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5:大好きなお姉さまと隣国へいきます(4)

 馬車が止まり、外側から扉が開けられた。


「ようこそ、シング公爵邸へ」


 馬車から下りるエレノアをエスコートするのは、コンスタッドだ。


「セシリア嬢も、どうぞ」


 父親であればセシリアを抱きかかえて下ろすところだが、コンスタッドはエレノアにしたときと同じように、手を取ってくれた。


「……モリスには、不要なようだね」


 モリスに差し出されたコンスタッドの手は、行き場を失った。


「お世話になります、シング公爵さま」

「セシリア嬢は、愛らしいね。シオンが首を長くして待っていたよ」

「シオンさまが?」


 ここでシオンの名が出てきたことに、セシリアは首を傾げる。


「そうそう、セシリア嬢。君はここに泊まらないで、王城に泊まったらどうだい?」

「いやです」


 セシリアは即答した。なぜそんな話になるのか、さっぱりわからない。


「セシリア、お姉さまとモリスと一緒がいいです。お姉さまが王城に泊まるなら、セシリアもいきます」

「私は王城なんて行かないよ。さっさと部屋を案内しなさいよ」


 聞いてもいないのにモリスが答え、不機嫌なままさっさと歩き始めた。


「そうだね。長旅で疲れただろう? すぐに部屋を案内しよう」


 コンスタッドは荷物の指示を出す。


 その隙に、セシリアはすかさずエレノアと手を繋いだ。これでコンスタッドもエレノアのエスコートをできないだろうという作戦だ。


「相変わらず、仲の良い姉妹だね」


 エレノアにべったりのセシリアを見て、コンスタッドは苦笑した。


 そんな彼は、歩調を姉妹に合わせ、ゆっくりと歩く。


 セシリアはきょろきょろと顔を動かす。見るもの見るものが新鮮だった。

 やはりロックウェル王国は、アッシュクロフ王国と異なる。それは建物の作りだったり、咲いている花だったり、些細なことではあるのだが。


 左右対称に広がる屋敷の真正面がエントランスのようだ。建物に一歩足を踏み入れると、セシリアからは感嘆の声が漏れる。


「うわぁ。高いですね」


 エントランスは三階分の吹き抜けになっていた。天井までがとにかく高く、セシリアはつい見上げてしまった。


「まずは、君たちの部屋に案内しよう。それから、サロンでお茶などいかがかな? それとも、少し休みたい?」

「私は寝るよ」


 モリスの言葉でコンスタッドは薄く笑う。それは、最初からモリスを期待していないと言うかのように。


「セシリアはどうする? わたくしは、今後のことも含めてシング公爵と話をしたいから……」


 そこで、ちらちらとコンスタッドに視線を向けるエレノアを見たら、ここは二人きりにすべきだろうと、セシリアの心の奥が訴える。と、同時に二人きりにさせては危険だとも。まるで天使と悪魔のささやきのような、正反対の考えに頭を悩ませる。


「セシリアは、お部屋で休んでます。ちょっと疲れました」


 セシリアの中で、二人きりにすべきだという意見が勝った。


「そうかい? では後で、お菓子でも運ばせよう。まずはゆっくり休みなさい」


 コンスタッドは、エレノアとセシリアにそれぞれ一つずつ部屋を用意してくれた。もちろんモリスにも。セシリアとしては、エレノアと同じ部屋で問題ないのにと思いつつも、その言葉はぐっと飲み込んだ。


 セシリアに与えられた部屋は、明るい雰囲気のかわいらしい客室だった。小ぶりの花柄の壁紙、明るい葡萄色の絨毯。エレノアの部屋はどんな感じなのか気になるところだ。


「セシリア様。私が身の回りの世話を担当させていただきます、ハンナと申します」

「よろしくね、ハンナ」


 アニーと同い年くらいだろう。セシリアがロックウェル王国にいる間、アニーには休暇を与えた。今頃、実家に帰っているはず。


「セシリア様は、お休みになられるとうかがいましたが……ベッドをお使いになりますか? それとも……」

「こちらのソファで十分です。一時間後に来てもらってもいいですか?」


 あまり長い時間眠ってしまうと、夜に眠れなくなってしまう。ふかふかのソファに身体を沈めたら、一気に疲れが襲ってきた。


「では、失礼します……」


 意識が途切れる前に、ハンナが部屋を出ていった。


 エレノアのこと。コンスタッドのこと。そして、砂糖菓子のことなどを考えていたせいか、夢にまで出てきたような気がする。


「……リア、セシリア。おい、セシリア。約束の一時間だぞ」


 名を呼ばれ、セシリアはぱっと目を開けた。


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