第2話 出会い (後編)
序章の後半になります。
お待ちかねヒロイン登場です。
意識を取り戻したマルクが、最初に目にしたのは、木漏れ日の差し込む天井だった。
全身に鈍い痛みがあり、動こうとすると身体中から悲鳴が上がる。
「おはよう」
穏やかな声が耳に届いた。視線を横に向けると、椅子に腰掛けていた少女が、ほっとしたように微笑んでいた。
「あなた、だいぶうなされてたけど……もう大丈夫よ」
マルクはしばらく声が出なかった。やがてかすれた喉で 「助けてくれたのか」と尋ねると、少女はこくりと頷いた。
「私はルミナ。一応これでも魔法使いよ」
「……ありがとう、ルミナ。僕は、マルク。
アリヴェル王国の……元騎士だ」
その言葉に、ルミナの瞳が微かに揺れた。
「アリヴェル……あなた、アリヴェルの人なの?」
「知っているのか?」
「うん。私も、アリヴェルで生まれたの。でも……今はもう……」
言葉を濁すルミナに、マルクは黙って頷いた。滅びた国を語るには、まだ心の整理がついていないのだろう。それは、自分も同じだった。
日が経ち、マルクの傷は癒え、ゆっくりと動けるようになった。穏やかな時間が流れていたが、それは長くは続かなかった。
ある日の午後、ルミナが外に出たまま帰らず、部屋には彼女の魔法道具が散乱していた。不穏な気配にマルクは立ち上がる。身体はまだ完全ではないが、もはや迷っている時間はなかった。
森を駆ける。小さな足跡を辿り、藪を抜けると、遠くで複数の男たちの声が聞こえた。そこには、ルミナの声も混じっていた。
「やめてっ、離して!」
マルクの目に映ったのは、縛られたルミナと、それを囲む数人の盗賊だった。
「抵抗すんなよ? 高く売る前に、少し楽しませてもらうだけだ。逆らうなら命はないぜ」
その言葉に、ルミナの瞳が恐怖に震える。だが彼女は、ぎゅっと目を閉じ、頭の奥に浮かぶ面影にすがる。
ーーどんなにつらくても、生きなさい。
あなたには、生きる理由がある……
幼い頃、母が繰り返した言葉が、胸を締めつけた。
(お母さん……)
ルミナは抵抗をやめた。
生きることは、逃げることじゃない。諦めることじゃない。どんなに辛くても、屈辱に耐えてでも、生きる。母が最後に教えてくれたその想いが、今も心の奥に息づいている。
(死んじゃだめ……絶対に)
その刹那、闇を裂くように、一閃――
「っ……!」
盗賊の一人が吹き飛ばされる。続けざまに、残る者たちも剣閃に倒れ、地に伏した。
「マルク……!」
「遅くなってすまない。大丈夫か、ルミナ」
マルクはルミナを抱き起こし、その身体をしっかりと抱えながら立ち上がる。
「……ありがとう」
そのときルミナは、彼の顔を見上げ、心の中で何かが変わっていくのを感じた。命を懸けて自分を守ってくれたこの青年に、強く心を奪われていくのであった。
翌朝、マルクは旅支度を整え、ルミナに別れを告げようとした。
「……本当に行くの?」
「僕は、アリヴェルの騎士として、王国を再び……」
「だったら、私も連れて行って」
マルクは驚いた顔をする。だが、ルミナは真剣だった。
「私だって、アリヴェルの人間だよ。……国の復興のために、私も戦いたい。魔法使いとしてきっと役に立ってみせるわ」
しばしの沈黙の後、マルクは言う。
「この先は辛い戦いになる。……覚悟があるかい?」
「……うん」
頷くルミナにマルクは少し微笑んだ。
「それなら、共に行こう。」
こうして二人は、荒廃した世界に希望の種を蒔くための旅へと歩き出した。
序章はこれにて終了です。
ここから出会いと別れと戦いの胸熱展開が待っていますのでお楽しみに。