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第15話 決行前夜

覚悟を決めた三人。

決行前夜のショートストーリーです。

決行まで少し空けたいと思います。

作戦に加わることが決まり、ルキとルミナは改めてマルクとマールから暗殺計画の全貌を聞かされることになった。


 ーー作戦は、こうだ。


 同盟の儀式が始まる日、皇帝自らが帝国軍を率いて、バルナの王宮を訪れる。会場となる「王の間」には帝国側の屈強な騎士たちが参列してくると予想されていた。


 その中で、バルナ王国は意図的に皇帝の警戒を緩めるよう、少し離れた位置に鎧を着せた一般兵を数人配置するという布陣を敷く。だが、その一般兵の中にこそ、マルクが紛れている。儀式の最中、皇帝の護衛が一瞬でも離れる隙を突いて、マルクは剣を抜き、皇帝へと斬りかかるのだ。


 暗殺が成功しても、すぐにその場は戦場となる。マルクはその場を制しながら後退し、王の間の外で待機していたルキとルミナが、バルナの騎士たちと共になだれ込んで帝国兵たちを蹴散らす。全ては一瞬の決断と連携にかかっていた。


「……つまり、マルクが最初に斬りかかって、俺たちは援護に入るってわけだな」


 真剣な面持ちでシミュレーションに臨むルキ。何度も剣を振り、駆け寄るタイミングや距離感を確かめる。


 ルミナもまた、魔法の精度と発動の速さを徹底的に鍛えていた。


「もしものときは、私が絶対にマルクを守るから……!」


 その目に浮かぶのは覚悟と祈り、そして一筋の恐れ。それでも、彼女は足を止めることなく訓練を重ねた。


 あの日以降、マルクは少しずつ変わっていた。ルミナやルキと共に笑い合うことが増え、ふとした瞬間に明るさが戻ってきたように見えた。


 ——暗殺計画の決行日は着々とせまり、ついにその日に差し掛かろうとした前夜。三人は一緒に食事をとっていた。

 

 久しぶりに三人で囲む食卓には、穏やかな笑い声と、どこか懐かしいぬくもりが満ちていた。


「聞いてよマルク、ルキったら訓練場で――」


「うるせーな! 余計なお世話だよ!」


 そんなやり取りに、マルクはふと口元を緩めた。


 ……こんなふうに自然と笑えるようになったのは、いつからだっただろう。


 家族を失い、国を焼かれ、戦いの中で仲間を次々に失った。

 自分には、ただ剣を振るうことしか残されていなかった。

 何もかも失ったあの日から、マルクはただ、自分の死に場所を探してさまよっていたのだ。


 一人で戦い、一人で終わればいい。

 そう思っていた。そうすることで、誰にも何も背負わせずに済むと信じていた。


 ……けれど。


 気づけば今、隣には笑い合える仲間がいた。


 ルキはまだ幼いのに、自分以上の苦しみを乗り越えようとしている。

 そしてルミナ。命を救ってくれた恩人であり、どこか懐かしい匂いのする、柔らかな存在。

 彼女が笑えば、なぜか心が温かくなった。

 その横顔を見ていると、もう少しだけ生きていたいと思う自分に気づいてしまう。


 ——守りたい。

 ただ生き延びるのではなく、この二人と、未来を歩きたい。


「……二人とも、絶対に死なないでくれ」


 ぽつりとこぼれた声に、空気がふわりと揺れる。


 それは、かつて心を閉ざしていた青年が初めて見せた、素直な願いだった。



「当たり前だろ。俺はマルクを超えるまで死なないぜ」


 ルキが笑って拳を握る。


「私は……アリヴェルの復興に全力を注ぐ……そしていつか、マルクと……」


そこで一瞬、言葉が詰まる。けれどマルクはその続きを、言葉にされずとも感じ取っていた。


 二人の視線が重なる。

 炎に照らされたルミナの瞳の奥に、確かに自分が映っていた。

 そのまなざしが、胸を締めつけるように熱い。


「……ルミナ」


 マルクが、微かに微笑む。

 その表情はどこか柔らかく、今までの彼からは想像もつかないほど穏やかだった。


 ルミナの頬がほんのりと染まり、しかし視線は逸らさなかった。

 言葉ではなく、ただ静かに手を伸ばし——マルクの手に触れる。


 マルクも応えるように、そっとその手を握り返す。

 互いの温もりが、たしかな絆として手のひらから流れ込んでくる。

 言葉はいらなかった。ただ、この瞬間、想いは通じ合っていた。


「マルク……」


 ルミナが小さく名を呼んだ、その時だった。


「おいおいおい、こういうのは全部終わってからにしろよな!」


 突如、茶々を入れる声が横から飛んできた。ルキだった。


 思わず手を離したルミナが、「子供のくせに……」とむくれてぼやくと、ルキは得意げに胸を張る。


「元はと言えば、俺がマルクの背中押してやったからこうなったんだぜ?」


 「え? どういうこと?」とルミナが怪訝な顔をすると、


「よしてくれ!」


 マルクが顔を真っ赤にして慌てて遮る。


 その様子にルミナも思わず吹き出し、ルキもケラケラと笑った。


 夕暮れの穏やかな風が、三人のまわりをやさしく撫でていった。

 それは束の間の平穏だったが、確かに心を満たすひとときだった。


 

 ーーそして、帝国とバルナ王国の同盟が結ばれるその日が、訪れようとしていた。

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