第18話 開戦
戦場と化した王宮。勝利の女神はどちらに微笑むか。
短かったので、本日の後半戦です。
ガンッ——。
凄まじい衝撃が金属を通して全身に響く。
ガンツの振るう大剣が、マルクの細身の剣に叩きつけられた。重量も、力も、格段に上だ。それでもマルクは怯まず、一歩引いて受け流すように身を捻る。
「そら、よそ見なんかしてる場合かよ!」
怒鳴り声とともに、再び大剣が唸りを上げて横薙ぎに迫る。
だがマルクの目は、ちらちらと王の方に向けられていた。
——おそらくは、国王陛下は大丈夫だ。剣の腕は未だ衰えていない……だが。
今は老体、万全ではない。それがほんの僅か、彼の集中を削いでいた。
「お前のこと、よく知ってるぜ。俺も昔、アリヴェルにいたからな。ま、成り行きで帝国入りしちまったけどな!」
ガンツは笑う。そしてその笑いと同時に、力任せの一撃を重ねてくる。マルクはわずかに目を見開いたが、驚きに浸る暇はない。剛剣が風を裂いて迫る中、彼はただ、目の前の剣に集中しなければならなかった。
一方、王の間の奥——空中を滑るように舞い降りるのは、翼を持つ半妖・シュダ。
その眼前で、マールが剣を構えて立ちふさがる。互いに一歩も引かぬ攻防。
鋭い一撃の応酬に、周囲の騎士たちは身をすくめ、誰も手が出せない。
「さすが騎士長のマールさんですねえ」
軽口を叩きながら、シュダはするりとマールの剣をいなし、ふわりと後退する。
その動きにはどこか戦意の欠けた緩さがあった。見せているだけの剣技——それに気づいたマールの眉がわずかに動く。
「何を……狙っている」
「さあ? なんでしょうねえ?」
はぐらかすような言葉。目の奥では何かを測っているような光が煌めいていた。
マールは内心で舌打ちする。自分はここで足止めされている。だが、王のことが気になって仕方がない——。
その時だった。
ひゅっ、と風を裂く音とともに、横合いから鋭い一閃が飛び込む。ルキの剣。そして、直後に重なるように放たれた、ルミナの魔法の閃光。
「……おっと」
魔力の奔流がシュダの肩をかすめ、大きな翼の羽根を弾き飛ばす。
思わず距離を取るシュダ。表情にわずかな驚きが浮かぶ。
「これは驚いた……女子供かと思って油断しましたよ」
息を合わせた連携。真っ直ぐな意志の籠もった攻撃。
「半妖かなんか知らねえけど、ただ羽の生えた"鳥人間"じゃねえか!」
それを見た騎士たちは、はっと息を呑み、そして奮い立った。
「ルキに続け!」
「半妖なんかに怯むな、正義は我らの剣にある!」
次々と剣が抜かれ、帝国軍の兵士たちへ向けて駆け出す。
だがその勢いに呼応するように、さらに遅れて帝国兵たちが王の間へなだれ込んできた。
そして、バルナの兵たちも状況を察し、武器を手に帝国側に対峙する。
——火蓋は切って落とされた。
幾重もの剣が交差し、魔力が閃き、王の間が一瞬にして戦場と化した。