第23話 援軍
ついにあの男が登場です。
バルナ編も終わりが近くなりましたがよろしかったら最後までどうぞ。
すべてが終わった——。
ルミナが絶望に飲み込まれそうになったその瞬間。
「ぐっ……!」
甲高い金属音と共に、帝国兵の胸元に一本の矢が突き刺さった。剣を落とし、兵はそのまま地に崩れ落ちる。
「な、なんだ……!?」
驚いたのは帝国兵たちだけではない。ルミナも、目を丸くしその方向を見た。
「ふぅ……行く道中、妖魔どもが多くて遅くなっちまった」
聞いたことのある声だった。
「なんとも、懐かしい顔を見たな」
その声音と共に、森の木立の間から姿を現したのは、大槍を持った長身の男、
——アバンだった。
「アバン……!」
ルミナの声が震える。信じられないというようにその姿を見つめた瞬間、彼女の身体から一気に力が抜ける。
アバンの背後には、ギルバディア兵たちが次々と現れ、弓を構え、整列していた。
「撃て」
アバンの短い号令と共に、怒涛の矢の雨が帝国兵を襲う。次々と矢が命中し、帝国兵たちは為す術もなく倒れていく。
「無事か!」
アバンは急ぎ駆け寄ると、ルミナと、倒れ伏したルキの様子を確かめる。すでにルキは意識を失っていた。
「小僧……お前も、戦っていたんだな」
アバンはその顔を静かに見つめ、背中に背負うようにして抱き上げる。そして、力の抜けたルミナを受け止めようとするが、ルミナもまた、安堵の中で意識を手放してその場に崩れ落ちた。
アバンは二人の身体をしっかりと抱え、兵たちに声をかける。
「援護を頼む。一度、こいつらを運ぶ」
アバンの隣にいた赤髪の男は即座にうなずき、兵たちに突撃命令を下す。
「ギルバディア騎士たちよ!バルナの地で暴れ狂う、無法者に今こそ鉄槌を下すのだ!」
号令と共にギルバディアの屈強な兵士たちが、あたりの帝国兵と妖魔たちを一掃する。
「ぎゃああ!」
「こいつら、強えっ!」
鍛え上げられた剣技、無駄がなく統率された兵の進撃。都を移し、水面下で力をつけていたギルバディア王国兵は圧倒的な戦力差を見せつける。
——あらかじめ国境に配備された妖魔たちのせいで、戦線に立つのが大幅に遅れたが、やっとの思いで国境前を制圧しバルナに兵を向けるのであった。
しかし──王の間では。
すでに限界を超えていたマルクが、それでもなお、敵の前に立っていた。剣を支えにして立つその姿は、まさに朽ちぬ魂そのもの。
彼の足元には、すでに何十体もの帝国兵の亡骸が転がっていた。
「アリヴェルの騎士め……なぜ、そこまで……」
対峙する巨漢、ガンツが小さくつぶやく。息も絶え絶えなはずの男が、それでも崩れない。まるで意志だけで立っているようだった。
そんな光景を、皇帝は玉座に腰掛けたまま愉しげに眺めていた。まるで血に染まった劇を眺める観客のように。そこには一片の情のかけらも、なかった。
そしてついに——
「天晴れだ」
そう口にしたガンツが、マルクの肩口へと重い一撃を叩き込む。マルクの身体がよろめき、ついに膝をついた。
倒れゆく意識の淵で、マルクの脳裏に浮かんだのは、ルキとルミナの顔。あの小さな命たちだけは、どうか生き延びてくれ。
バルナ王国の燃やし尽くし、マルクの身柄を確保した帝国軍は足早に兵を引き上げた。
——帝国兵も完全に撤退した。国境付近を制圧し、バルナの城下に駆けつけるギルバディア兵を率いるアバンだったが……そこには以前のバルナの面影はなく、志半ばで力尽きた兵たちの骸と、すでにすべてを喰らい尽くした妖魔たちが、静かに支配していた。