第17話 半妖
帝国が持つ人間兵器、"半妖"を前にマルクたちはどう立ち向かうのだろうか……
短かったので今日は二話あげたいと思います。
よかったら後半戦もどうぞ。
——暗殺計画は、失敗に終わった。
王の間には、ただならぬ緊張が走っていた。パルメシア皇帝、その両脇に控える四天王シュダとガンツ。そして、数人の帝国兵。その眼前に立つバルナ国王は、長い沈黙の末、ゆっくりと腰の剣を引き抜く。
「我が国が、悪政に塗れた帝国の傘下に下るとお思いか?」
流石は百戦錬磨のバルナ国王、計画の失敗に物怖じせずに、落ち着いた様子で剣を構える。それを見て、同行していた数人の帝国兵たちも少したじろぐ。
「残念だ……バルナ国王殿」
皇帝が不気味に呟くと、国王はほんのわずかに手を上げる。その合図を受け取り、王の間に続く扉の奥から伏兵たちが一斉に駆け込む。
「合図です、——行きましょう。」
だが……その場にいた誰もが直感していた。
これは、暗殺が失敗したことを告げる合図だと。
「やるべきことは変わりません。我々が守るべきものも」
マールは緊張に顔を強ばらせながらも、後ろの仲間たちに振り向くと、力強く言った。
その言葉に、ルキとルミナは無言で頷く。不安と恐怖に満ちた心を、その一言で何とか押しとどめる。
マールが剣を構えて王の間へ駆け込む。──その瞬間だった。
「──っ!」
風が裂けた。天井近くから舞い降りた男が、まるで一陣の嵐のようにマールへ斬りかかる。巨大な翼を背にしたその男の姿を目にした瞬間、ルキとルミナは言葉を失った。
「なんだ、あれ……!」
「半妖……あれが……」
シュダだった。華奢な身体にそぐわぬ力を秘めた斬撃、そして背中に広がる大鷲の様な翼。その姿は、人間のものではなかった。
マールは咄嗟に剣で斬撃を受け止める。火花が散り、床に鋭い音が響いた。
「ふふ、やはり伏兵が潜んでいましたか」
宙を舞いながら、シュダは楽しげに目を細める。
「偽りの同盟など、皇帝様はすべてお見通しです。あなた方がどこに潜み、どんな手を打つのかなど、半妖となり“千里眼”を得た私には、全て筒抜けです」
──そう。シュダは既に、鎧を纏ったマルクの正体にも、伏兵の位置にも気づいていた。すべてを見通し、ガンツに合図を送っていたのだ。
……半妖。妖魔の細胞を人間に取り入れた、神に抗う異形の存在。人間の知性と、妖魔の強靭な肉体を掛け合わせた、まさしく人間兵器。
シュダは、帝国の持つ禁断の魔術により、既に人間を超えた存在となり、異常なまでの五感を持っていた。
「空を、……飛んでいる」
「ば、化け物だ……」
バルナ兵の中には、初めて半妖を見たものも多く、蛇に睨まれた蛙のように動けずにいるものもいた。
一方ガンツは、斧のような大剣を肩に担ぎながら、マルクと対峙していた。人間離れした筋肉、腕の太さは丸太のよう。目の前に立つマルクを見て、まるで獲物を前にした猛獣のように目を輝かせている。
「マルク……! まさか、あんたと戦えるとはな!」
戦闘狂──その異名に違わぬ笑顔で、ガンツは楽しげに舌なめずりする。
その背後では、皇帝が不気味に笑みを浮かべていた。計画の失敗を喜んでいるのか、それとも──すべてが計算通りだという余裕か。
国王は数人の忠義なる兵と共に、皇帝を睨み据えていた。剣に込められた意志は、バルナ王国の意地そのものだ。
一方、マールを先頭に、ルキとルミナたちは半妖の恐怖に立ち向かおうとしていた。恐怖を超えてなお、その場に立つ理由がある。亡き国の誇りと、未来への希望と、守るべき者たちのために。
──帝国とバルナ王国、そして暗殺に失敗した側の覚悟が交差する、熾烈な戦いが、いま幕を開ける。