表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/27

第11話 宴

2人の関係性が徐々に進む王道展開です。

どうぞ見守ってあげてください。

 翌朝、三人はバルナ国王より王宮で催される宴への招待を受けた。


 だがその朝の空気は、いつもより幾分か重かった。前夜の気まずさを引きずっているのか、マルクとルミナは互いに視線を逸らし、言葉も交わさないまま王宮への道を歩いていた。


 「……なんで俺までこんな服着なきゃいけないんだよ……」


 ルキがぶつぶつと文句を漏らす。身体に合わないかのような華やかな礼服に袖を通し、慣れぬ歩き方にぎこちなく足を運んでいた。一方でマルクはいつも通りの落ち着きで、

バルナ王国の騎士たちと挨拶を交わしながら談笑していた。


 宴の準備は進み、やがて豪華な料理が並べられた大広間で賑やかな祝宴が始まった。ルキは早速テーブルの料理に夢中になり、次から次へと口に運ぶ。


 だが、その場にルミナの姿はまだなかった。


 彼女はまだ衣装室にいた。ドレスに着替えさせられ、鏡の前でメイドの手によって化粧を施されていた。けれどその表情は冴えず、どこか遠くを見つめるような目で黙って座っていた。


 そんな彼女を見ていた中年のメイドが、ふと優しい声で呟いた。


 「……恋ですね」


 ルミナはハッとして、思わずメイドを見つめた。


 「えっ……?」


 「相手は……マルク様、でしょう?」


 図星を突かれたルミナは、頬を赤らめながら視線を逸らした。


 「な、なんで分かったの……?」


 メイドは穏やかに微笑んだ。


 「だって、あんな素敵な殿方と旅をしていたら……好きにならない方が難しいでしょう?」


 ルミナは何も言えず、ただ俯いた。


 「でも……あの人、私の気持ちなんて、ぜんっぜん気づいてないの……」


 自信なさげな声で呟くルミナの肩に、メイドはそっと手を置いた。


 「それでも大丈夫。ほら、……あなたはとても、綺麗ですから」


 その言葉に、ルミナの瞳がわずかに揺れた。


 ――そして、ルミナは静かに会場の扉を開けた。


 ざわり、と場の空気が変わったのが分かった。


 煌びやかな照明の下、銀の髪に淡い桜色のドレスを纏ったルミナの姿に、男たちの視線が一斉に集中した。会話の途切れる音、息を呑む気配、そしてやがてざわめきが広がっていく。


 その異様な空気を感じ取り、マルクは振り返った。


 そして、彼女を見た。


 目を見開いたまま、言葉を失った。


 ルミナはうつむき、小さな声でマルクに問いかけた。


 「……どう、かな……?」


 しばらく沈黙が流れた。


 だが次の瞬間、マルクは柔らかな声で応えた。


 「……とても、綺麗だ」


 ルミナの瞳が潤み、ほっとしたように微笑んだ。


 そしてマルクは、そっと彼女の手を取った。


 「……踊ろう」


 ーー導かれるまま、二人は踊りの輪の中心へと歩を進める。宴の喧騒の中に、たしかな気持ちが交差し始めていた。


 宴の会場、その中央。華やかな音楽に身を委ねながら、マルクとルミナは静かに踊っていた。


 言葉はほとんど交わさない。それでも二人の視線は何度も重なり、互いの体温を感じるたび、胸の奥に秘めた想いが確かに通じ合っていくのを感じていた。


 「……よかったな」


 離れた席でそれを見ていたルキが、小さく呟く。ぎこちない二人の関係にずっと気を揉んでいた彼は、ようやく交わり始めた心に安堵し、胸を撫で下ろしていた。


 宴は賑やかに続く。豪華な料理、華やかな舞台、賑やかな笑い声。酒も進み、マルクの頬はほんのり赤く染まっていた。


 「……少し、酔ったかもな」


 静かに席を立ったマルクは、宴会場を抜けてバルコニーへと歩を進めた。夜風が心地よく、月明かりが静かに彼を照らしていた。


 数分後、ルミナがドレスの裾をたくし上げながら、追いかけるようにしてバルコニーへと現れた。


 「……やっと逃げられた。あの人たち、しつこすぎ」


 眉をひそめながらも、マルクの姿を見つけた彼女の表情は、どこかほっとしたものに変わっていた。


 「マルク、ここにいたんだ」


 「ああ、酔いが少し回ってな。風に当たってた」


 互いにどこか気まずさを抱きながらも、他愛もない言葉を交わす。少しずつほぐれていく空気の中、マルクがふいにぽつりと語り始めた。


 「昔……まだ子供だった頃。王城の中庭で、一人の女の子に出会った。銀色の髪に、凛とした瞳の……とても綺麗な子だった。名前も、身分も知らなかったけど、あの時の景色は今でも忘れられない」


 ルミナの瞳が大きく見開かれる。


 「その子が、ずっと……僕の初恋だ」


 ーーあぁ、気づいたんだ。


 ルミナは胸を押さえ、口を開こうとした。今こそ、胸の中にしまった“全て”を話すべきだと思った。

 だが、その瞬間。


 「話さなくていい」


 マルクがそっとルミナの肩に手を添え、柔らかく唇を重ねた。


 夜風が止まり、音楽が遠のく。


 ただ、月明かりの下で時が止まる。


 やがて唇が離れると、ルミナは顔を真っ赤に染めたまま、ぽかんとマルクを見つめていた。


 「今は……まだ、その時じゃない。君が何者であれ、僕の想いは変わらない。だから、君を必ず守る。そしていつか、アリヴェルを復興させて……君を、幸せにする」


 その言葉を聞いた瞬間、ルミナの瞳に涙が溢れた。


 「マルク……!」


 抑えていた感情があふれ、ルミナはマルクの胸に飛び込む。


 マルクはその小さな体を優しく抱きしめ、二人は静かに、夜の帳に包まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ