5:大好きなお姉さまと隣国へいきます(3)
「いってらっしゃいませ、エレノア様、セシリア様」
そう言って頭を下げて二人を見送るのはケビンだ。エレノアが不在となるので、その間の屋敷のこと、さとうきび事業のことなどなど、すべてをケビンに任せた。
しかし彼一人では手が回らないとのことで、二人の父であるケアード公爵も本邸とこちらを行ったり来たりする。
「ロックウェルか~。久しぶりだわ」
結局、モリスもロックウェルに一緒に行くことになった。理由は、さとうきびがちょうど収穫期を迎えていること。そして、エレノアやセシリアがいない屋敷はつまらないから。そんな理由である。
「セシリアは初めてです」
王都生まれの王都育ちのセシリアは、年に数回、本邸に足を運ぶくらいで、人生の大半を王都で過ごしていた。
だからこのフェルトンの街並みも新鮮だったし、これから訪れるロックウェルもどのような場所かと胸を躍らせる。
三人は、ケアード家の家紋が施された馬車に乗り込んだ。
護衛には公爵家の騎士がつき、馬車の四方を守る形で馬を走らせる。
しかし、エレノアは優秀な風魔法の使い手である。それに賢者モリスまでいる。仮に野盗などが襲いかかってきたとしても、彼女たちの魔法で吹っ飛ばすことも可能。
だからといって、それに気づくのが遅れれば、魔法を放つ前に捕らえられてしまうだろう。魔力を封じられたら、彼らを吹っ飛ばすこともできなくなってしまう。
だから、最低限の護衛は必要なのだ。
「まずは、王都のストンに向かうわ。そこでシング公爵と合流して、王都見学とか陛下に挨拶……」
「陛下に挨拶? ロックウェルの国王に会うんですか?」
セシリアは驚き、声をあげた。
「えぇ。このさとうきび事業なんだけど、正式にロックウェル王国の協力を得たいのよ。だから国王陛下にも挨拶と……砂糖をいくらかね。宣伝もかねて」
「私は行かないよ」
すかさず拒絶を口にしたのはモリスだ。
「やだよ、王城なんて。堅苦しくて息がつまる。それに、あのうさん臭い国王の顔を見るのもいやだ」
「ひどい言い方ね」
モリスの愚痴のような言葉に、エレノアは苦笑する。だが、モリスらしい。
「お姉さまは、ロックウェルの国王陛下に会ったことがありますか?」
「ないわね。あのままジェラルド殿下と婚約を続けていれば、学園も卒業したことだし、会う機会はあったかもしれないけれど……。それに、こっちの陛下にだってそうそう会えないのよ? まぁ、嫌というほど顔を合わせたのは、ジェラルド殿下ですけども」
言葉の節々に棘を感じた。セシリアは話題を変える。
「ロックウェルの国王陛下は、どんな人ですかね?」
つまりシオンの父親だ。きっとシオンに似ているのだろう。
「だって、ロックウェルの陛下はシオンさまのお父さまですよね? シオンさまのように意地悪だったらどうしよう……」
「ま、セシリアったら。かわいいわね。国王陛下は立派な大人よ? 小さなセシリアをいじめたりはしないわ」
「それだったらいいんですけど……でも、シオンさまのお父さまだから……」
急に考え込んだセシリアに、エレノアは心配そうに視線を向けてきた。
「セシリア。急にどうしたの?」
「いえ……お姉さまはロックウェルの国王陛下に砂糖を見せるんですよね?」
「そうね。まずは砂糖とはどういうものかを知ってもらわないと。甘い粉のようなものだと言っても、イメージは湧かないでしょ? でも、シング公爵やシオン殿下がすでに砂糖を渡しているかしら?」
「あ。だったら、わたあめを食べてもらいませんか?」
「わたあめを?」
セシリアは、シオンがわたあめを食べたときに、王妃に食べさせたいと言っていたのを思い出したのだ。
「国王陛下がいるなら王妃さまもいますよね?」
「絶対にいるとは言い切れないけど……シング公爵に確認してみるわ。どうせ、シング公爵の別邸に向かっているんですもの」
ロックウェル王国に滞在中、コンスタッドの屋敷でお世話になることになっている。
セシリアとしては、ものすごく微妙な気持ちだった。だが、他に頼るところがないので、コンスタッドの世話になるしかない。




