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第10話 バルナ王国

バルナ王国編始まります。

ここから物語が動いていきます。

どうぞ。

長い旅路を経て、マルク一行はついにバルナ王国へと辿り着いた。


 ーーバルナ王国は、かつてアリヴェル王国と正式な同盟を結ぶ目前まで関係を築いていた小国であった。しかし、その約束が結ばれる前にアリヴェル王国は帝国の手によって滅び、同盟は幻と消えた。


帝国は次なる標的として、バルナ王国に武力を背景とした圧力をかけていた。表向きには帝国に友好的な態度を示す

バルナだったが、その内側では、一矢報いんと策を巡らせていた。そのことを、マルクは以前にテスカから密かに知らされていた。


「帝国に屈したふりをして、機をうかがっている――」

テスカの言葉は、マルクの胸に深く刻まれていた。


その真意を胸に秘め、マルクは静かにバルナ王国への決意を固めていた。


王都に入ると、マルクはルミナとルキを連れ、そのまま王宮の門をくぐる。


「えっ、マルク……王宮って、どういうこと?」

戸惑うルミナの声に、ルキも目を丸くする。


だが、門番はマルクの顔を見るなり一礼し、すんなりと通してくれた。かつてアリヴェル王国の騎士で名を馳せたマルクは、バルナ王国でも知られた存在だったのだ。


「マルクって……やっぱりすごい人なんだな」

ルキがぽつりとつぶやいた。


王座の間では、バルナ王国の国王と、バルナ最強の騎士マールが出迎えていた。


「おお、マルク! 無事だったか!」

国王は立ち上がり、マルクの肩を叩いた。

「アリヴェル王国の滅亡はこの耳にも届いておる。そなたが生きていて、本当に嬉しいぞ」


「ありがとうございます、陛下。ご無沙汰しております」


互いに旧交を温めるように言葉を交わした後、マルクはルミナとルキを紹介する。


「この二人は、共に旅している仲間です。ルミナとルキと申します」


「おお、そうかそうか。マルクの友ならば、我が国の客人として歓迎しよう」


国王の笑顔と共に、マールも頷いた。


「あのマルクの剣が、再び正義のために振るわれる日を、我々は待ち望んでいたぞ」


その日の夕刻、三人は城下の最も格式高い宿へと案内された。


バルナの王都は、夜になっても灯が絶えず、露店や大道芸人が通りを賑わせていた。宿へ向かう途中、何人もの市民たちがマルクに声をかけてくる。


「おい、あれがマルク様だろ!」「本物だ、本当に生きてたんだ!」


歓声に照れながらも応えるマルクを、ルミナとルキは少し離れて見ていた。


「マルクって、やっぱり……有名なんだね」

ルミナがぽつりとつぶやく。ルキも頷く。


そんな中、今度は華やかな衣装を纏った娼婦たちの一団がマルクを取り囲んだ。


「まぁ、あなたが噂のマルク様?」

「アリヴェルのマルク様のお顔を見られるなんて光栄だわ」

「ちょっとお茶でもどう?」


思いがけない好意の視線に、マルクは頬を赤らめてうろたえる。


「い、いや……その、宿が……あの……」


どうにか場を切り抜けた三人は、ようやく宿にたどり着く。


「はぁ、参ったな……」

マルクは額をぬぐいながらも、どこか満更でもない表情を浮かべていた。


その様子に、ルミナの頬がぴくりと引きつる。


「……ふん。デレデレしちゃって」

ぷいと顔を背けると、自分の部屋へと足早に戻っていった。


ルミナは、宿屋の自室に戻ると、勢いよく閉めた扉にもたれかかり、そのまま滑るように床に座り込んだ。胸がざわつき、頬の熱が引かない。


(……なんで、あんなに怒っちゃったんだろ)


ルミナは自問するが、自分でも感情の正体がわからず、戸惑いだけが募っていく。けれど、先ほどのマルクの姿が脳裏から離れない。知らない女たちに囲まれ、慣れない様子で頬を赤らめていた彼。それを見て、思わず自分が腹を立ててしまったこと。


「やっぱり、わたし……マルクのこと……」


口にしかけて、ルミナはそこで言葉を止めた。胸の奥が、妙に苦しい。自分でも信じられない。でも確かに、あの感情は――


――嫉妬、だった。


その頃、ルミナに部屋を出られたマルクは、廊下で呆然と立ち尽くしていた。


「……なんであんなに怒っているんだ?」


自分の行動を振り返っても、思い当たる節がない。マルクは本気で分からず、首を傾げるだけだった。


そんな彼に、隣で様子を見ていたルキが、思わずため息をついた。


「いい加減、気づけよな……」


「ん? 何のことだ?」


「……もういい」


ルキは肩をすくめ、背を向けるように歩き出したが、ふと思い直して立ち止まると、振り返って真っ直ぐマルクを見た。


「なぁマルク、お前ってさ……女の子を好きになったこと、あんのか?」


「……好き、か」


マルクは問い返しながら目を伏せ、しばらく考え込んだ。そしてふと、遠い記憶が蘇る。


「……あった、かもしれない」


それは、まだマルクが少年だった頃――アリヴェル王国の王都でのこと。勝手に王宮の中を歩き回り、迷い込んだ中庭で出会った、一人の少女。


陽の光を浴びて輝く銀の髪。柔らかな微笑みを浮かべ、何かを読んでいたその少女は、今も鮮明に脳裏に焼き付いていた。


二人の視線が一瞬交わり、少年だったマルクの胸は大きく高鳴った。けれど、遠くから誰かが近づく声がして、マルクは慌ててその場を離れた。


「……あれが、初めてだったかもしれないな。誰かを……綺麗だって、思ったのは」


その記憶を語りかけるマルクの声が、ふと途切れる。


彼の頭の中で、いくつかの点が一気につながっていった。


――銀髪の少女。


――女王アリステラも銀髪。


――そして、ルミナもまた……銀の髪を持つ、謎の少女。


「……まさか」


その瞬間、マルクの背筋に冷たい電流が走る。彼の脳裏に浮かんだのは、アリヴェル王国の姫、アリシアの名だった。かつて自分が出会った少女。アリヴェルを愛し、魔法の力を持ち、そして……ルミナという名で旅をしている少女。


「そうか……ルミナは……」


小さく呟いたマルクは、そのまま何も言えなくなった。全てを繋げたときの衝撃に、言葉が出なかった。ベッドに倒れ込み、ぼんやりと天井を見つめながら、思考を巡らせる。


(もし、あの時の少女が……本当に……)


複雑な感情を抱えたまま、マルクの瞳は次第に重くなり、やがて静かな眠りへと落ちていった。

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