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4:大好きなお姉さまが狙われているようです(8)

 昼食を終え、少し休んだところで砂糖を製造している工場へと向かった。

 オリバーは事務作業が終わらないため、領主館に残って仕事を続けるとのこと。そのため、セシリア、エレノア、コンスタッド、シオンという、先ほどから変わらぬメンバーで馬車に揺られている。


(シオン様のお母様は、あまりお身体が丈夫ではない。シオン様が生まれてから、さらに体調を崩して寝込む日が多くなって……だから、第一王子のカイン様との仲がうまくいっていないのよね……)


 先ほど耳にした、シオンと第一王子カインの関係が、幼いセシリアの心に影を落としていた。カインの話題になると、シオンの表情がどこか暗くなる。最初は喧嘩でもしたままここに来たのかと思ったが、そうではないらしい。


 カインは、母である王妃が病弱なのはシオンのせいだと考えている。それは喧嘩というより、深いわだかまりだった。


(そうか……だからシオン様は、聖女に会いにアッシュクロフへ……)


 セシリアは、目の前に座るシオンに思わず視線を向けた。


「……なんだ?」


 その視線に気がついたシオンが顔をあげる。


「あ、セシリアはぼんやりしていました」

「シオン。自分より小さな子をいじめてはならないよ? 気になる子だからって、ダメだぞ?」


 コンスタッドが茶化すように言う。


「おれはいじめていないだろ。スタンと一緒にするな。おまえのほうがどう見てもエレノアをいじめているぞ」

「そうかな? 私はそういうつもりはないんだけどね。でも、やはり好きな子とは少しでも話をしたいし、一緒にいたいよな」


 ちらちらと横目でエレノアを見るコンスタッドは、彼女の反応を見て楽しんでいる。だが、エレノアは微動だにせず、表情を変えない。


「シング公爵さま。しつこい男の人は嫌われますよ」

「そういうことだ」


 セシリアがぴしゃりと言い放つと、シオンも重ねる。


「スタンもさ。なんでエレノアの前だとそうなるんだよ。いつも通りにしていたほうが、エレノアにも好かれるんじゃないのか?」

「なっ……好きな人には良く見せたいって思うのは当然のことだろう?」


 エレノアを話題にして男二人は盛り上がっているが、話題の中心であるエレノアはどこか一点を見つめたまま、表情を変えなかった。


「お姉さま?」


 セシリアが不安になって声をかけると、ふっとエレノアの表情が和らいだ。


「あ、ごめんなさい。考え事をしていて」

「お姉さまがぼんやりするのは珍しいですね」

「えぇ……先ほど、シング公爵がおっしゃっていたでしょ?」


 まさか、コンスタッドの求愛をぼんやり考えるほど気にしていたのだろうか。


 それを察してか、コンスタッドからわくわくとした嬉しそうな気持ちが伝わってくる。まるで「かまって!」と言って尻尾を振っている大型犬のよう。


「やわらかい砂糖はないかって話」


 尻尾を振っていたコンスタッドが落ち込んだ様子がわかった。それをシオンが彼の肩をばんばんと叩いて励ましながらも、笑っている。


「やわらかい、ふわふわしたものってなんだろうって考えたの。ふかふかしたクッションには羽毛とか綿とかがつまっているでしょう? だけどそれもぎゅうぎゅう詰め込んだわけではなくて、空気をいれるからふわふわするのよね?」


 羽毛や綿だって押しつぶしたら硬くなる。


「粉の砂糖でも空気をたっぷり入れたらふわふわになるってことよね?」


 エレノアの言わんとしていることもわかる。だが、砂糖の粒子の大きさを考えても、あの状態で空気を含ませるのは難しい。だからふわふわにするには砂糖をもっと細かくしなければならない。


「砂糖の粒をもっと小さくしないといけませんね」


 セシリアも真剣味を帯びた声色で答える。


「砂糖は熱をくわえれば溶けますが……」

「冷めればまた固まるのか?」


 コンスタッドが話に入ってきた。


「そうですね。砂糖は熱によって溶け、冷めればまた固まります」


 エレノアが答えると、コンスタッドも真面目な表情で顎に手を当てる。


「あっ」


 そこでセシリアが声をあげた。しかし、目の前にはコンスタッドとシオンがいる。エレノアの話を聞いて頭の中に浮かんできた『わたあめ』をこの場で口にするのは避けたい。


「お姉さま」


 内緒の話だ。

 エレノアの耳元に唇を寄せたセシリアは、そこでこそこそと伝える。


「砂糖が固まるときに、糸状にすればいいのではありませんか? 蚕の繭のように」


 エレノアはそれに返事することなく、深く頷いた。


「なんだろう……好いた女性が私以外の人間とイチャイチャしているのを見せつけられた。姉妹だとわかっていても、とても悔しいんだが、なぜだ?」


 コンスタッドのその言葉は冗談かと思ったが、彼の表情を見れば本気だとわかる。


「だったら、おれたちも内緒話をするか?」


 無表情のままシオンが、セシリアの真似をしてコンスタッドの耳元に唇を寄せた。


「――ふぅっ」

「うわっ、お、おい。シオン」


 コンスタッドが慌てて左耳を押さえてうろたえ、シオンはいたずら大成功とばかりにケラケラと笑う。

 何が起こったのかわからないセシリアとエレノアは、顔を見合わせた。


「ちょっ……おまっ……耳に息を吹きかけるな。気持ち悪い」

「まぁ、シング公爵もそのような言葉遣いをなさるのですね」


 エレノアがからかうように言う。


「騙されるなよ? スタンのやつ、ここに来てからエレノアに好かれようと必死で、猫を五匹くらいかぶっているからな。化けの皮がはがれればこんなもんだ」

「やっぱりシオンさまとシング公爵さまは仲良しですね」


 セシリアののんびりした声が馬車内に響いたそのとき、遠慮がちなノックの音がした。


 いつの間にか、馬車は目的地に到着していたらしい。


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