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第21話 決別

次々と倒れていくバルナ兵。

マルクが過去に過去に語った辛い戦いが現実になってしまう。

果たしてルミナの決断は……


少し空けてまた投稿します。

マールの退却命令を受け、バルナ兵たちは涙ながらに剣を手に必死に退路を切り拓いていくが、やはり退却命令を受け入れられない兵も中にはいた。


「陛下ぁ……」


「見捨てるなんて……できねえよ……」


国王の日頃の優しさが、悲しくもこの戦場では仇となってしまった。


 そして、帝国の目的はただの勝利ではない。

——皆殺し。

 やがて王宮には火が放たれ、背を見せた者から順に、無慈悲な剣閃が襲いかかる。

前衛では、半妖のシュダが浮遊しながら、まるで舞うように笑みを浮かべ、次々と逃げる背中を切り捨てる。


「ほらほら、ちゃんとお逃げなさい」


悲鳴、炎、剣戟、崩れる瓦礫。王宮の空は、地獄そのものへと変貌していた。


——結界の前。

ルミナは両手を結界に押し当てたまま、震える膝を立て直すこともできず、ただ、俯いていた。


「……っ……なんで……なんで壊れないの……っ!」


いくら叩いても、魔法を打ち込んでも、結界はびくともしない。

何度も攻撃し、何度も傷を負わせた手を見下ろし、悔しさが波のように押し寄せる。

だが、その先に見えたのは、壁の向こうから吹き飛ばされる一人の男の姿だった。


マルク。


剛剣を振るうガンツに弾かれたマルクの背中が、結界のすぐ前まで転がり、叩きつけられる。

傷だらけのその背中が、結界越しにルミナの目前に横たわる。


「……マルク……」


ルミナは、唇をかみしめながら言った。


「……こんなの、嘘だよね……? ねえ、マルク……こんなの、夢でしょ……? こんな結末、私、信じない…………!」


「……」


「だって……私たち、ずっと一緒だったじゃない……旅して、笑って、泣いて……どんな時だって、そばにいた……!」


「……」


「そうだ……私もここに残る……、だって……一緒に戦うって、決めたんだから……。"最後"まで一緒に、マルクと……!」


ルミナは涙を溜めたまま、無理やり笑ってみせる。

——だが。


「ダメだ。」


マルクの声は、はっきりと、遮るように放たれた。

ルミナは、揺れる目でその背を見つめながら、首を横に振る。


「……いや……いやだよ。マルクを置いて行けない……!」


だが、マルクはゆっくりと上体を起こし、苦しげに、しかし優しい声音で言った。


「昔、言っただろ……ルミナ。——戦いは、残酷なものだって。」


その言葉に、ルミナの顔がひきつる。


「それに……僕は、まだ諦めていない。……だから、君も、諦めるな。」


そう言い残し、マルクは背を向けた。

剣を手に、再び帝国兵の群れへと……まるで死地に舞い戻るかのように、飛び込んでいく。


「マ、ルク……」


その姿が、遠ざかる。

何も届かない。何もできない。

ルミナは、がくりと膝をついた。


——どうして、わたしは、ここにいるだけなんだろう。

——どうして、なにもできないの?


悔しさも、悲しみも、怒りも、恐怖も、すべてが涙になって零れ落ちた。


マルクがかつて言った「戦いは残酷だ」という言葉。

それを聞いたあの時、ルミナはまだ、“本当の意味”を理解してはいなかった。

今、目の前の現実が、それを否応なく突きつけていた。


ルミナの肩が、嗚咽とともに、小さく震えていた。


しかし、マルクの瞳は、なおも燃える意志を宿していた。彼の視線は目の前の帝国兵たちを鋭く睨みつけ、その気迫にさすがのガンツもわずかに後退した。


「やれやれ……本当に、父親にそっくりだな……」

皇帝が、まるで懐かしむような声音で呟く。


「……なに?」

マルクは動揺を隠せず、声を震わせながら皇帝に問うた。しかし、皇帝は答えず、淡々と部下に命じる。


「捕えろ」


その頃、結界の外——。

ルミナは両手を結界に突き立て、俯いたまま動こうとしなかった。打ち据える拳にも力はなく、結界は傷一つつかない。悔しさと無力感が彼女を包み込んでいた。

どうすればこの結末を回避できたのだろうか。そんな事ばかりを考え、過去の選択の一つ一つを呪うばかりだった。


「こんなの……こんな終わり……」

震える声で、懇願するように呟く。


すると、突然……


パチンッ——。


「いつまでそうしてんだよ!」


ルキの怒声が響き、直後ルミナの頬に乾いた音が鳴った。思わず顔を上げたルミナは、目の前に立つルキを見つめる。彼は息を荒げ、険しい顔で叫んだ。


「しっかりしろよ! ……そんなだから、マルクに足手まといだって言われんだ!」


ルキの一言に、ルミナの目が大きく揺れる。そしてそのまま、強引に手を引かれ、彼女は立ち上がる。


「逃げるぞ!今はそれしかできねぇんだ」


後方でそれを見ていたマールは、微かに目を細めた。


「……それでいいのです。ルキくん」


そして、マールが剣を掲げ、結界外の帝国兵に立ちはだかった。


「退路は、私が切り拓きます。急いでください」


マルクは戦場の中で一瞬、背後の二人に視線を向ける。ほんの一瞬、彼の瞳が穏やかになった。マールはその意味を察し、小さく頷いた。

 今マルクのためにできる事は、ここにある二つの希望を未来へと繋ぐ事だ。

 マールはその思いを胸に刻み、迷いなく剣を振るう。そして、ルミナとルキは、王の間を後にした。


 

 ——だが、外の世界はさらに地獄だった。

妖魔の群れが咆哮を上げ、無残にもバルナ兵たちを蹂躙している。誰もが必死に逃げ、抗うが、次々に倒れていく。


その中を走るルキとルミナ。そして、彼らを守るようにマールが剣を振るい続ける。だが次の瞬間、空から羽のような何かが飛び、ルキの腕に突き刺さった。


「くっ……!」


転倒したルキとルミナ。その頭上に降り立つ、あの男——シュダ。


「猫の子一匹、逃しませんよ」


空から見下ろすその姿に、ルキは歯噛みしながら睨みつける。


「また、お前かよ……!」


「仲間を見捨てて逃げるなんて、ずいぶんと薄情ですねえ?」

嫌味な笑みを浮かべるシュダ。その言葉に、ルミナは俯いた。

今の彼女の心に、最も突き刺さる言葉だった。


だが——。


「うるせーぞ!鳥野郎っ!」


ルキが吠えた。


「マルクは、お前らなんかにやられねぇし……! 俺たちは、諦めねぇって決めたんだ!」


その声に、ルミナの中のなにかがまた灯る。マルクの「諦めるな」という言葉が、彼女の心に再び強く響いた。


「……ルキ…………ありがとう」


小さく呟いたその直後、シュダに向かって火球が飛んだ。直撃を受け、顔をしかめるシュダ。


「……っ、この……!」


「……周りを見てないのは、あなたの方よ!」

ルミナは鋭い声で言い放った。


その姿を見て、ルキは目を見張る。


「……ルミナ……!」


苛立ちを隠せなくなったシュダが、怒りの形相で突撃してくる。


「小娘がああああっ!!」


——その時、またしても剣がそれを受け止めた。


「女、子ども相手に腹を立てるなど……未熟な証拠です」


剣の持ち主は……マールだった。


ルミナとルキは、その背中に守られながら、再び駆け出す。


「……もう大丈夫。行きましょう、ルキ」


いつの間にか大きな成長を遂げていたルキに勇気づけられたルミナは、涙を拭い毅然とした声で言った。


「おう!」


ルキもそれに頷き、二人は闇の中へと、希望を捨てず走り続けた。


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