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5:大好きなお姉さまと隣国へいきます(6)

「シオンさま。お姉さまたちのところに行きましょう! 報告しないと!」


 はしゃぐセシリアに対し、シオンはどこか冷めた様子。


「シオンさま?」

「あ~。エレノアたちには、夕食のときにでも伝えればいいんじゃないか?」


 どこか棒読みのようなセリフの言い回しに、セシリアは逸る気持ちをぶつける。


「だって、近々、王城に行くんですよ? ロックウェルの王様に砂糖のよさを紹介しなきゃいけないのに……」


 コホンとシオンはわざとらしく空咳をした。


「今、エレノアは新しい事業について相談中なんだよ」


 そう言えって言ってたな……と呟いたシオンの声が、興奮しているセシリアには届いていない。


「新しい事業? 相談中? 誰とですか?」

「あ~。まあ、その話は置いといて、だな。あ~えぇと……セシリアも王城には来るのか?」

「え? あ、はい。その予定です」


 ふ~ん、と言いながら、シオンが紅茶をゴクリと飲む。


「やっぱり、美味いな。これなら、母上にも……」

「あ」


 そこでセシリアがぽんと手を叩いた。


「シオンさま。王妃さまに、わたあめを食べてもらいましょう」

「わたあめ……。あの白くてふわふわした砂糖か?」

「はい。モリスがわたあめを作る魔法具を作ってくれたんです。実は、それを持ってきました」


 えへへ、とセシリアは自慢げに笑う。


「あれなら、母上も喜ぶかな……」


 シオンを出産してから、体調を崩しやすくなった王妃を、彼は常に気にかけている。心のどこかに「もしかして自分が……」という気持ちがあるのかもしれない。


「はい、王妃さまも喜んでくれると思います。だって、ふわふわで甘くて、口の中に入れると溶けて。わたあめって、食べると幸せになりますよね?」

「幸せ……あ……まぁ、そうか。そう、だな……」


 何か考えているのか、シオンは歯切れが悪い。


「シオンさま。どうかしましたか?」

「あ、いや……」


 そう答えながらもシオンの目はセシリアを見ない。どこか見えない何かを追いかけるような、そんな視線。


「シオンさまは、王妃さまのことが大好きなんですね」


 セシリアの突然の言葉に、シオンは「な、何を言って……」と慌て始める。


「セシリアはお母さまが大好きです。今は、離れて暮らしてますけど……。お母さまにはお父さまがいるから、セシリアはお姉さまと一緒に暮らすことにしました」

「じゃあ。エレノアにも、そういった相手が現れたらどうするんだ? エレノアと一緒に暮らすような相手が現れたら」

「う~ん」


 いつも悩む問題だ。

 エレノアとは一緒にいたい。だけど、最近はその気持ちがセシリアのわがままなのではと思うようになってきたのも事実。


「……そうですね。お姉さまが幸せなら、それでいいです」

「なるほどな。おまえ、前に会ったときより、大人になったな」


 シオンがわしゃわしゃとセシリアの頭を撫でた。


「やめてください。髪の毛、ぼさぼさになっちゃいます」

「やっぱりさ、おまえ。十年後にはおれのところにこい。どうせその頃には、エレノアも結婚しているだろ?」


 シオンが言うように、十年後にはエレノアも三十歳に近い年齢になっている。


 本人に「私は絶対に結婚しません!」という強い意志がない限り、結婚しているはず。むしろ、周囲が結婚するようにと、次から次へと縁談を持ってくるという、それくらいの年齢だ。


「そうですね。お姉さまは、きっと結婚していると……思います……」


 その相手はコンスタッドなのだろうか。だが、そうなった場合、ケアード公爵家は誰が継ぐのか。


「だったら、おまえがおれのところに来ても何も問題はないだろ? 十年後だと、セシリアは……」

「十八歳です。だから、アッシュクロフの学園に通っています。卒業したくらい……?」

「よし。学園を卒業したらおれのところに来い!」

「う~ん。それはすぐには返事できません」

「なんでだ!」


 セシリアの答えが面白くなかったようで、シオンは不機嫌そうに顔をゆがませる。


「もし、お姉さまとコンスタッドさまが結婚したら、お姉さまはここに来ますよね?」

「まあ、そうなるな」

「てことは、セシリアたちが公爵家を継がなきゃいけないですよね? フェルトンの街のこともありますし……」

「あ~。なるほど、そういうことか」


 シオンも納得したというように、大きく頷く。


「わかった。おまえが学園を卒業したら、おれがおまえのところに行く!」


 自信満々にそんなことを言われ、セシリアは目を瞬いた。


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