軽く詠唱を唱えると、盗賊の足元から爆風が吹き上がった。
「な、なんだ!?」
驚きで身を引いた盗賊たちの隙を突いて、マルクも剣を抜いて飛び込む。鋭い踏み込みとともに、彼の剣が盗賊の腕を打ち落とし、そのまま後方へと薙ぎ払った。
「ぐあっ!」
一撃で形勢は逆転。残る盗賊も、慌てて森の奥へと逃げ去った。
「助かりました……! 本当に、ありがとうございます!」
姉は深く頭を下げ、礼を述べた。その隣で、弟は唇をかみしめながらも目をそらし、「余計なこと……しなくても……」と、つぶやいた。
「こら、ルキ! 助けていただいた方に失礼でしょ!」
「ふん!」
姉が叱ると、少年はそっぽを向く。
「お礼に……よかったら、うちの村に寄っていってください。こんな場所で助けていただいたご恩、ちゃんとお返ししたいですから」
姉はそう言って、マルクとルミナを招待した。
2人が案内されたのは、入り組んだ谷間の中にある小さな村だった。山々に囲まれ、隠れ里のような場所。盗賊の目も届きにくいこの村は、穏やかな空気に包まれていた。
ラキと名乗った姉は、穏やかな笑顔でマルクたちを迎え入れた。ルキと呼ばれた少年は、どこか突っ張った様子を見せながらも、姉の後ろに控えている。
「ここが私たちの家です。狭いですが、ゆっくりしていってください」
山奥のひっそりとした村にあるその家は、簡素ながらも清潔感があり、ラキの人柄がにじみ出るようだった。
部屋に通されたマルクたちは、軽く自己紹介と旅の目的を語る。ラキはしきりにうなずきながら、「最近は本当に盗賊が増えていて困っていたんです」とため息を漏らす。
その横で、ルキがじっとマルクを見つめていた。
「なあ、あんた……強いんだろ? 俺にも剣を教えてくれよ!」
突然の申し出に、ルミナはムッとする。
「生意気ね。ほんと」
「な、なにー!」
真っ赤になって反論するルキを見て、マルクは穏やかに微笑む。
「2、3日しかいられないが、それでよければ、少し教えてやろう」
「やった!」
翌朝、マルクとルミナは山菜採りの手伝いがてら、ルキを森の広場へと連れて行き、基本の構えから教え始めた。
「いい素質を持ってるな、筋がいいぞ。」
その言葉にルキは鼻をこすって、どこか誇らしげに笑った。
「俺さ、小さいころの記憶はあんま覚えてねえけど……ギルバディアの王国騎士の家に生まれたんだ。帝国に襲われて街が滅んで、母ちゃんと姉ちゃんと3人で逃げた」
その逃亡のさなか、盗賊に追われ、母親が身代わりに金目のものを持って囮となり、子供2人だけが逃げ延びたという。
「ずっと泣いてばかりでさ、毎日姉ちゃんに叱られてた。でも、ある晩、見ちゃったんだ。姉ちゃんがこっそり泣いてるとこ」
言葉を止め、ルキは拳を握る。
「あのとき思った。姉ちゃんだってつらいのに、俺が泣いてたらダメだって。だから、強くなるんだ。俺が姉ちゃんを守るって決めたんだ」
マルクは黙って頷き剣を構える。
「だったら、……強くならなきゃな。」
「……うん!」
力強くうなずいたルキの表情には、子どもらしからぬ決意の色が宿っていた。