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4:大好きなお姉さまが狙われているようです(9)

 外から扉が開かれ、先にコンスタッドとシオンが降りた。あたたかな風が背を押し、フェルトンの街のざわめきが響いてくる。

 セシリアが降りようとすると、コンスタッドが力強く抱き上げた。


「うわぁっ」


 急に視界が高くなったセシリアは驚きと感嘆の混じった声をあげたが、シオンが不機嫌そうに不貞腐れている。地面が足についたときはシオンが「ほら」と手を差し出してきた。


「セシリアはすぐに転ぶからな」


 それは朝の散歩のことを言っているのだろう。反論できないセシリアは渋々とその手を握るものの、彼と手を繋ぐのは嫌いではない。


 エレノアもコンスタッドのエスコートを受けて優雅に馬車を降りた。


「おい、シオン。君は私の従者だからね。セシリア嬢のことは、きちんとセシリア様と呼ぶように」


 そういえば、そんな設定であったことをセシリアは思い出した。シオンは身分を隠してアッシュクロフ王国に来ているのだ。


「セシリア嬢もシオンを従者として扱うように。彼がロックウェルの王子だと知られると、いろいろと面倒だからね」

「わかりました……え、と。シオン、よろしくね?」


 セシリアもためらいがちに答える。


「セシリア様が転ばないように、手を繋ぎますね」


 先ほどまでの軽い口調から一変したシオンの丁寧な話し方に、心の奥がむず痒くなった。


「では、エレノア嬢」


 コンスタッドもエレノアをエスコートしようとしたが、彼女はきっぱりと断る。


「わたくしたちは視察に来ているのであって、デートしに来たわけではありませんから」


 それを聞いたシオンは笑いをこらえていた。

 セシリアも慌てて手を引っ込めようとしたが「あら、セシリアはいいのよ」と姉から言われてしまい、結局シオンとは手を繋いだまま。


「シング公爵。せっかくですから街の様子をご覧ください。こちらが街の中心部の入り口になります。大通りは真っすぐに商会館へと続いております。商会館の隣に教会、そして砂糖の工場があります」


 街の入り口からでも教会の尖塔はよく見える。


 大通りを歩きながら、エレノアは街の様子をコンスタッドに説明した。普段の賑わいや露店で売られている品々、最近では砂糖を求めて他から人が訪れるようになったことなど。


 その砂糖は、商会館で扱っている。砂糖事業はフェルトンの商会のものという考えに基づいているためだ。そしてその事業に出資し、指導しているのがケアード公爵であり、代理としてエレノアが動いている。


「砂糖を街の事業として扱っているので、砂糖を作っているのはあそこの工場だけになります。まだ始まったばかりですので、商会の事業として扱っております。物量が安定してきたら、商流を広げたいと思っているのですが」

「その一つが、私のところだと思っていいのかな?」

「はい。シング公爵にも砂糖の製造をお任せして、ロックウェルでの基盤を作っていただきたいのです。これからもっと砂糖が広がれば、粗悪な砂糖だって出回るかもしれません。粗悪な砂糖を本物だと思われたら困りますから、それを防ぐため、ロックウェルで正式な流通を確立したいと考えています」

「アッシュクロフのほうは問題ないのか? まだ、こっちだって砂糖の取り扱いは限定的だろう?」


 コンスタッドは、アッシュクロフ王国内に粗悪品が出ることを懸念しているようだ。


「ええ、ああ見えても父は外交大臣でしたから。国内外問わず、外部との交渉には長けているのです」


 二人の娘と愛する妻に囲まれてデレデレしているように見える父親だが、やるときはやることをセシリアも知っている。


 フェルトンで砂糖製造が始まったのは、ケアード公爵が技術者や職人を集め、工場や専用の魔法具を迅速に整えたおかげだ。彼らが協力したのも、公爵への信頼があったからこそ。


「今のところ、国内については信頼できる人たちと取引しておりますので、問題ありません。彼らのおかげで砂糖もじわじわと周知されつつありますし、こうやって砂糖を求めてフェルトンを訪れる者も増えているのです」


 セシリアたちがフェルトンの街に来たときは、この大通りもどこか寂しげな感じをしていた。観光のためにフェルトンを訪れる者もいない。


 しかし今では、見慣れぬ者も街の中を歩いているし、そんな彼らは明らかにフェルトンの街の人間ではない。


 彼らの目的は砂糖。もしくはそれらを使った菓子類など。


 このように砂糖が広まったのも、ケアード公爵が伝手を使って口コミで広めてもらった結果でもある。


 外部から人が来れば、彼らが寝泊まりするような場所も必要であり、もちろん食事も提供しなければならない。


 客が減って閉まっていた宿も再開し、食堂や酒場だってにぎやかさに溢れている。特に夕方になれば、工場で仕事を終えた人たちが、空かせたお腹を満たすためにどどっとやってくる。


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