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3:大好きなお姉さまに新しい出会いがありました(7)

 フェルトンの街には、今日も甘い匂いがどこからか漂っている。誰かが砂糖を使った焼き菓子を作っているのだろう。


 砂糖を作る工場の稼働が始まって、三か月が経った。その間、セシリア念願の白い砂糖も作るようになった。


 さとうきびから白い砂糖を作るためには、さとうきび収穫後に二つの工程を経る。砂糖の素となる原料糖を取り出す工程と、原料糖から精製糖を取り出す工程だ。これらをそれぞれ前工程、後工程と呼んでいた。その原料糖を作るために必要となるのが、遠心分離機なのだ。


 さらにその砂糖を使って料理を提供する。甘いお菓子だったり、肉料理だったり。さとうきびの皮をむかずに、そのまま肉と一緒に煮込むと、肉がやわらかくなるというのもわかった。さらにトマトも一緒に煮れば、トマト煮込みができあがる。


 トマトが苦手なマイクも、これならトマトが食べられると喜び、教会の献立の定番メニューとなっている。

 この料理を出す食堂も増えているらしい。そしてわざわざこの料理や、他の砂糖を使った料理を食べるために、近隣から訪れる者もいる。お土産には甘い砂糖を使った焼き菓子。


 早いもので、セシリアがフェルトンの街に住み始めて六か月。両親と離れて暮らす寂しさはほんの少しあるものの、大好きなエレノアもいるし、信頼しているアニーもいるし、魔法を教えてくれるモリスもいる。


 それに先日の八歳の誕生日には、両親も本領からフェルトンにやってきて、お祝いをしてくれた。もちろんそこでは、白い砂糖、黒い砂糖をそれぞれ使ったお菓子がたくさんテーブルの上に並べられ、その光景に一番喜んだのは母親のシンシアだった。


 エレノアの十九歳の誕生日が二か月後に控えている。街の人が何かとそわそわしているのをセシリアは感じているが、さとうきび事業に奔走しているエレノアはそれに気づいていない。

 ボリス商会長やドイル神父夫妻からは、エレノアには内緒にするように言われているから、セシリアも大好きな姉には何も伝えていない。


 ただの大きな草だと思われていたさとうきびが、フェルトンの街を豊かにしている。砂糖はフェルトンの街だけでなく、近隣の町や村、そして王都、さらに隣国にまで少しずつ広がっていた。


 フェルトンの砂糖に興味を持つ者も出てきて、さとうきび畑を見学したいとか、砂糖を作る工場を見たいとか、そういった希望も受け入れている。ただ、その対応は商会に任せている。


 それもこれもエレノアの仕事が多すぎるからだ。さとうきびの生育状況の確認から始まり砂糖の生産計画および販路拡大について、必要経費と売り上げから今年の税金の計算、フェルトンの街に人を呼び込むための街づくり計画、などなど。領主館から出られない日も増えている。


 その代わりセシリアが領主館、さとうきび畑、さとうきび工場をアニーとケビンと一緒に見て回る。そうなるとやはり「エレノア様は?」と声をかけられるから、エレノアだってたまには街に顔を出したほうがいいと思っている。


 そんなエレノアに元に、一通の手紙が届いた。セシリアがケビンから預かって、エレノアに届ける。こうでもしないと、なかなかエレノアに会えない。いや、セシリアも忙しい姉の邪魔をしてはいけないと、そんなふうに気を遣うようになっていた。


「お父様から? どうされたのかしら?」


 セシリアから手紙を受け取ったエレノアは、急いで封を切り中身を確認する。


「お姉さま。お父さまからの手紙には、なんて書いてありましたか?」


 まだ両親が恋しいセシリアにとって、父親からの手紙であれば、どんな内容かとわくわくしてしまう。


「ロックウェル王国のシング公爵が、フェルトンの砂糖に興味を持たれているから、見学に来るそうよ。その間、領主館に滞在することになるから、準備をするようにって。あらあら、どうしましょう。忙しくなるわね。お父様も一緒に来られるそうよ」

「やったぁ~」


 今回は、隣国ロックウェルの貴族ということもあり、フェルトンの領主であるケアード公爵に打診したのだろう。今までの見学者とは異なる。だからケアード公爵も同伴すると、手紙で知らせてきたのだ。


「では、早速準備にとりかからなくてはね。明後日には来られるそうだから」

「シング公爵は、今は本邸のほうにいらっしゃるのですか?」

「そのようね。だけど、今回の訪問はお忍びのようよ」


 しっと唇の前に人差し指を立てるエレノアの姿は、普段より幼く見えた。

 エレノアが急いで使用人たちを集め、明後日に公爵が客人を連れてやってくる旨を伝える。


「あ、モリスに伝えないと」


 セシリアが声をあげる。

 モリスは、あれこれと騒ぐ人間が嫌いらしい。


 最近では、どこからか聞きつけたのかエレノア目当てに領主館にやって来る者もいる。それはフェルトンの街の人間ではなく、それ以外の者。むしろケアード公爵領以外の人間。そんな騒がしい人がやってくると、モリスが魔法を使って追い払っていた。


 今のところ、エレノアに求婚しようという心臓に毛の生えたような図々しい男性はいない。そうなる前に、モリスによって追い払われている。そしてエレノアは、そういった人物が領主館に来ていることすら気づいていない。


 王太子ジェラルドから婚約解消をつきつけられたエレノアだというのに、今となってはその事実がなかったかのように、彼女の周囲には人が集まり始めている。だからこそ、変な男は寄せ付けないようにと、モリスをはじめ使用人やら護衛の者が目を光らせている。


 さらに商会長、その組合員たちもエレノアを女神のように崇拝しているため、それとなく見張っていた。


 こうやってエレノアはみんなから守られているのだ。


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