表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/57

4:大好きなお姉さまが狙われているようです(11)

 最後に工場の責任者に挨拶をする。責任者も商会に所属しており、以前は日用品を扱う商人だった。しかし、年々売り上げが減少する中、今後の方向性に悩んでいたところに、今回の砂糖製造の話が舞い込んできた。


 ボリスを中心に商会の仲間が集まり、砂糖事業に参加したい人たちの意見を一人一人丁寧に聞いてくれた。その意見を集約したものがエレノアに届けられ、彼女は各人の能力や状況に応じて仕事を割り振った。


 工場は順調に稼働しているが、生産量を増やすには工場の拡張が必要だ。フェルトンの街に人を呼び込むことも検討したが、街の広さや住居の問題を考えると、別の場所に新たな拠点を作る方が合理的だと結論づけた。


 それでも、エレノアがロックウェル王国に行くという話は、セシリアにとって寝耳に水だった。その衝撃が全身を駆け巡り、足に力が入らなくなる。


「セシリア様……?」


 従者の真似事をしているシオンが、心配そうに顔を覗き込んできた。それでもセシリアはぼんやりとしたままだった。


「きっと、わたくしがロックウェルに行くと言ったからよね。ごめんなさい、セシリア。この話は帰ってからゆっくり話しましょう」


 否定しないということは、その場かぎりのハッタリではないということだ。エレノアは本気でロックウェルに行くつもりなのだ。


 馬車に向かう途中、地面がふわふわと揺れているような感覚に襲われた。シオンがすかさずセシリアの手をぎゅっと握り、転ばないように支えてくれる。


「おい、セシリア!」


 工場のほうから元気な声が響いてきた。


「なんだよ、もう帰るのか! みんなと一緒におやつでも食べてけよ。みんな、セシリアに会いたがってるんだから」


 ずかずかと歩いてきたのはマイクだった。その後ろをキャシーが慌てて追いかけてくる。そして、マイクの頭をぽかっと叩いた。いつもの見慣れた光景だ。


「セシリア様、今日もマイクが失礼な態度を……申し訳ございません」

「あ、はい……」


 エレノアの話に衝撃を受けたセシリアは、上の空で応じる。


「おい、セシリア。元気がないな。どうしたんだ?」


 そう言いながら、マイクの視線はセシリアとシオンの繋いだ手に注がれている。


「こいつ、誰だ?」


 その言葉はシオンに向けられていた。


「うん、坊やはもう少し目上の人間に対する接し方を覚えたほうがいいね」


 穏やかに声をかけたのはコンスタッドだった。


「も、申し訳ございません! 今、勉強中でして……」


 キャシーが慌ててぺこぺこと頭を下げる。


「でも、坊や。面白いね。君がきちんと勉強して教養を身につけたら、私のところで雇ってあげよう」

「えっ! 本当ですか?」


 マイクはコンスタッドが高貴な身分の人物だと察したのだろう。たちまち態度を改めた。


「君は教会の子だね? 私はコンスタッド・シング、ロックウェルの公爵だ。親を失った子がいるように、子を失った者もいる。そうした者の中には子を望む者もいるが、ある程度成長した子を我が子として迎えるなら、どの子がいいか選ぶだろう? だから、選ばれるような人間になりなさい」


 コンスタッドの諭すような口調は、マイクの心に深く刺さったようだ。


「は、はい! マイクと言います。ありがとうございます、公爵様」


 エレノアですら手を焼いていたマイクを、コンスタッドは一言で手なずけた。そんな彼に、エレノアは感情の読めない視線を向ける。


「さすがですね、シング公爵。マイクは仕事はできるのですが、セシリアに対する態度に少々難があるのです」

「ふむ、彼を見ていればその理由はわかる。お互いのためにもライバルはいたほうがいいだろう? ただ、今の彼ではライバルにもなれない。だが、磨けば光る原石だ。私のところでみっちり鍛えれば、一年後にはその役割を担えるかもしれないね」

「あら? シング公爵は、フェルトンの将来を担う人材を引き抜きに来たのかしら?」

「優秀な人間、特に自分の利益になる者は誰だって欲するだろう? 私も聖人君子ではないし、欲もある。好いたものに対しては特に強欲だよ」


 そんな二人のやりとりを、マイクはぽかんと眺めている。


「では、マイク。きちんと大人の言うことを聞いて、勉強に励みなさい」

「は、はい! ありがとうございます」


 マイクが深く頭を下げると、キャシーも慌てて倣う。コンスタッドはひらひらと手を振って二人に別れを告げた。


 帰りの馬車は商会館の入り口まで来ていた。


 馬車に乗り込んだ瞬間、セシリアはエレノアを問い詰めた。


「お姉さま、ロックウェルに行くのですか? ここはどうするんですか?」


 あの場では誰かに聞かれるかもしれないと思い、ずっと我慢していた質問だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ