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第14話 説得

暗殺計画の事を知り、居ても立っても居られないルキとルミナ。

果たしてマルクの答えは……

 静かな応接室へと通されたルキとルミナ。マールは戸を閉め、二人の前に立つと、柔らかな声で問いかけた。


「……マルクさんから聞いたのですね?」


 二人は無言で頷いた。マールは目を伏せ、わずかに溜息をついた後、言葉を継いだ。


「そうですか……驚きましたが、こうなることも仕方のないことなのかもしれません」


 彼の言葉に、ルキが一歩前に出る。


「……マルクに断られたから、マールさんにお願いに来たんだ。国一番の騎士で、マルクのこともよく知ってるし……マールさんなら、なんとかしてくれると思って」


 真剣な目を向けてくる少年に、マールは少し目を細めてから口を開いた。


「……マルクさんから、あなたたち二人のことは聞いています」


 少し沈んだ口調だった。


「ルキくんは……家族を失って、でも剣の才に恵まれ、将来を有望視される子。ルミナさんは……何があっても失うわけにはいかない、大切な命だと」


 マールは淡々と、けれどどこか寂しげに続ける。


「だからマルクさんは、自分にもしものことがあった時のことを……あらかじめ国王陛下と私に願い出ていたのです。

『二人をこの地で養ってほしい』と。……その願いを、私は了承しました」


 静かな室内に、少しの沈黙が落ちた。まるで二人は、マルクの足手纏いだと言われたようだった。ルキとルミナは、その重くのしかかる現実に言葉を失っていた。


 やがてマールはふと、視線をルミナへと向ける。


「……ひとつ気になっていたのですが、マルクさんが言った "失うわけにはいかない命"とは……どういう意味なのかと」


 ルミナは少し目を逸らし、胸元に手を当てて俯いた。口を開きかけて、また閉じる。


 ーーもう隠すのは、やめよう。そう思いかけた、その時だった。


「そんなの……意味なんかない!」


 突然、ルキが声を荒げて叫んだ。部屋に響いたその声に、ルミナもマールも驚いて彼を見つめる。


「マルクは、ただ……ルミナが好きなだけだ! だから守りたい! それで全部だろ!?」


 ルミナは唖然として口を開いたまま固まる。ルキは真っすぐな瞳で言葉を重ねた。


「ルミナだって、マルクが好きだからこんなに悩んでるんだろ? そんなこと、ルミナの口から言わせんなよ!」


 その言葉に、ルミナは顔を真っ赤に染めて目を見開く。そして、ポロポロと涙を零した。驚きと照れと、そして少しの安堵が混ざったような、不思議な涙だった。


 ーー何も言えなかった。だけど、ルキのまっすぐな無邪気さに、救われた気がした。


(……ありがとう、ルキ)


 心の中で、ルミナはそう呟いた。


ルキの言葉で場が静まると、マールは少しだけ表情を緩め、軽く頭を下げた。


「……失礼しました。マルクさんは普段、色恋沙汰など全く口にしない方なので、そこまで深い思いがあるとは……私にも、分かりませんでした」


 その一言に、ルキもルミナもどこか安堵したように息をついた。


 そしてルキは意を決して言い放った。


「マールさん、俺たちも行くよ! ……だから……一緒にマルクのやつを説得してくれ!」


 ルミナは驚いたが、ルキの言葉に背中を押され覚悟を決め、そのまま言葉を継いだ。


「私もこのまま何もしないなんて、……できない……!」


 マールはほんのわずか目を伏せ、静かに考え込む。そして思い出していた。決して遊びではない、ルキとルミナの日々の努力を。


ーーそしてマールは決意した。


「……分かりました」


「ほんとか!?」

ルキが声を上げ、ルミナもぱっと表情を明るくした。だがその期待に水を差すように、マールは落ち着いた声で言った。


「ただ、私が力になれるかどうかは分かりません。ですが……やれる限りのことはしましょう」


 そう言うと、マールは部屋の外へ向かって軽く声をかけた。控えていた王宮の従者にマルクを呼ぶよう命じる。


 

 ーーしばらくして、戸口の向こうから足音が近づき、扉が静かに開かれた。


「マール……? なんで、ルキとルミナが……」


 部屋に入ったマルクは、二人の姿を見て目を見開いた。声には明らかな驚きがにじむ。


「まさか……」


 そう呟いたマルクに、マールが前に出て言った。


「この子たちの話を、私も聞きました。二人とも……本気の様です。マルクさん、どうか二人の気持ちを、聞いてあげてください」


 マルクは一瞬だけ迷ったような目をしたが、やがて無言で頷いた。


 静かな時間の中、ルミナが一歩前に進み、意を決したように口を開いた。


「……マルク。あなたの気持ちは分かってる。私を大切に想ってくれてること、嬉しいって思ってるよ。でも……私は

"一人の魔法使い"として、あなたと一緒に戦いたい」


 その言葉には、迷いのない強さがあった。


「私はただの少女じゃない。日々積み重ねてきた力を……

きっと役立てて見せる」


 横でルキが頷き、強く言い添える。


「俺だって、剣も鍛錬も頑張ってきた。マルクが思ってるより、俺らずっと強くなってる。……だから、一緒に戦わせてくれ」


 マールも穏やかな眼差しをマルクに向けて言った。


「私も、この二人の日々の努力はよく知っています。逃げず、怯まず、ただ前を見て……立派に歩いてきた子たちです。どうか、彼らの覚悟を認めてあげてください」


 マルクは、静かに目を閉じた。


 ーー訓練の時に見せたルキの必死な顔。初めて剣を振った日、ルミナの魔法で助けられた時、旅の中で交わした何気ない会話、笑顔、涙。


 幾つもの思い出が、心の中に浮かんでは流れていった。


 

 ゆっくりと目を開けると、マルクは微笑みながら、二人に向き直った。


「……分かった。もう、止めない。君たちがそこまでの覚悟なら……一緒に戦おう」


 その言葉に、ルキはガッツポーズを作り、ルミナは再び涙を浮かべて微笑んだ。


 こうして、一度はバラバラになった三人の覚悟が再び、ひとつになった。

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