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4:大好きなお姉さまが狙われているようです(3)

 セシリアはむくりと起き上がる。


 また何か夢をみたような気がするが、夢であるため覚えていない。目が覚めたらきれいさっぱり忘れてしまった。


 アニーを呼んで着替えをすませると、朝の散歩のためにエントランスへと向かう。


「おはよう、セシリア」

「おはようございます、お姉さま……」


 まだ少し瞼が重い。


「おはよう、セシリア嬢」


 聞き慣れぬ声に、はっと目を大きく開ける。


「お、おはようございます。シング公爵さま……」

「ほら、シオンも挨拶をしなさい」


 コンスタッドの言葉に促されるように、シオンも挨拶をする。

 コンスタッドよりもシオンのほうが身分は高い。だけど、シオンが従者という設定のためか、それとももともと二人はこんな感じなのかわからないが、シオンは素直にコンスタッドに従っている。


「おはよう」

「おはようございます、シオンさま」

「そういうことでね、セシリア。わたくしはシング公爵とお父様とお話があるの。砂糖事業の件について」


 朝から仕事とは、エレノアも忙しそうだ。久しぶりに父親がこちらにやってきたのだから、積もる話もあるのだろう。


「だから、いつものお散歩にはいけないの」


 エレノアが顔の前で両手をパチンと合わせた。


「その代わり、シオン様が一緒に行ってくださるそうよ?」

「え?」


 思ってもいなかった流れに、セシリアからは変な声が出た。え、というか、げ、というか、そんな声だ。


「なんだ。おれでは不満なのか?」


 滅相もございません。

 そうとでも言うかのように、ぶんぶんと勢いよく首を横に振る。


「では、シオン様。セシリアをよろしくお願いします。シング公爵、父のところに案内します」


 自然とコンスタッドが腕を差し出し、エレノアは少しだけ躊躇ってからそれを取った。


「ほら、おれたちも行くぞ。いつも、さとうきび畑に行っていると聞いたが?」


 ぶっきらぼうに言いながらも、シオンは手を出してきた。


「だから。おまえはこの手を取るんだよ。おれと手を繋げ。迷子になったら困るだろ?」

「ここはセシリアもよく知っている場所だから迷子にはなりません」

「セシリア様。こういうときは手を取ってください」


 アニーがぼそりと耳元でささやく。


 じっとシオンの手を五秒くらい見つめてから、その手を掴んだ。いつも繋いでいるエレノアの手とは違う手で、少しだけ変な感じがした。


「な、なんだよ」


 変な感じの原因を探るために繋いだ手を見ていたら、焦ったようにシオンが声をかけてきた。


「いえ。お姉さまと違うなって、そう思っただけです。シオンさま、いきましょう。さとうきび畑に案内します」


 外に出ると、朝のさわやかな風が頬をなでた。


「おまえは、毎朝、こうやって散歩してるって聞いたが?」


 シオンにそのような情報を流したのは誰だろう。だが、特に内緒にしておくような話でもない。


「はい。毎朝、お姉さまと一緒にさとうきび畑まで散歩をしています。そこで、さとうきびの状態を確認します……お姉さまが」

「もしかして、エレノアがいなければ、そこに行かなくてもよかったのか?」


 なぜかシオンの声色が低くなった。


「いえ。そんなことはありません。セシリアもさとうきびがどうなっているのか、気になります」


 ヒョロロロ~と、鳥の声が聞こえた。


 二人の後ろをアニーがついてきているが、それだって邪魔にならないような絶妙な距離を保っている。シオンと何を話したらいいかがわからず、アニーに助けを求めたいのに、微妙に遠い。


 モリスを誘えばよかったかもと思ってはみたが、彼女は夜遅く寝るから、朝も遅くまで寝ている。だいたい昼前くらいに起き出して、そこからさとうきびの成長に必要な魔法をかけていく。彼女の手にかかれば、北海道のように雪が降る場所も、沖縄のようにあたたかい場所になってしまう。四属性すべての魔法が使えるというのは、季節すら動かしてしまう魔法を使えるということ。


 それだけ強い魔法が使えるというのに、モリスの見た目はへらへらとしたおばさんというと怒られるので、お姉さんである。その見た目から、誰も彼女を賢者だとは思っていない。


「あ、モリスはあそこに倒れていたんです」


 何かしゃべらなければと思っていたセシリアは、四か月前にモリスが倒れていた場所を指差した。


「は? 賢者のばばぁ、本当に道のど真ん中に倒れていたのか?」


 シオンの言葉には、驚きの呆れが混じっている。


「そうなんです。こうやってお姉さまと一緒に散歩していたら、大きな荷物が落ちているなぁと思ったら、モリスでした。シオンさまもモリスに魔法を教えてもらっていたんですよね?」

「ん? あぁ、そうだな……。父親がどこからか連れてきた」

「シオンさまは、学校には通っていないんですか?」


 それはアッシュクロフであれば、シオンが学校に通う年齢だからだ。あのジェラルドだって十二歳の頃から通っていたのだ。


「ああ、そうだな。アッシュクロフには学校があるんだな。残念ながら、ロックウェルにはこっちのような学校はないからな。魔法は親が子に教える。だけどおれは、まあ、王族だから……それで、父親がモリスを連れてきた」


 モリスがひとり立ちした弟子というのが、シオンだったのだ。


「シオンさまも、もしかしてモリスのように四属性……?」

「残念ながらおれは賢者じゃない。でも、賢者じゃなくてよかったと、ばばぁを見て思った。なんか、あれはあれで大変そうだなと」

「そうなんですね?」


 一つ屋根の下で暮らしている様子を見ると、モリスは大変そうには見えない。むしろ、自由を謳歌しているというかなんというか。


 それをセシリアが口にした。


「それだけ、ここが合ってるんじゃないのか? あのばばぁに」


 シオンはどんなときでもモリスを「ばばぁ」呼びする。だけど、マイクがおばさんと言ったときには怒ったモリスだが、シオンがばばぁと呼んでもそれを指摘するようなことをしていない。


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