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1:大好きなお姉さまが婚約破棄されました(7)

 扉をノックしてから父親の執務室に入るものの、セシリアの心は少しだけドキドキとしていた。

 エレノアが父親から呼び出された。となれば、きっとジェラルドとの婚約解消――破棄の件だろう。だがそうだとしたら予定より少し早い。


「なんだ。セシリアも一緒なのか」


 セシリアの姿を見つけた父が、開口一番そう言った。


「お父様。セシリアには聞かせられないようなお話を、わたくしにするおつもりですか?」


 エレノアの口調は怒っているものではない。ほんのりと口角をあげ、冗談めいたもの。


「いや、そうではないのだが……。まぁ、座りなさい」


 父親の歯切れがなんとなく悪い気がする。


 それでも促されたソファにエレノアとセシリアは並んで腰を下ろした。目の前には両親が座っているものの、母親の目はどことなく憂いている。となれば、エレノアにとっては良くない話なのだ。


「ジェラルド殿下との婚約の件だ。婚約解消の手続きに必要な書類が送られてきたのだが……」


 やはりエレノアにとっては良くない話――王太子ジェラルドとの婚約解消の件だった。

 そんな姉にチラリと視線を向けたセシリアだが、テーブルの上に並べられた書類を素早く観察する。


(婚約解消を突きつけて、次の日に書類を送ってくるなんて……。だけど、やはりこれは予定より早い)


 国王から婚約解消のための資料が送られてくるのは、今日の午後だったはず。それなのにまだ昼前だ。


(もしかして昨日、断罪が始まる前に帰ってきてしまったから……未来が変わってしまった?)


 本来の小説の流れであれば、昨日の卒業パーティーの場で、エレノアはイライザをどれだけいじめていたかを晒される予定だった。


(だけど、本当にお姉様がイライザをいじめていたとは限らない。どこかできちんと話が聞ければいいのだけれど……)


 セシリアは横目でエレノアを見やる。それからテーブルの上に並べてある”婚約解消の手続きに必要な書類”に視線を向けた。


「もし、婚約を解消するならば、ジェラルド殿下側の落ち度ということで慰謝料を支払うとのことだ」


 それが目の前に並べてある書類に記載されている。


「だが、提示された金額はたったのこれだけだ」


 そこでバン! と父親がテーブルをたたき付けた。


「まるでエレノアにはこれだけの価値しかないような仕打ちじゃないか」


 あのような場で婚約破棄宣言を一方的にしたのはジェラルドである。特にその理由の説明もなかった。いや、あの後くどくどと理由を並べ立てエレノアを悪役に仕立て上げる予定だったのだ。


 そうなる前にセシリアがエレノアに帰ろうと言ってしまったことで、ジェラルドがエレノアに婚約破棄を言い出した理由が明確になっていない。もしかしたら、エレノアのいない場で言い訳でもするかのように、あの場に残った者たちに訴えたのかもしれないが。


「それにもう一つ。慰謝料として国預かりの領地もという話だが、このリストを見てくれ」


 父の言葉にエレノアが身を乗り出したところで、セシリアも真似をした。


「この場所……」

「さすがエレノアだな。ここにある土地は、国としてもたいした収入にならず、手を焼いている場所だ。そのような場所を我々に授けると……」


 忌々しげに顔を歪ませている。


「つまり陛下は、お姉さまが王太子殿下と婚約解消をされては、困るということですよね?」


 セシリアが明るい口調で言うと、三人から視線が集まった。


「セシリア?」


 エレノアが琥珀色の瞳を大きくして、セシリアをじっと見つめてくる。だからエレノアも姉に顔を向けた。


「お姉さま。陛下は認めたくないのですよ。お姉さまと王太子殿下の婚約解消を。だから、こんな安っぽい慰謝料と手のかかる場所を提示してきたのです」

「……つまり、エレノアにはまだ希望があるということだな? ジェラルド殿下とやり直せるかもしれない」


 父親の言葉に、「いいえ」とセシリアは力強く首を横に振った。勿忘草の髪も、一緒に揺れ動く。


「お父さま。昨日の殿下の様子を思い出してください。殿下の隣には誰がおりましたか?」


 セシリアの言葉に、三人は黙り込む。


「本来であれば、あの場所にはお姉さまがいるべきでした。それなのに、なぜかイライザさまがいらっしゃいました。それにイライザさまが着ていたドレス……あれは、殿下の瞳と同じ色のドレスです」


 たたみかけるセシリアの言葉に、三人は大きく頷く。


「お姉さまは、まだ殿下のことが好きなのですか?」

「え?」


 セシリアの問いにエレノアは顔をあげて、はっとした様子。


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