5:大好きなお姉さまと隣国へいきます(7)
シング公爵邸での晩餐の時間、セシリアの隣にはなぜかシオンがいる。じっくり見つめてしまったから、彼もセシリアの視線には気がついたようだ。
「なんだ、セシリア……もしかして、これが食べたいのか?」
フォークに肉を刺して、セシリアのほうに差し出して「あ~ん」とやりそうな勢いであったので、すぐにそれを制した。
「ちがいます。なんで、シオンさまがここにいるんですか?」
ここはコンスタッドの屋敷でシオンは王子だから、てっきり王城にいるものだと思ったのだ。
「なんで? それは招待を受けたからだな」
セシリアには拒まれた肉を、シオンがそのまま口元へ運んだ。
「なんでシオンさまが招待されるんですか?」
「こら、セシリア」
二人のやりとりを見守っていたエレノアだが、さすがに今のセシリアの言葉は失礼だと判断したらしい。
なぜならシオンはこう見えてもこのロックウェルの第二王子である。
エレノアに注意を受けたセシリアは「むぅ」と唇を尖らせた。
「まあまあ、エレノア嬢。かわいらしいじゃれ合いだよ。セシリア嬢、シオンは昔からこの屋敷に出入りしていてね。前も言ったかもしれないが、私から見たら弟のような存在なんだ」
シオンには三つ年上の兄、カインがいるはずだが、兄弟仲はイマイチだ。それもあって、彼はコンスタッドにべったりだったのだ。
「今日はシオンもここに泊まるからね」
さすがにそれはセシリアも予想外だった。また、自分でも気づかぬうちに「むっ」と頬を膨らませていたようだ。
コンスタッドは「そういう顔をしないんだよ」と笑っていた。
食事を終え、与えられた部屋に戻ったセシリアだが、シオンのことが気になっていた。
(シオン様は、お兄様とどうしたいのかしら……?)
あまり仲が良くないとは以前も言っていたが、その言葉からは「仲良くしたいのに」という想いも感じた。
(仲良く……仲良く食べられるものがあれば……二人で分け合って……)
そこでセシリアは、はっとする。
すぐに隣のエレノアの部屋へと向かった。
――コンコンコンコン。
扉を叩くと、すぐに中から返事があった。
「どうしたの? セシリア」
「お姉さま、陛下に見せる砂糖の件で相談があるんですけど……」
ロックウェルの国王との謁見は二日後だ。ちなみに明日は、コンスタッドがこの街を案内してくれる約束になっている。
「ちょうどよかったわ。わたくしも、それを考えていたところだったの」
こちらへ来なさいと、エレノアが促したので、姉の隣にちょこんと座る。
「ただ砂糖を見て、舐めてもらうだけではつまらないでしょう? 砂糖を使ったお菓子を、とも思ったのだけれど……。さとうきびがあれば、それを舐めてもらうのがわかりやすいのだけれど……」
だが、フェルトンの街からここまで、さとうきびを運ぶうちに味が落ちてしまう。
「えぇと、まずは……」
セシリアは、昼間にシオンと紅茶に砂糖を入れて飲んだことを伝えた。いつもモリスがやっていたことだと言えば、エレノアも「あぁ、そうね」と思い出したようだ。
「砂糖の味をみてもらうなら、紅茶に入れるのがわかりやすいと思います」
最初は砂糖なしで飲んでもらい、途中からスプーン一杯ほどの砂糖をくわえる。
「それから、わたあめも食べてもらいたいなって」
「そうね。せっかくモリスがわたあめを作る魔法具を準備してくれたしね」
モリスの作った魔法具は、見た目は小さなわたあめ機だ。
「ふわふわでやわらかいわたあめなら、誰でも食べられるかなって思います」
「あら? セシリアには特別わたあめを食べてもらいたい人がいる。そんな感じに聞こえるけど?」
エレノアは小悪魔的な笑みを浮かべ、セシリアの頬をツンとつついた。




